スタートアップ・エコシステムの構築に向けて、関西は着実に歩みを進めているものの、次々とスタートアップが生まれ育つような、広がりと厚みがある自律的なエコシステムを短期間で作り上げるのは難しい。景気の悪化や株式市場の変調、首長の交代等があったとしても、地方自治体や地元経済界等による支援、取り組みが継続できるかどうかが課題となる。
リーマンショックの際には、景気の悪化と株価の急落、低迷を受けて、スタートアップは厳しい事業環境に置かれることとなった。ベンチャー・キャピタル等の投資家の収益が悪化し、投資活動が停滞した。スタートアップの資金調達のハードルが上がり、資金繰りに窮したり、思うように成長資金を得られなくなることも多かった。
新型コロナウイルスの感染が拡大した当初は、株価の急落や景況感の悪化、緊急事態宣言の発出による事業活動、投資活動の停滞等により、スタートアップの事業環境が急速に悪化することが懸念された。ただ、その後は株価が大きく上昇し、コロナ禍で遅れが露呈したデジタル化を中心に、スタートアップによるイノベーションに対する世の中の期待や関心は引き続き強い。2020年におけるスタートアップによる資金調達額を見ても、減速している感はあるが、急減するまでには至らず、底堅く推移しているように見受けられる(図表7)。
足もとでは、新型コロナウイルスの感染拡大の影響が長期化しており、ワクチン接種の進展に期待がかかるものの、ワクチン接種の遅れや変異株の広がり等のリスクもあり、予断を許さない状況が続く。株式市場が崩れて、スタートアップへの投資資金の流入が停滞したり、業績が悪化した事業会社がスタートアップへの支援を縮小する可能性もゼロではない。こうした不確実性の高い環境の中、すぐには結果が出なくとも、支援を続けていく強い覚悟が求められる。
また、関西のスタートアップへ投資資金を呼び込み、支援に厚みを持たせるためには、国内外の有力投資家やスタートアップとの協業に前向きな事業会社の投資部門(コーポレート・ベンチャー・キャピタル等)の拠点を誘致することも必要だろう。
また、創薬等のライフサイエンス・バイオテクノロジー、ロボット等のものづくり等、大学の研究成果をベースとするような研究開発型スタートアップは、インターネット関連のビジネスを手掛けるスタートアップと比較すると、事業の立ち上げに多くの時間と資金を要する。こうした領域のスタートアップの創出や育成に注力するのであれば、より長い時間と多くの支援が必要となることを念頭に置く必要がある。
もちろん、地域の活性化に繋げていくという意味では、ものづくりやライフサイエンス等の研究開発型スタートアップに限る必要はない。ITサービス、デジタルコンテンツ、シェアリングサービス等、幅広い領域で起業の裾野を広げていくことも有用だ。新規ビジネスの開発に積極的なIT企業の拠点や、フリーランスとして活躍する専門人材等の誘致を進めていくことも一考だろう。関西には、文化、芸術、食、エンターテイメント、観光資源等、クリエイティブで感度の高い人材を惹きつけるポテンシャルがあると考えられる。若い世代への事業承継も含めて、「関西なら、失敗を恐れず、新しいことに挑戦できる」、「関西ならクリエイティブな面白い仕事ができる」といった、前向きな機運を醸成していくことが期待されている。
5――おわりに