ユーロ圏消費者物価(10月)-引き続きマイナス圏での推移

2020年11月02日

(高山 武士) 欧州経済

1.結果の概要:マイナス圏での推移が続く

10月30日、欧州委員会統計局(Eurostat)はユーロ圏のHICP(Harmonized Indices of Consumer Prices:EU基準の消費者物価指数)速報値を公表し、結果は以下の通りとなった。
 

【総合指数】
前年同月比は▲0.3%、市場予想1(▲0.3%)と同じで、前月(▲0.3%)から横ばい(図表1)
前月比は+0.2%、予想(+0.1%)より上振れ、前月(+0.1%)より加速

【総合指数からエネルギーと飲食料を除いた指数2
前年同月比は+0.2%、予想(+0.2%)と同じで、前月(同+0.2%)から横ばい(図表2)
前月比は+0.1%、前月(+0.2%)から減速

 
1 bloomberg集計の中央値。以下の予想値も同様。
2 日本の消費者物価指数のコアコアCPI、米国の消費者物価指数のコアCPIに相当するもの。ただし、ユーロ圏の指数はアルコール飲料も除いており、日本のコアコアCPIや米国のコアCPIとは若干定義が異なる。

2.結果の詳細:財価格はマイナス、サービス価格も鈍化が続く

10月のHICP上昇率(前年同月比)は、全体で▲0.3%、「コア部分(=エネルギーと飲食料を除く総合)」で+0.2%となり、9月と同じ数値となった。品目別の傾向についてもほぼ変化がなかった形となるが、以下、詳細を「コア部分」「エネルギー」「飲食料(アルコール含む)」の3分類に分けて見ていく。

まず、コア部分の「エネルギーと飲食料を除く総合」は2か月連続で前年同月比+0.2%となった。内訳で見ると、「エネルギーを除く財3」がマイナス幅を縮小させる(9月▲0.3%→10月▲0.1%)一方で「サービス」が鈍化(9月+0.5%→10月+0.4%)している(図表2)。特に、サービス価格については、鈍化傾向に歯止めがかからない状況が続いているといえる。

「エネルギー」は、10月は前年同月比▲8.4%(前月▲8.2%)、前年同月比寄与度で▲0.86ポイント(前月▲0.81%ポイント)となり、大幅マイナス圏での推移が続いている。前月比も+0.2%(前月▲0.4%)と弱く、全体のインフレ率を低下させている主因となっている(前掲図表1・2)。
一方、「飲食料(アルコール含む)」は前年同月比で+2.0%(前月+1.8%)、前月比で+0.3%(前月▲0.2%)と若干上昇した(図表3)。10月は特に未加工食品の上昇率が高めであった。

品目別の細かい動きはあるものの、総じてみれば8月以降はエネルギー価格がマイナス圏、コア部分と飲食料が低めのインフレ率で推移しており、全体ではマイナス圏という状況と言える。
国別のHICP上昇率を見ると(図表4・5)、10月は前年同月比で未公表のオーストリアを除く18か国中9か国が減速し、また11か国がマイナス圏という状況にある。10月は経済大国のドイツで▲0.5%までマイナス幅を拡大させている4ことに加えて、スペインもマイナス幅を拡大させた。また、ギリシャなど▲2%前後のマイナス圏にある小国も散見される。

ユーロ圏では新型コロナウイルスの感染急拡大から外出制限を強めている国が多く、上半期と同様、飲食料を中心に一時的な物価上昇圧力が生じる可能性はあるものの、インフレ基調としては弱く、ゼロ%前後での推移が続くと見られる。
 
3 飲食料も除く。
4 ドイツではVAT引き下げを実施しており、インフレ率が押し下げられている。具体的には7月から税率で19%→16%(軽減税率は7%→5%)への引き下げを12月まで実施する予定。
 
 

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経済研究部   主任研究員

高山 武士(たかやま たけし)

研究領域:経済

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴

【職歴】
 2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
 2009年 日本経済研究センターへ派遣
 2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
 2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
 2014年 同、米国経済担当
 2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
 2020年 ニッセイ基礎研究所
 2023年より現職

 ・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
  アドバイザー(2024年4月~)

【加入団体等】
 ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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