薬物乱用の欧米化-マリファナ使用の増加をどう食い止めるか

2020年06月16日

(篠原 拓也) 保険計理

5――麻薬などの規制の状況

本章では、日本における麻薬などの取締りを中心に、規制の状況についてみていく。
1近年、覚せい剤や大麻の押収量が増えている
日本での押収量をみると、覚せい剤が最も多い。2016年以降、毎年1000㎏以上が押収されている。マリファナとして用いられる乾燥大麻は、減少傾向にあったが、2016年以降増加が続いている。
2覚せい剤の検挙人数は減るいっぽう、大麻の検挙人数は増えつつある
つぎに、麻薬四法違反の検挙人数をみると、覚せい剤関連の検挙人数が毎年15000人以上で推移しており、圧倒的な占率を占めている。ただ、ここ数年は、やや減少傾向にある。近年は、大麻の検挙人数が増加しており、2018年には5000人超に達している。8
 
8 グラフには、検挙された人数が示されている。この他に、犯罪が未発覚で検挙されていないケースもあるものと考えられる。
3未成年者で、大麻の検挙人数が増えている
覚せい剤と大麻について、少年の検挙人数をみてみよう。覚せい剤の検挙人数は、2000年代以降、大きく減少している。いっぽう、大麻の検挙人数は、2013年から徐々に増加している。未成年者などの若年者の間で、大麻の使用が増加傾向にあることがうかがえる。
4大麻は覚せい剤よりも、「少しなら構わない」「個人の自由」とする考えが多い
麻薬等のアンケート調査をもとに、覚せい剤と大麻の使用について、一般の人の意識をみてみよう。大麻のほうが「どんなことがあっても使うべきではない」は少なく、「少しなら構わない」や「個人の自由」は多い。こうした意識の違いが、大麻取締法の検挙人数の増加につながっているものと考えられる。
(参考) 先進国の薬物使用経験
ここで、先進国ごとの各薬物の使用経験について、みてみよう。

欧米では、覚せい剤などの薬物に比べて、大麻の経験率が高い。国や地域によっては、大麻の使用が一部容認されていることが、その背景として考えられる。

たとえば、アメリカは、連邦としては大麻の使用は違法だが、11の州では嗜好用大麻の使用が合法化されている(2020年始時点)。ニューヨーク州では、知事が2020年の年初演説で、その合法化を重要優先課題とすると表明している。合法化による課税で、約3億ドルの税収が州財源にもたらされることや、従来の大麻取締法の有色人種社会への不平等な執行をただすことが目的とされている。

また、オランダでは、ヘロイン、コカイン、覚せい剤、LSDのようなハードドラッグに対して、マリファナや大麻は依存性が低いソフトドラッグと位置づけられており、一定量までの所持や使用が認められている。これは、ハードドラッグを取り扱う密売人や犯罪組織を孤立化させて、麻薬等の薬物禍を全体として抑える、といった狙いがあるものと考えられている。
しかしながら、みてきたように大麻には幻覚作用があり、少ないながら依存性もある。マリファナパーティのような多人数での服用がエスカレートして、他の薬物摂取の入口となる危険性もある。

これまで日本では、使用の多い覚せい剤を中心に、薬物乱用未然防止活動が行われてきた。今後は、これに併せて、若年者に広がるマリファナや大麻を含めて薬物の危険性を周知徹底し、乱用の未然防止に努めていく必要があるものと考えられる。
 

6――おわりに (私見)

6――おわりに (私見)

麻薬や向精神薬について概観してきたが、前章の最後に述べたとおり、覚せい剤はもちろんのこと、マリファナや大麻についても、乱用の未然防止に努めることが必要と考えられる。

国連により、毎年6月26日は、「国際麻薬乱用撲滅デー」とされている。日本では、厚生労働省、都道府県、公益財団法人 麻薬・覚せい剤乱用防止センターの主催で、6月20日~7月19日の間、「『ダメ。ゼッタイ。』普及運動」が全国で展開される。

これを機会として、麻薬などの薬物乱用の問題への意識を高めて、乱用防止に取り組むことが求められるだろう。引き続き、麻薬等の薬物関連の規制動向に、注視していくこととしたい。
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