オンラインミート&グリートでは、前述した通り自身のスマホやタブレット端末からアクセスし、アイドルとスクリーン越しに会話をすることができる。これにより、今までは、ファンがアイドルのいる場所まで足を運ぶ必要があったが、スマホ等の端末を通じてどこからでも会うことが可能になった。これにより、握手会とは異なったファン層がイベントに参加するようになったと筆者は考えている。
まず、握手というアイドルに触れることができるという点に価値を見出してきたファン層は、オンラインミート&グリートという企画に対して価値を見出すことは困難である。「Zoom飲み会」などを思い出すとわかりやすいが、当初は、目新しさからそのような機会でも「人々の会いたいという欲求」を充足するには充分であった。しかし、第一回緊急事態宣言の解除以降は「Zoom飲み疲れ」といった言葉を耳にする頻度も増えるなど、昨今では「Zoom飲み会」を積極的に行う人は減少しているのではないだろうか。この理由は明白であり、飲み会をすることは、「対面」で行うことに多くの人々が価値を見出しているからである。従って、対面という行為を他のモノで代替できないファンがいても不思議なことではないのである。
同様に、他のファンに対して握手時間の長さによる優位性を示していた層においても、オンラインの会場には自分自身しかいないため、従来の顕示的欲求を満たすことができなくなった。彼らにとっては他人に見せつけることで自身の独占欲求が満たされてきたが、オンライン・イベントでは仕組み上、優越感を得ることができなくなり、イベント参加自体のモチベーションが低下してしまうのである。このような理由から、オンラインミート&グリートの参加を望まないファンもいるのである。
一方で、地理的に会場までの距離が遠いファンや、身体的な事由により会場へ足を運ぶのが不可能なファン、若年層で保護者の付き添いが必要であったファンなど、さまざまな理由で参加を躊躇するファンもいた
3。彼らにとっては自宅にいながらアイドルに会えると言う事が、オンラインミート&グリートに参加したくなる動機になっている。また、新参者にとっても握手会場にいる他のオタクたちの熱量や圧力を感じる必要がないことは、心理的なハードルの低さにもつながり、いままで握手会に参加していなかったファン層が参加しやすい仕組みともいえるのかもしれない
4。
今後はアイドルとの交流方法も変わってくると思われる。2014年5月に起きた「AKB48握手会傷害事件」以後、握手会会場の警備は強化され、握手時に荷物の持ち込みが不可能になったイベントも多い。そのため、首から名前を書いたホワイトボードを下げたり、名札を付けると言った方法でしかアイドルに視覚的に訴えることができなくなっていた。しかし、オンラインで自宅から交流できるようになったことで、アイドルに対して新たな方法でアピールをすることが可能となった。部屋の内装をそのアイドルグッズで装飾したり、ペットやそのアイドルが好きなキャラクターグッズを見せて会話の糸口にするなど、自宅からの参加だからこそできる交流方法が生まれているのである。これは、コロナ禍で握手会の代替とされたオンラインミート&グリートを如何に活用するかファンが試行錯誤している結果でもある。
握手会においてはファンである自身、アイドル、他のファンという三者が「握手をするという行為」を顕示的消費の性質へ変化させていたが、オンラインミート&グリートは他のファンを考慮しない自身とアイドルの一対一であった従来の握手会の性質へと回帰していると言えるのかもしれない。
3 握手会が混雑すると会場外で何時間もの間待機することもある。炎天下の真夏や雪が降る真冬においても例外なく、外での待機を強いられてしまう。脱水症状により救急車で搬送されるケースもあり、体力的な理由で参加が困難なケースもある。
4 握手会会場で仲のいいファン同士がチームのように屯し情報交換をし合ったり、古参ファンが昔のグッズなどを身につけてファン歴の長さをアピールしているという事に対して、新参者は劣等感を覚え、参加することのハードルになることもある。
5――さいごに