ユーロ圏失業率(2020年5月)-全体の失業率は微増、低下する国も

2020年07月03日

(高山 武士) 欧州経済

1.結果の概要:今月も失業率は微増

7月2日、欧州委員会統計局(Eurostat)はユーロ圏の失業率を公表し、結果は以下の通りとなった。
 

【ユーロ圏19か国失業率(2020年5月、季節調整値)】
失業率は7.4%、市場予想1(7.7%)より下振れ、前月(7.3%)から微増した(図表1)
失業者は1214.6万人となり、前月(1198.7万人)から15.9万人増加した

 
1 bloomberg集計の中央値。以下の予想値も同様。

2.結果の詳細:5月はスペイン・フランス・ポルトガルで低下

前回に引き続き今回の失業率も市場予想を大きく下回り、悪化幅は0.1%ポイントにとどまった。失業者数の変化は5月が15.9万人増、4月が26.8万人増(改定前:21.1万人増)と合計で42.7万人であった。世界金融危機時の雇用悪化が2008年9月(リーマン破綻時)を基準として見て10月に24.0万人増、11月に33.5万人増と増加ペースを強めて進んだことと比較すると、今回は各国政府の雇用維持政策の効果などもあり、失業率の悪化ペースは抑制されていると言える。

若年者(25才以下)の失業率は、5月:16.0%、4月:15.7%(改定前は15.8%)、3月:15.0%(改定前は15.1%)とだった(図表2)。また、失業者の変化は5月:4.2万人増、4月:8.7万人増となった。失業率の悪化ポイントは全体より若年層の方が速いものの、失業者の増加幅ペースが抑制されている点は全体の傾向と同じだった。
国別の失業率を見ると(図表3・4)、多くの国で5月は上昇しているが、スペイン・フランス・ポルトガルでは失業率が低下した。月次の詳細データを公表しているポルトガルをみると、非労働力人口の急増(労働市場からの脱退に伴う労働参加率の低下)が失業率低下の主因であり、4月に失業率が低下したイタリアと同じく、労働環境が急激に悪化したことでそもそも求職をあきらめてしまった人が、失業率の上昇を抑制させている面があることがうかがえる(図表5・6)。

スペインやフランスの詳細データは現時点では入手できないが、同じような状況と見られる。
今回発表された5月の失業率は7.4%で、失業率の悪化幅は限定的にとどまったが、ユーロ圏では約4,000万人(雇用者の約25%)が時短勤務などの雇用維持制度を利用しているとの試算もあり、先行きの失業率悪化のリスクはくすぶっている。

一方で、ドイツやフランスでは年単位での雇用維持制度の長期化を模索するほか、イタリアやスペインも秋までの雇用維持制度の延長を決めているため2、こうした政策が当面は失業率の急上昇を抑える要因として働くだろう。今後はバカンスシーズンを控えて、観光産業のコロナ禍からの復興がどの程度進むか、政府の雇用維持政策への体力がどこまで続くか、といった点が雇用市場の先行きを考える上で重要となると言える。
 
2 イタリアは8月末(観光産業等は10月末)、スペインは9月末までの延長にいったん合意している。
 
 

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経済研究部   主任研究員

高山 武士(たかやま たけし)

研究領域:経済

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴

【職歴】
 2002年 東京工業大学入学(理学部)
 2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
 2009年 日本経済研究センターへ派遣
 2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
 2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
 2014年 同、米国経済担当
 2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
 2020年 ニッセイ基礎研究所
 2023年より現職

【加入団体等】
 ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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