2021年1月、カナダのコンビニ運営大手アリマンタシォン・クシュタールはフランスの小売大手カルフールへ372億米ドルの大型の買収提案を行っていた。しかしながら、両社はその後買収交渉を打ち切ったと発表した。国内の食料安全保障への影響を懸念したフランス政府の反対がその背景にある。ルメール仏経済・財務相はカルフールへの買収について「この案件には賛成できない」と表明していた
1。
同年3月、米ゼネラルエレクトリック(GE)は同社傘下のGEキャピタル・アビエーションの航空機リース事業をアイルランドの同業エアキャップ・ホールディングスに売却することを発表した。コロナ禍により大きな打撃を受けている航空機リース業界が再編されることとなる。
GEは同社の売却と同時に金融子会社であるGEキャピタルを解散すると発表した
2。GEキャピタルは2000年には、GEの売上の半分程度を占めていた。しかし、近年ではGEは金融業を含む複合経営から、製造業に回帰している。
同年3月、カナダの貨物鉄道大手カナディアン・パシフィック鉄道は米国の同業カンザスシティーサザンを買収することで同社と合意した
3。この買収により、カナダ、米国、メキシコの北米3カ国を縦断する鉄道網を持つ企業が誕生する。
カンザスシティーのパトリック・オッテンスマイヤー最高経営責任者(CEO)は「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)が成長機会をもたらす」と話す。2020年7月1日に発効したUSMCAは北米自由貿易協定(NAFTA)の後継となる貿易協定である。USMCAでは、製造業の外国から国内への回帰を目指し、関税削減の条件となる「域内原産比率」を引き上げている。外国からの輸入が自国や近隣国での生産に回帰することにより鉄道による輸送を増加させる可能性がある。米税関・国境保護局は、2020年末までは準備期間として厳格なUSMCAの執行は控えるとしていた。今後、USMCAの影響が顕在化していく可能性があり、その動向が注目される
4。
同年3月、イギリスの送電大手ナショナル・グリッド(NG)は同国の配電大手ウェスタン・パワー・ディストリビューション(WPD)を買収すると発表した。NGはWPDを買収する一方で、同社のガス事業の売却を予定している。
NGのジョン・ペティグルー最高経営責任者は「長期的な成長の見通しを確かなものにするだけでなく、英国のエネルギー変革における我々の役割を高める」とコメントしており、クリーンエネルギーへの移行を目指した動きとして注目される
5。石油などエネルギー産業や電力業界は各国の脱炭素に向けた政策により対応を迫られている。今後も、クリーンエネルギーへの転換を目指してエネルギー産業や電力業界などで業界再編が進む可能性がある。
同年3月、米マイクロソフトは音声チャットを提供するディスコードに買収を提案したが、ディスコード側はこれを拒否し、交渉は打ち切りとなった
6。音声チャットはITサービスの中でも成長が見込まれる領域として注目されており、スラックやクラブハウスといった音声チャットを提供する企業が成長している。そうした中、昨年12月、米顧客管理ソフト大手セールスフォースはスラックを買収すると発表した
7。在宅勤務の拡大により音声チャットの需要が増えているが、スラックはマイクロソフトが提供する職場向け協業アプリ「Teams」など競合に押されている状況だった。成長に向けた競争が続く、音声チャット業界の今後が注目される。
日本企業が関係する案件としては、同年3月の日立製作所による米国のシステム開発会社グローバルロジックの買収提案があった。日立製作所は選択の集中のために進めていた事業売却が一巡したと言われる。今後、日立製作所はグローバルロジックの買収により、同社が注力するIoT(インターネット・オブ・シングズ)事業「Lumada」(ルマーダ)の拡大を目指す。
金融緩和や経済の回復の見込みから世界のM&Aマーケットは活況が続いており、こうした状況が継続することが考えられる。特に、クリーンエネルギーへの転換は構造的な転換が求められる課題であり、エネルギー産業や電力などでの事業買収が増加する可能性があるだろう。
1 日本経済新聞(2021a)
2 日本経済新聞(2021b)
3 日本経済新聞(2021c)
4 日本貿易振興機構(2020)
5 日本経済新聞(2021d)
6 Bloomberg(2021)
7 ロイター通信(2020)
4――まとめ