一方、取得率の低下幅が大きい業種は、「電気・ガス・熱供給・水道業」(2018年で14.5%、▲11.6%pt)、「宿泊業、飲食サービス業」(▲6.3%pt)、「鉱業、採石業、砂利採取業」(▲6.0%pt)であり、いずれも2018年では取得率が高順位である。
男性の育休取得率が高い業種の要因としては、(1)ダイバーシティ経営の強化に向けて戦略的に男性の育児休業取得等を促進している企業が多いこと、(2)育児休業等の両立支援制度を利用しやすい正規雇用者
3が多いこと
4、(3)職場に女性が多いなど従来から制度環境が整っていること、(4)裁量労働制など柔軟な勤務制度が浸透し、業務における個人の裁量の幅が大きいことなどがあげられる。一方で、取得率が低下した業種では、コロナ禍による雇用環境の悪化などが影響している可能性もある。
女性の2020年の育休取得率は業種によらず半数を超えるが、「情報通信業」(98.9%)や「複合サービス事業」(93.2%)、「電気・ガス・熱供給・水道業」(92.6%)、「運輸業、郵便業」(90.7%)では9割を超える一方、「鉱業、採石業、砂利採取業」(51.7%)や「不動産業、物品賃貸業」(54.8%)、「宿泊業、飲食サービス業」(58.7%)では5割台にとどまるなど業種による差がある。
なお、2018年から2020年にかけての女性の育休取得率の上昇幅は「運輸業、郵便業」(31.0%pt)や「建設業」(21.6%pt)などで大きい。これら男性が多く
5、働き方において旧来型の価値観が根強い印象を受ける業種であっても、近年の「女性の活躍推進」政策の効果等によって、仕事と家庭の両立環境の整備が進んでいるのかもしれない。
業種別に男女の動向を比べると、女性の育休取得率が高い業種では男性でもおおむね高い傾向があり、特に「情報通信業」は女性では2020年で100%に近く、男性でも3位を占める。
一方、男女の傾向が必ずしも一致しない業種もある。例えば、「電気・ガス・熱供給・水道業」は女性では育休取得率が9割を超えて3位を占めるが、男性では3%と、ごく僅かであり最下位である。また、「宿泊業,飲食サービス業」では女性では約6割と比較的低いが、男性では5位で全産業平均を上回る。
この背景には、業種による風土や雇用形態の違いの影響があげられる。例えば、業務における男女の役割分担が固定化しているような業種では、両立環境の整備が進む中で女性は育休を取得しやすくなっていても、男性は依然として育休取得の希望を言い出しにくい雰囲気が根強く残っている可能性がある。また、男女の雇用形態の違いの影響もあげられる。男性は育休を取得しやすい正規雇用者が多い一方、女性は雇用期間によっては制度の対象外となるような非正規雇用者が多いような業種
6もあるだろう。
2 廃棄物処理業や自動車整備業、機械等修理業、職業紹介・労働者派遣業、政治・経済・文化団体、宗教などが含まれる。
3 非正規雇用者の場合、(1)引き続き雇用された期間が1年以上、(2)子が1歳6か月までの間に契約が満了することが明らかでない、という2つの条件を満たせば育児休業を取得可能であったが、2021年6月の「育児・介護休業法」の改正(2022年4月施行)にて(1)が撤廃された。一方で三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「仕事と育児等の両立に関する実態把握のための調査研究事業 平成30年度厚生労働省委託事業 報告書」によると、女性非正社員が妊娠判明時に仕事と育児の両立の難しさで辞めた理由では「会社に産前・産後休業や育児休業の制度がなかった」(44.4%)が圧倒的に多いため、非正規雇用者の育休取得においては制度環境の整備とあわせて認知も課題である。
4 ニッセイ基礎研究所「新型コロナによる暮らしの変化に関する調査 第5回」によると、図表2・3の男性の育児休業取得率の上位5位の業種のうち、「宿泊、飲食サービス業」と「サービス業(他に分類されないもの)」以外は、いずれも20~74歳の男性雇用者のうち正規雇用者は8割以上を占め、特に「製造業」(87.7%)や「金融、保険業」(87.4%)で高い。
5 総務省「労働力調査(2020年)」によると、雇用者に占める男性の割合は「運輸業、郵便業」は78.7%、「建設業」は83.3%。
6 ニッセイ基礎研究所「新型コロナによる暮らしの変化に関する調査 第5回」によると、20~74歳の雇用者で「宿泊、飲食サービス業」従事者のうち男性は正規雇用者45.0%、非正規雇用者55.0%(男性はサンプル数が少ないため参考値)、女性は20.4%、79.6%である。