日銀「政策修正」後の変化と残された課題

2021年09月03日

(上野 剛志) 金融市場・外国為替(通貨・相場)

■要旨
 
  1. 日銀が3月に「政策点検」を行い、各種の「政策修正」を行ってから半年近くが経過した。政策修正後に最も顕著な変化が現れたのがETFの買入れだ。買入れペースが大きく鈍化した結果、「価格形成の歪み」、「企業統治の空洞化」、「日銀の損失発生リスク」といった副作用の増大も抑えられている。また、長期金利の変動幅もやや拡大している。日銀が国債市場の機能度改善のために変動幅の拡大を促し、一定の効果が現れた形だ。
     
  2. しかし、残された課題も多い。ETFに関しては、日銀の保有残高が減少したわけではないため、これまでに発生した「価格形成の歪み」や「企業統治の空洞化」、「日銀の損失発生リスク」まで解消したわけではない。また、将来的に保有する巨額のETFをどう処理していくのかという点も未解決だ。長期金利についても、以前よりはやや変動するようになっただけで、国債市場の機能度の十分な改善が確認できたわけではない。
     
  3. 政策修正で特段の是正策が採られなかった超低金利の副作用も課題として残っている。銀行の収益圧迫が続いていることで、将来、金融仲介機能が停滞するリスクや金融システムの脆弱性が高まるリスクが燻る。また、日銀は「超長期金利の過度な低下はマインド面などを通じて経済活動に悪影響を及ぼす可能性がある」と認めているが、超長期金利の低迷は続いている。日銀の国債保有残高の拡大が続いている点も課題と言える。日銀のバランスシートに低金利(高価格)の国債が積み上がっていくことは、将来の含み損や逆ザヤ発生リスクを高める。
     
  4. このように、3月の政策転換後も日銀の大規模金融緩和に起因する課題が数多く残っている。緩和を継続するに当たって、日銀にはこうした課題に十分に目配りしつつ、適宜対応を採ることが求められることから、難しい舵取りが必要になる。
■目次

1. トピック:日銀「政策修正」後の変化と残された課題
  ・政策修正内容の振り返り
  ・政策修正後の変化とその効果
  ・日銀に残された課題
2. 日銀金融政策(8月):開催なし
  ・(日銀)現状維持(開催なし)
  ・今後の予想
3. 金融市場(8月)の振り返りと予測表
  ・10年国債利回り
  ・ドル円レート
  ・ユーロドルレート

経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志(うえの つよし)

研究領域:金融・為替

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴

・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
・ 2007年 日本経済研究センター派遣
・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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