ASEANの貿易統計(11月号)~9月の輸出は経済再開を反映した持ち直しの動きが続くも、欧米での感染再拡大を受けて増加ペースは鈍化へ

2020年11月04日

(斉藤 誠) アジア経済

20年9月のASEAN主要6カ国の輸出(ドル建て、通関ベース)は前年同月比7.0%増(前月:同1.5%減)と上昇し、7カ月ぶりのプラスに転じた(図表1)。輸出の伸び率は、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大と商品価格下落、国内外で実施された活動制限措置の影響が4月に本格化して急減したが、6月から経済活動の再開を反映して持ち直しの動きが続いている。新型コロナの感染対策による在宅勤務の普及により、電気・電子製品の出荷増が輸出を下支えているが、足元では欧米で感染再拡大が進むなど世界経済は依然として不安定であり、今後は輸出の増加ペースの鈍化が予想される。

ASEAN6カ国の仕向け地別の輸出動向を見ると、9月は北米向け(同25.8%増)が好調だったほか、これまで減少傾向にあったEU向け(同10.6%増)と東アジア向け(同4.3%増)がプラスに転じた(図表2)。東南アジア向け(同5.8%減)も持ち直してきているものの、感染対策強化による内需鈍化を受けて相対的に回復の動きが遅れている。
ベトナムの20年9月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比16.6%増となり、前月の同7.1%増から更に上昇した。輸出は今年1~2月に旧正月の連休時期のずれを背景に上下に振れた後、4~5月に新型コロナ感染対策として国内外で実施された活動制限措置の影響により落ち込んだが、6月から経済再開を反映して持ち直しが続いている。また輸入額も前年同月比12.6%増(前月:同1.6%増)と大きく上昇した結果、貿易収支は+29.6億ドルとなり、前月から20.3億ドル縮小した(図表3)。

輸出を品目別に見ると、まず輸出全体の約2割を占める電話・部品は前年同月比では4.0%減(前月:同9.4%減)と2カ月位連続で減少したが、電気製品・同部品は同28.9%増(前月:同17.9%増)と8ヵ月連続の二桁増を記録した(図表4)。また繊維関連では、織物・衣類が同1.7%増(前月:同11.9%減)と増加した一方、履物が同5.4%減(前月:同12.3%減)と引き続き減少した。農林水産物を見ると、コーヒー(同11.7%増)と水産物(同13.5%増)、カシューナッツ(同5.0%増)などが増加したものの、コメ(同7.0%減)と野菜(同11.8%減)が減少するなど、品目毎にバラつきがみられた。

輸出を資本別に見ると、地場企業が同40.9%増(前月:同27.8%増)が好調だった。全体の7割を占める外資系企業は同5.9%増(前月:同2.5%減)となり、一進一退の推移が続いている。
タイの20年9月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比3.9%減となり、5カ月連続の減少となったものの、前月の同7.9%減からマイナス幅が縮小した。輸出は今年3月から新型コロナ感染拡大の影響が現れて4~6月に大きく減少したが、7月以降は持ち直しの動きが続いている。また輸入額が前年同月比9.1%減(前月:同19.7%減)と6カ月連続で減少した結果、貿易収支は+22.3億ドルとなり、前月から21.2億ドル縮小した(図表5)。

輸出を品目別に見ると、全体の約7割を占める工業製品が同4.4%減(前月:同14.0%減)と6カ月連続の減少となったものの、減少幅は一桁台まで縮小した(図表6)。製造品の内訳を見ると、自動車・部品(同9.9%減)や石油化学製品(同0.8%減)など依然として減少した品目が多いが、家電製品(同6.1%増)は外出自粛の影響で増加傾向にあるほか、電子機器(同9.9%増)や機械・装置(同2.9%増)など幾つかの品目がプラスに転じた。また鉱業・燃料は同33.0%減(前月:同25.8%減)となり、石油製品(同32.1%減)を中心に7カ月連続で減少した。農産物・同加工品については同6.5%増(前月:同9.2%減)と増加した。果物(同93.0%増)と畜産物(同44.9%増)、タピオカ(同54.8%増)、ゴム製品(同40.8%増)が大幅に増加する一方、加工食品(同6.2%減)とコメ(同22.7%減)、天然ゴム(同12.2%減)が減少するなど、品目毎にバラつきがみられた。なお、非貨幣用金(同21.5%減)は3カ月ぶりに減少した。
マレーシアの20年9月の輸出額(ドル建て換算、通関ベース)の伸び率は前年同月比14.6%増(前月:同2.9%減)と上昇し、3カ月ぶりのプラスとなった。輸出は今年4~5月に新型コロナ感染拡大と国内外の活動制限措置の影響が本格化して約3割の減少を記録したが、6月以降は経済活動の再開に伴う反動増を受けて持ち直しの動きが続いている。また輸入額が前年同月比2.8%減(前月:同6.4%減)と低迷した結果、貿易収支は+53.0億ドルとなり、前月から21.4億ドル増加した(図表7)。

輸出を品目別に見ると、全体の約4割を占める機械・輸送用機器は同27.4%増(前月:同4.5%増)となり、主力の電気・電子製品(同33.0%増)を中心に4カ月連続で増加した(図表8)。また鉱物性燃料は同29.1%減(前月:同23.8%減)低迷した。原油(23.2%増)が増加したものの、天然ガス(同51.8%減)と石油製品(同33.8%減)がそれぞれ低迷した。このほか、ゴム手袋(同161.1%増)に続いでパーム油などの動植物性油脂(同40.5%増)が大幅に増加したほか、化学製品が同1.9%減(前月:同21.6%減)とマイナス幅が縮小など、全体的に改善傾向がみられた。
インドネシアの20年9月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比0.5%減(前月:同8.2%減)とマイナス幅が縮小した。輸出は今年3~5月にかけて新型コロナの感染拡大と国内外で実施された活動制限措置の影響を受けて最大約3割減まで落ち込んだが、6月以降は経済活動の再開を反映して持ち直してきている。また輸入額も前年同月比18.9%減(前月:同24.2%減)とマイナス幅が縮小した結果、貿易収支は+24.4億ドルとなり、前月から0.8億ドル増加した(図表9)。

全体の9割を占める非石油ガス輸出が同0.2%増(前月:同6.9%減)が増加した一方、石油ガス輸出が同12.4%減(前月:同29.0%減)と低迷した(図表10)。品目別にみると、自動車・同部品(同13.4%減)や鉱産物(同30.9%減)、織物類(同8.4%減)、機械類(同5.5%減)が低迷した一方、電気機械(同15.8%増)、動植物性油脂(同10.6%増)が好調だったほか、プラスチック・ゴム製品(同10.1%増)、パルプ・紙・同製品(同3.7%増)が再びプラスに戻った。
シンガポールの20年9月の輸出額(石油と再輸出除く、ドル建て換算、通関ベース)は前年同月比6.9%増(前月:同8.9%増)と低下した。輸出はコロナ禍でも増加傾向が続いているが、9月はこれまで好調だった医薬品が急減する一方、集積回路(IC)の伸びが加速するなど輸出のけん引役は入れ替わりつつあるかにみえる。なお、総輸出額は同1.2%減(前月:同3.7%減)、総輸入額は同0.7%減(前月:同10.0%減)となり、それぞれマイナス幅が縮小した。結果として、貿易収支が+27.6億ドルとなり、前月から20.0億ドル縮小した(図表11)。

輸出(石油と再輸出除く)を品目別に見ると、まず全体の約3割を占める電子製品が同22.5%増(前月:同6.9%増)と大幅に上昇した(図表12)。電子製品の内訳を見ると、PC部品(同23.8%増)が7カ月ぶりのプラスに転じたほか、主力のIC(同31.4%増)やPC(同12.4%増)、ディスクメディア(同16.3%増)が好調だった。また電子製品と並び全体の約3割を占める化学品は同16.1%減(前月:同4.7%減)と5カ月連続のマイナスとなった。化学品の内訳を見ると、医薬品(同26.6%減)が4か月ぶりに減少したほか、石油化学製品(同23.1%減)が低迷した。
フィリピンの20年9月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比2.2%増となり、前月の同12.8%減から上昇して7カ月ぶりのプラスとなった。輸出の基調は、今年3月から新型コロナ感染拡大と国内外で実施された活動制限措置の影響が現れて幅広い品目で減少したが、5月から経済活動の再開を反映して持ち直しの動きが続いている。また輸入額が前年同月比16.5%減(前月:同21.3%減)とマイナス幅が縮小した結果、貿易収支は▲17.1億ドルとなり、前月から1.2億ドル改善した(図表13)。

輸出シェア上位10品目を見ると、まず輸出全体の6割弱を占める電子製品が同0.8%増(前月:同13.3%減)と上昇して7カ月ぶりのプラスとなった(図表14)。電子製品の内訳を見ると、電子データ処理機(同1.1%減)とオフィス機器(同12.7%減)が減少したものの、主力の半導体デバイス(同0.8%増)がプラスに転じた。その他9品目は総じて増加した品目が多かった。製錬銅(同133.9%増)とその他鉱物製品(73.3%増)、金属部品(同32.9%増)、化学品(同25.9%増)、その他製造品(同5.4%増)、電子部品(同0.8%増)が増加した一方、生鮮バナナ(同32.9%減)と機械・輸送用機器(同2.7%減)、イグニッションワイヤーセット(同1.0%減)が減少した。
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠(さいとう まこと)

研究領域:経済

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴

【職歴】
 2008年 日本生命保険相互会社入社
 2012年 ニッセイ基礎研究所へ
 2014年 アジア新興国の経済調査を担当
 2018年8月より現職

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