ペーパーでは、人間環境や社会基盤に与える影響についても指摘している。少し、みていこう。
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サーモカルスト湖の洪水が深刻化
温暖化により、北極圏の永久凍土が融解する。サーモカルスト湖は、永久凍土の融解によって形成された窪地にできる淡水湖であり、北極の低地の20%を覆うなど、壊滅的な洪水の原因となりやすい。近年、北極圏の開発が低地で進むにつれて、こうした洪水が河川洪水以上の影響をもたらしつつある。
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降水量不足により水力発電や運河航行に支障も
乾燥地域では、降水量が不足すると、そのこと自体が問題となる。インフラとサプライチェーンの維持には、十分な量の降水が必要であり、降水量が減少すると、事業中断のリスクが増大する。その結果、事業継続のための費用保険金などで支払いが増えることが考えられる。
ダムでの水力発電はその一例。降水量の変化により、発電量が安定しない事態となれば、水力発電を安定電力として利用できない恐れがある。
別の例として、パナマ運河やスエズ運河などの、航行が挙げられる。乾季が長期化し、水位が低下すると、多くの船舶は、最大積載量での運河航行ができなくなる。積載量を減らしての航行となり、サプライチェーンの弱体化の問題につながる可能性がある。
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作物の受粉が滞って作物被害が生じる可能性も
気候変動による温度変化は、生物種に特異的な変化をもたらす。昆虫の発生と作物の開花の時期がずれると、作物は損害を受ける。すなわち、作物品種とその受粉媒介者が異なる季節に生育する結果、受粉が滞り、いずれかまたは双方の生物種にとって損害となるミスマッチが生じる可能性がある。
また、温熱と旱魃は、作物の生育を妨げ、山火事の危険性を増加させる。山火事は事業の中断だけでなく、財物保険、医療保険、生命保険の給付支払を引き起こす。最も危険な時期に送電を停止するなど、山火事リスクを軽減する策をとることによって、社会生活に悪影響が生じることも考えられる。
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海洋でも酸性度の上昇、酸素の欠乏、海流循環の変化など、さまざまな影響が考えられる
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2の吸収によって海洋の酸性度が高まると、生物はカルシウムを主成分とする殻や骨格の形成が困難になる。また、農業で使用した肥料の流入による海水の酸素レベルの低下は、温暖化によって悪化することがある。米国農務省(USDA)が助成しているさまざまな作物保険は、生物の殻の生産能力の低下と酸素欠乏の両方を原因とした作物生産の減少を保障している。
例えば、二枚貝保険は、「(異常成長、微生物活動、有害藻類の繁茂、高水温による)酸素欠乏、病気、凍結、ハリケーン、塩分の増減、津波、高潮、流氷」の危険による生産減少を保障している。カキ保険の場合は、具体的な保障項目ではないが、「旱魃、洪水、ハリケーンなどの自然災害」による水揚げ量の減少を保障している。また、農業収入保障保険は、養殖業を含む農場のすべての産物(木材、林産物およびスポーツ用、ショー用又はペット用の動物を除く)を保障対象としている
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8 ペーパーによると、民間の損保会社も、養殖業を保障する保険を取り扱っているとのこと。酸素欠乏や塩分濃度の上昇を含む水質の変化を保障しているものが多い。海洋循環の変化は、水産養殖保険契約に影響を与えるかもしれないとしている。
6――気候変動に伴う賠償責任リスク