貿易統計21年1月-輸出の伸びが加速するも、春節の影響を割り引く必要

2021年02月17日

(斎藤 太郎) 日本経済

1.輸出数量が1年6ヵ月ぶりに増加

財務省が2月17日に公表した貿易統計によると、21年1月の貿易収支は▲3,239億円の赤字となったが、事前の市場予想(QUICK集計:▲6,050億円、当社予想は▲3,879億円)を上回る結果となった。輸出が前年比6.4%(12月:同2.0%)と伸び率が高まる一方、輸入が前年比▲9.5%(12月:同▲11.6%)と大幅な減少が続いたため、貿易収支は前年に比べ9,913億円の改善となった。

輸出の内訳を数量、価格に分けてみると、輸出数量が前年比5.3%(12月:同▲0.1%)、輸出価格が前年比1.0%(12月:同2.1%)、輸入の内訳は、輸入数量が前年比▲4.3%(12月:同▲2.1%)、輸入価格が前年比▲5.5%(12月:同▲9.6%)であった。輸出数量が前年比で増加したのは1年6ヵ月ぶりである。
原数値の貿易収支は7ヵ月ぶりの赤字となったが、1月は正月休みの影響で輸出量が少なく貿易赤字になりやすいという季節性があり、貿易収支の実勢を判断するためには季節調整値を用いることが適切である。季節調整済の貿易収支は3,928億円と7ヵ月連続の黒字となった。20年12月の5,123億円からは黒字幅が縮小したものの、明確な黒字基調が続いていると判断される。

1月は輸出が前月比4.4%の増加となったが、輸入が同6.9%とそれを上回る伸びとなったことが黒字幅縮小につながった。
1月の通関(入着)ベースの原油価格は1バレル=50.1ドル(当研究所による試算値)となり、12月の44.5ドルから上昇した。原油価格(ドバイ)は12月(平均)の50ドル程度から足もとでは60ドル台まで大きく上昇している。先行きについては、原油価格上昇に伴う輸入価格の上昇が貿易収支の縮小要因となるだろう。

2.アジア向け輸出は春節のずれの影響でかさ上げ

21年1月の輸出数量指数を地域別に見ると、米国向けが前年比▲8.7%(12月:同▲3.4%)、EU向けが前年比▲26.1%(12月:同▲18.4%)、アジア向けが前年比18.4%(12月:同5.2%)、うち中国向けが前年比44.8%(12月:同15.3%)となった。
21年1月の地域別輸出数量指数を季節調整値(当研究所による試算値)でみると、米国向けが前月比▲0.7%(12月:同▲1.7%)、EU向けが前月比▲12.1%(12月:同▲9.1%)、アジア向けが前月比8.1%(12月:同7.7%)、うち中国向けが前月比13.6%(12月:同7.0%)、全体では前月比3.5%(12月:同0.1%)となった。

20年10-12月期に続き21年1-3月期もマイナス成長が見込まれているEU向けは大きく落ち込んでおり、米国向けも好調が続いていた自動車輸出が減少に転じたことなどから、弱めの動きとなっている。

一方、アジア向けは輸出の伸びが加速したが、中華圏における春節の時期がずれている(20年は1月、21年は2月)ことによってかさ上げされており、2月にはその反動で落ち込む可能性が高い。アジア向け輸出の基調を判断するためには、1、2月を均して見る必要がある。

輸出は全体としては底堅さを維持しているものの、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた経済活動制限の影響が出ている欧米向けは弱めの動きとなっている。20年春に比べれば制限は緩やかであるため、輸出が急激に落ち込む可能性は低いと考えられるが、回復ペースの鈍化は避けられないだろう。
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎(さいとう たろう)

研究領域:経済

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴

・ 1992年:日本生命保険相互会社
・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
・ 2019年8月より現職

・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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