生命保険の相場感-保険料・保障額の相場感の形成要因

2020年07月16日

(井上 智紀)

1――はじめに

生命保険の保険料は性別や年齢により異なる生死あるいは罹患の確率に応じて、また、想定する運用利回りにより、それぞれ異なる。また、加入にあたり定める保障額によっても異なる。このように価格形成に多くの要素が影響するという仕組を背景とするためか、これまで保険料に対する消費者の価格感度に関する研究はほとんど蓄積がないようである。一方で、消費者の保険料に対する関心についてGoogle Trendsの結果から過去5年間の推移をみると、毎年11月初~中旬にかけて高まるなど季節的な変動はあるものの、近似曲線にも示されているように総じて横ばいないし緩やかな上昇傾向にある様がみてとれる〔図表1〕。
実際に「保険料 相場」の検索結果は約1,700万件、「保険料 目安」では約1,600万件とそれぞれ多く、上位には、生命保険や医療保険、自動車保険の保険料に関する統計を解説するものや、家計における保険料の適正額として手取り収入に占める割合を示すものなどが並んでいる1。このような「保険料」の相場感や適正額に対する関心は、裏を返せば消費者が保障の必要性に対する認識はあるものの、自身や世帯にとっての適切な保障を選択するための保険リテラシーが不足していることを意味しているように思われる。そこで本稿では、消費者の保険料や保障額に対する相場感に焦点をあて、相場感を有する消費者の特徴について概観するとともに、こうした相場感を形成する要因を明らかにすることを試みる。なお、以降の分析では、弊社が2018年12月に実施した生命保険マーケット調査(調査対象は全国の20~69歳男女個人。有効回収数:7,600サンプル(うち生保加入者5,358サンプル)。インターネット調査)」の個票データを用いる。
 
1 検索件数はいずれもGoogleでの2020年6月1日現在
 

2――保険料・保障額の相場感

2――保険料・保障額の相場感

1属性別
はじめに、保険料の相場感として「家計の中で、「保険料はこれくらいが適切」という基準がある」、保障額の相場感として「自分の中で、「保障額はこれくらいが適切」という基準がある」のそれぞれの意見に対するあてはまりの程度についてみると、相場感がある者(「あてはまる」または「まああてはまる」と回答した者)の割合は、全体では保険料が30%、保障額が32%といずれも約3割が何らかの相場感を有している〔図表2〕。
これを性別にみると、男性では保険料が26%、保障額が29%であるのに対し、女性ではいずれも35%、36%と男性に比べ高くなっている。また、年代別では保険料・保障額のいずれについても高齢層ほど高くなっており、60代では保険料が37%、保障額が40%と4割前後が何らかの相場感を有するようになっている。未既婚と世帯類型、夫婦の働き方別にみると、保険料・保障額のいずれについても未婚者では同居者の有無に関わらず2割台と既婚者に比べ低く、既婚者では三世代・共働きでそれぞれ38%、41%と高い。また、夫婦のみ・片働き(いわゆる専業主婦世帯)では保険料が36%、保障額が38%と次いで高くなっている。生命保険の加入の有無別にみると、当然ながら加入者で非加入者に比べ高く、加入者では保険料・保障額ともに4割弱となっているのに対し、非加入者ではいずれも15%程度に留まっている。
2保有商品種類数別
加入者について相場感がある者の割合を保有契約の種類数別にみると、保険料については1種類では35%と加入者全体に比べ低く、加入種類数が増えるにつれて少しずつ増加しているものの、ほとんど差がみられない〔図表3〕。一方保障額については、1種類では35%と加入者全体に比べ低いものの、加入種類数が増えるにつれて相場感を有する割合が増加する傾向がみられる。

このような保険料・保障額の相場感の差異は、保障領域ごとにどの程度の保障額で加入すればよいかは、様々な種類の生命保険について加入や検討の経験を通じて相場感として形成されていくと考えられるのに対し、家計全体の中での保険料の割合については、家族構成や所得の状況、準備が必要と考える保障の範囲によってもそれぞれ異なることが背景となって生じているものと思われる。
3保険リテラシー別
(1)保険に関する客観的知識と知識の主観的評価
生命保険に関する客観的な知識水準別にみると、相場感がある者の割合は保険料・保障額ともに高知識層ほど高く、高知識層では保険料で44%、保障額では49%となっている〔図表4〕。

自身の生命保険知識に対する主観的評価別にみても同様に、保険料・保障額ともに評価が高い層ほど高く、高評価層では保険料で51%、保障額では56%とそれぞれ半数を超えて高くなっている。
(2)客観的な知識水準と主観的評価との組合せ
客観的な知識水準と主観的評価との組合せ別にみると、相場感がある者の割合は低知識・低評価では10%と突出して低く、中知識・中評価では32%、高知識・高評価では50%となっている〔図表5〕。一方で客観的な知識と主観的評価との間にミスマッチがある層に着目すると、客観的な知識水準が低いにも関わらず主観的評価が高い中知識・高評価、低知識・高評価(いずれも51%)では高知識・高評価と同様、半数を超えて高い。これに対し、客観的知識が高いにも関わらず主観的評価が中程度以下の層では、高知識・中評価で36%と全体(30%)を超えて高くなっているもの、その他の層では2割台と低くなっている。
(1)の結果より、客観的にみても主観的な評価の面でも保険に関するリテラシーは保険料や保障額に対する相場感の形成に寄与していることを意味しているように思われる。ただし(2)の結果からは、客観的な知識水準と主観的評価とのミスマッチが生じている層、特に主観的評価が上回る層においても相場感があると考えている者がいることは、過剰(あるいは過少)な保障準備につながっている可能性があることも危惧されよう。
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