( 振り返り:政府は何をしてきたか )
各国政府は、封じ込め政策で新型コロナウイルスの拡大を抑制するとともに、活動を制限することで経済に不可逆的な影響(失業や倒産)が発生しないように、各種の財政・金融政策を講じている。金融政策については次章で述べることにし、本節では財政政策について触れたい。
コロナ禍対策としての財政政策の特徴は、人々の経済活動を促進させる需要喚起策を講じると、封じ込め政策で実施している行動制限と矛盾することから、活動抑制による不可逆的な環境悪化を防ぐ策が中心となっている。具体的には雇用支援策(時短・休業者への補助金など)と倒産回避策(企業への補助金、融資、資本注入など)である。また、封じ込め政策を急速に展開したこともあって、これらの対策もスピード感をもって打ち出されている。経済対策は実際の支出(もしくは税収減)を伴う補助金や減税などのいわゆる真水部分(追加予算部分:above-the-line)と、融資や信用保証のように一時的な資金繰りを支援する流動性支援部分(予算内部分:below-the-line)の2つに大別される
4が、各国ともに双方を駆使した異例の規模の対策となっている。
スピード感では、例えばドイツでは3月9日には政府が時短勤務手当の拡充や企業向け緊急融資などの経済対策案を発表、23日には補正予算が閣議決定された。フランスは17日に休業者に対する所得補償や企業融資への政府保証を付する対策が公表されている。イタリアは3月5日・11日、スペインは3月10日に経済対策を公表しており、厳しい封じ込め政策に踏み切る前に支援策を打ち出しを実施している。EUとしても3月10日には共通での支援策や財政ルールの柔軟化について合意され、16日のユーロ圏財務相会議で財政出動、企業の資金繰り支援の具体策が話し合われた。
規模感は、集計主体・方法により様々であるが、コロナ禍が拡大にするに従い順次拡充されてきた結果、欧州委員会の集計では、約3.9兆ユーロ(EU27か国GDP比28.1%)と大規模である。内訳は、加盟国の経済対策が2兆8850億(流動性支援)+4200億ユーロ(財政出動/真水)、EU予算からの拠出700億ユーロ、EU首脳会議で承認された政策パッケージ5400億ユーロとなる。
このほか、EUでは中長期の経済支援策として「次世代のEU」7500億ユーロ(補助金5000億、融資2500億)を含む、2021-27年の中期予算枠組み(MFF:multiannual financial framework)案の1.85兆ユーロ(2018年価格、GDP比13.5%)が6月の首脳会議での承認に向けて検討されている
5。
国ごとの特徴としては、これまで緊縮財政を敷いてきたドイツで大規模な零細企業や時短労働者への補助金などの財政出動(真水)策を実施していることが目立つ。上述の欧州委員会集計の加盟国全体の経済対策のうち、財政出動(真水)の大部分は、零細企業や時短労働者への補助金に手厚く、また消費税(VAT)の引き下げにも踏み切ったドイツによるものと見られる。ドイツ以外の国は財政拡大余地が乏しいこともあり、真水部分は一定規模はあるものの限定的であり、融資に対する信用保証など流動性支援策が中心となっている(図表9)。こうした財政政策は、経済環境が悪化するなかでの雇用維持や企業存続の下支えとして寄与していくだろう(図表10)。