資本市場の強化と統合の重要性は2つの側面から高まっており、現状打開の転機となる可能性を示す動きもある。
コロナ禍と、その後遺症への対応、さらに復興の促進のために資本市場のニーズは高まっている。成長のための投資を妨げるおそれがある過剰債務には、資本の増強が解決策となる。証券化市場の拡充は、銀行の与信能力を確保するためにも、増大が見込まれる不良債権のオフバランス化という面でも期待される。イタリア銀行の不良債権比率は、15~16年には16%を超える水準にあったが、20年9月時点では4.3%まで低下している。不良債権の削減には、不良債権化の証券化による売却の加速が貢献した。
グリーン・リカバリーによる復興実現にも、長期の投資資金は不可欠だ。温暖化ガス実質ゼロの実現には革新的な技術が必要とされる。実績はないものの革新的な技術力が期待される企業の資本調達のためにも市場の機能の強化が必要とされる。
EUの欧州委員会は、資本市場同盟の行動計画とは別に、コロナ危機下での企業の資本市場調達促進策として、7月24日に「資本市場回復パッケージ」を提案、優先的な取り組みが進められてきた。パッケージは、2018年1月に施行された第2次金融商品市場指令(MiFIDII)と、目論見書規則、証券化の枠組みの修正からなる。うち、MiFIDIIと目論見書規則の修正は、2月15日の閣僚理事会で採択を終え、証券化の枠組みの修正は3月の欧州議会本会議での採択を経て、閣僚理事会での採択を目指す。
MiFIDIIの修正は、企業の市場へのアクセスの改善、コスト軽減、ユーロ建てとコモディティ・デリバティブ市場の育成を狙いとする。機関投資家などを対象に限定した情報に関する要求の簡素化、紙ベースの投資情報の段階的廃止、中小の発行体に関するアンバンドリングの適用除外(リサーチ料と取引手数料との一体化を認める)、コモディティ・デリバティブ取引のポジションに関する上限規制の適用などが行われる。
目論見書規則修正は、企業の資本調達支援のため、22年末までの期間に自己資本残高の150%までの資本調達を行う場合に簡略版の目論見書(EU回復目論見書)の利用を認めるものだ。
証券化の枠組みの修正は、世界金融危機で縮小した証券化市場の活性化のために導入された単純で透明で標準化された(STS)証券化商品を優遇するEUの枠組み(STSラベル)をシンセティック(合成)型の証券化商品に拡張するものだ。シンセティック型の証券化商品は、銀行が保有するローンの信用リスクを投資家に移転する信用リスク管理の手段として必要とされるもので、枠組みの拡張には銀行の貸出余力を高めると同時に、幅広い投資の資金を復興に活用しようという狙いがある。新たなルールには、銀行のバランスシートの管理を支援するため、不良資産の証券化に関わる障壁の除去も含まれる。
「資本市場回復パッケージ」は、難局打開に資本市場を活用するために既存の枠組みを修正するものであり、資本市場の単一化に向けた抜本的改革を狙いとするものではない。
復興基金で予定される7500億ユーロのEU債発行