消費者物価(全国21年4月)-携帯電話通信料の大幅値下げをエネルギーの上昇が相殺

2021年05月21日

(斎藤 太郎) 日本経済

1.コアCPIの下落率は前月と変わらず

総務省が5月21日に公表した消費者物価指数によると、21年4月の消費者物価(全国、生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は前年比▲0.1%(3月:同▲0.1%)となり、下落率は前月と変わらなかった。事前の市場予想(QUICK集計:▲0.2%、当社予想は▲0.1%)を上回る結果であった。

原油価格の上昇を反映しエネルギー価格が上昇に転じたこと、高等教育無償化の影響が一巡したことが押し上げ要因となったが、携帯電話通信料の大幅値下げ(3月:前年比1.9%→4月:同▲26.5%)がコアCPIを大きく押し下げた。携帯電話通信料のコアCPI上昇率(前年比)に対する寄与度は3月の0.04%から4月には▲0.53%となり、その差は▲0.6ポイント近くとなった。

生鮮食品及びエネルギーを除く総合(コアコアCPI)は前年比▲0.2%(3月:同0.3%)、総合は前年比▲0.4%(3月:同▲0.2%)であった。
コアCPIの内訳をみると、電気代(3月:前年比▲7.1%→4月:同▲5.8%)、ガス代(3月:前年比▲5.2%→4月:同▲3.5%)の下落幅が縮小し、ガソリン(3月:前年比0.9%→4月:同13.5%)、灯油(3月:前年比▲4.2%→4月:同11.8%)が前年比で二桁の高い伸びとなったことから、エネルギー価格が前年比0.7%(3月:同▲4.3%)と1年3ヵ月ぶりの上昇となった。

また、高等教育無償化の影響一巡に加え、中学・高等学校授業料、補習教育などで年度替わりの値上げが行われたことから、教育が3月の前年比▲2.2%から同0.8%と上昇に転じたこともコアCPIを押し上げた。
 
コアCPI上昇率を寄与度分解すると、エネルギーが0.05%(3月:▲0.35%)、食料(生鮮食品を除く)が0.02%(3月:0.00%)、携帯電話通信料が▲0.53%(3月:同0.04%)、その他が0.36%(3月:0.27%)であった。(制度要因(教育無償化、Go To トラベル)を除くベース)

2.上昇品目数の割合は引き続き50%を下回る

消費者物価指数の調査対象523品目(生鮮食品を除く)を、前年に比べて上昇している品目と下落している品目に分けてみると、4月の上昇品目数は255品目(3月は257品目)、下落品目数は203品目(3月は201品目)となり、上昇品目数が前月から減少した。上昇品目数の割合は48.8%(3月は49.1%)、下落品目数の割合は38.8%(3月は38.4%)、「上昇品目割合」-「下落品目割合」は9.9%(3月は10.7%)であった。

上昇品目数の割合は20年11月から50%を下回る推移が続いている。

3.コアCPI上昇率は5月にプラス転化の公算

4月のコアCPI上昇率は、携帯電話通信料の引き下げによって大きく押し下げられる一方、エネルギー価格が上昇に転じたことや一部の品目で年度替わりの値上げが行われたことから、上昇率は前月と変わらなかった。経済活動の急激な落ち込みの割に物価の基調は弱くなっていない。
巣ごもり需要の高まりから、食料品、日用品、家電製品など財の消費は堅調なものが多いこと、自粛要請などにより需要が急激に落ち込んでいる外食などのサービスについては、通常の景気悪化時と異なり、値下げによる需要喚起が期待できないことがその背景にあると考えられる。

エネルギー価格の上昇率は4月の前年比0.7%から5月には4%台まで高まり、コアCPI上昇率への寄与度は0.3%強(4月は0.05%)となることが見込まれる。5月のコアCPI上昇率は1年2ヵ月ぶりにプラスとなる可能性が高い。

エネルギー価格の上昇ペースはその後も加速すること、前年の「Go Toトラベル」による宿泊料の大幅下落の裏が出ることもあり、コアCPIは年末にかけてゼロ%台後半まで伸びを高めることが予想される。
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎(さいとう たろう)

研究領域:経済

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴

・ 1992年:日本生命保険相互会社
・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
・ 2019年8月より現職

・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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