2|小括
以上のことを念頭において、1でみた交通モードについて考えてみたい。
まず、自分が住む地域に1の交通モードがあるか、利用しやすいかという点である。全国的な傾向を述べれば、モータリゼーションの影響で、公共交通は地方を中心に衰退してきた。補完的に自治体がコミュニティバスや乗合タクシーを導入してきたが、走行地域は限られており、特に都市部では少ない。スクールバス等への混乗も活用が期待されるが、事例は多くない。2017年度から拡大されてきた貨客混載は、タクシー等がモノを運ぶパターンは広く活用されているが、貨物車両が人を運ぶパターンについては、事業者の参入が低調であり、輸送手段の拡充には寄与していない。自家用有償旅客運送は国が導入を推進しているものの、普及していない。これらを穴埋めするように、無償運送を行っている地域もあるが、継続性の観点から十分ではない。
また、高齢者のうち、要介護認定を受けている高齢者に限ってみれば、訪問介護員らによる自家用有償旅客運送もある。しかし、足腰が悪くなっても介護認定を受けていない高齢者も多い点や、行先が限定されるため、高齢者の自由な外出を保障するものではない点に留意する必要がある。
次に、1でみた交通モードが自分が住む地域で運行されていたとしても、高齢者にとって利用しやすいか、という点が問題になる。健康な成人には利用できるが高齢者、特に後期後期高齢者にとっては利用しづらい場合があることを、2-1|で説明してきた。例えば、路線バスの停留所が自宅から100m先にある場合、荷物を持って、雨の日は傘を差したまま、バス停まで100m歩き、空いたベンチがなければ立ったままバスを待ち、状況によっては立ったまま乗車する――という一連の動作が加わると、後期高齢者にとっては負担が大きい。
さらに、経済面からの検証も必要である。タクシーは地方部にも多く走っているが、収入は年金だけという高齢者には、日常的に利用するには負担が大きい。身体的、経済的な負担が大きいと、外出を避ける傾向となってしまう。
高齢者の歩行能力を考えると、人が停留所等まで移動して車両を待つ路線バスのような従来型の交通モードではなく、自宅または自宅近くまで送迎するドアツードアの交通モードが有効だと考えられる。その代表例が、デマンド型の乗り合いタクシーである。デマンド型交通はこれまで、過疎地など人口密度が低い地域で多く導入されてきたが、都市部においても、高齢者には路線バス等の利用にも制約があることを考えれば、導入を検討する余地があるのではないだろうか。ただし、既存の交通事業者の経営を圧迫して撤退を早めることがないように、利用者の範囲を、高齢者のうち身体的、経済的に移動に制約がある人に限定するなど、よく検討する必要がある。
また、自家用有償旅客運送の中には、交通空白地以外でも、身体障害者や要介護者等に限って輸送を認める「市町村運営有償運送(福祉)」や「福祉有償運送」がある。これらは福祉の一環として位置づけられてきたため、これまでは身体障害者や要介護者らが利用対象とされてきた。しかし、身体的、経済的な事情から公共交通の利用に制約がある人は、これらの人たちだけではない。今後は、後期高齢者全体を利用対象の射程に入れるなど、制度の幅を拡大していく必要があるのではないだろうか。ただし、自家用有償旅客運送を普及拡大するためには、現在、導入が伸び悩む要因となっている「地域公共交通会議」や「運営協議会」での調整方法を一層簡素化したり、「タクシー運賃の半額程度」を目安としている運賃の在り方について見直したりすることが必要ではないだろうか。
経済面から言えば、割安で利用できる相乗りタクシーや定額タクシー等についても、今後の本格実施を期待したい。また、小回りが利く小型トラックの貨客混載パターンについても、今後、事業化できるスキームを研究していくべきではないだろうか。
さらに、交通モードとは異なる視点だが、仮に目的地まで一定の距離があっても、休憩を挟んだら再び歩き出すことのできる高齢者も多いことから、歩行空間に椅子や休憩所を配置するなど、歩きやすいまちづくりを進める必要もあるだろう。
3――今後の展望~結びに替えて~