テーパリング観測は円安要因か?~マーケット・カルテ7月号

2021年06月21日

(上野 剛志) 金融市場・外国為替(通貨・相場)

今月半ばにかけて1ドル109台半ばから110円台前半で推移していたドル円は、FOMC後に一旦110円台後半まで円安ドル高に振れた。FOMCでテーパリング(量的緩和縮小)やその先の段階である利上げに対して予想以上に前向きなスタンスが示され、米長期金利の上昇がドル高を促したためだ。しかし、その後は円高方向へと転じ、足元では109円台後半にある。米国の金融引き締め早期化観測によって、(1)将来のインフレ圧力が和らぐとの見方から米長期金利が低下したうえ、(2)株価が調整したことでリスクオフ(回避)の円買いが発生したためだ。

今後はテーパリングの検討が進められ、市場でもさらに現実味を持って意識されるようになっていくだろう。そして、その際には、今回同様、円安圧力と円高圧力が交錯してドル円が不安定化する局面が生じる可能性が高い。ただし、現在の低い金利水準を踏まえると、米金融緩和縮小や金融引き締め観測は基本的には米金利上昇要因と考えられる。また、米景気回復が続く以上、リスクオフの円買いは長続きしないとみられることから、トレンドとしては円安ドル高に向かうと見ている。3カ月後の水準は111円付近と予想している。

今月のユーロ円は、ECB理事会で緩和縮小に慎重な姿勢が示されたうえ、FOMC後にリスクオフの円買いユーロ売りが進んだことで急落し、足元では1ユーロ130円台半ばにある。ユーロ圏では今後もワクチンの普及や行動規制の緩和によって景気回復期待が続き、ECBによる債券買入れペース縮小観測が燻りやすいだろう。また、既述の通り、リスクオフ地合いも長期化しないとみられることから、ユーロは次第に持ち直すと見ている。3か月後の水準は133円台と予想している。

長期金利は、今月上旬に0.0%台後半で推移した後、米長期金利の低下が波及する形で水準を切り下げ、足元では0.0%台前半にある。既述の通り、今後は米国でテーパリングの検討が進められることになるが、米金融緩和縮小やその先の金融引き締め観測は基本的に米金利上昇要因と考えられる。次第に米金利発の金利上昇圧力が波及してくることで、3か月後には0.1%程度まで持ち直すと見込んでいる。
 
(執筆時点:2021/6/21)

経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志(うえの つよし)

研究領域:金融・為替

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴

・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
・ 2007年 日本経済研究センター派遣
・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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