( 財政:復興基金は初回資金配分が開始 )
財政面では、昨年設立が合意された7500億ユーロ(2018年価格、うち補助金3900億、融資3600億)規模の復興基金(「次世代EU」)の稼働が円滑に進んでいる。基金の中核となる「復興・強靭化ファシリティ(6725億ユーロ)」に関して、執筆時点(9月9日)時点ではEU27か国のうち25か国が基金の使途をまとめた「復興・強靭化計画」を提出しており、うち11か国は欧州委員会の審査と欧州理事会の承認を経て初回の資金配分がされている(図表16)。
現時点での配分総額は488.8億ユーロ(2019年のEUのGDP比で約0.4%、ユーロ圏加盟国でもGDP比約0.4%)であり、ユーロ圏加盟国への初回資金配分は大部分がなされたと見られる
5。なお、来年以降もEU全体の平準ペースでは年間約1500億ユーロの資金配分がされることになるが、計画の進捗次第で配分ペースが変わってくるため、引き続き計画の達成状況が注目される。
また、政治面ではドイツで9月26日に連邦議会選挙が実施される
6。
世論調査では8月以降にSPD(社会民主党)の支持率が急上昇し、これまで高い支持率を得ていたCDU(キリスト教民主同盟)・CSU(キリスト教社会同盟)や、春に支持率を高めた緑の党を上回っている。首相候補の世論調査でもSPDのショルツ氏の人気はCDU・CSUのラシェット氏や緑の党のベアボック氏より高い。
ただし、CDU・CSUや緑の党も一定数の支持は得ており、選挙戦ではこれら3党で議席が割れ、上位2党の獲得議席でも過半数に満たない可能性も高くなっている。その場合は、3党での連立政権を模索する必要があるが、現時点では、2党連立・3党連立のいずれの場合も、現連立与党であるCDU・CSUもしくはSPDが連立の核となる可能性が高いと見られる。政策の方向性は政権入りする党との交渉次第と言えるが、これまでのメルケル政権と比較すると、気候変動対応の加速、対中姿勢の慎重化、財政緊縮スタンスの柔軟化などが進むと見られる。これらの取り組みが漸進的となるか急進的となるかは連立交渉による部分も大きいだろう。
見通し作成においては、今後の(連立)政権については様々なシナリオが一定の蓋然性を持って考えられるため、前提を置かなかった。ただし、メインシナリオでは政策の方向性として気候変動対応はマイルドに加速、財政スタンスは過度な引き締めは回避されるとの前提を置いた(極端な政策に傾く可能性は小さいとしている)。
また、来年春にはフランスで大統領選挙が予定されている。
世論調査では現職の共和党前進マクロン大統領と、極右政党である国民連合(RN)のルペン氏の一騎打ちが想定されている。ただし、6月に開催された統一選挙では35%に届かない低投票率のなか、中道右派の共和党および中道左派の社会党が議席を伸ばし、共和党前進も国民連合も不振に終わった。大統領選の本格化はこれからであり、各党の大統領候補者選びなどに注目が集まるだろう。見通しのメインシナリオでは、フランスでも大統領選挙後も現在の政策からの修正は小さいとして作成している。なお、極右政党であるルペン氏の人気が高まるようであれば、金融市場に影響が波及する可能性もあるだろう。
5 なお資金調達計画では、長期債で約800億ユーロ(2019年のEUのGDP比で約0.6%)を調達予定としているが、まだ初回配分がされていない国で受領予定額の絶対額として大きい国はルーマニアやポーランドといった非ユーロ圏の国々である(図表16参照)。ユーロ圏加盟国で計画を提出していないオランダを除いて、「ユーロ圏加盟国の初回配分受領総額/(初回配分受領総額+未受領総額)」で初回配分額の消化割合を試算すると、95%程度となる(初回配分未受領国は計画の13%を受領するものとしてとして計算)。
6 詳細は伊藤さゆり(2021)「公約から考えるメルケル後の独連立政権と政策」『研究員の眼』2021年9月6日を参照