新型コロナでREIT市場は急落。不動産市場は曲がり角に直面-不動産クォータリー・レビュー2020年第1四半期

2020年05月14日

(岩佐 浩人) 不動産市場・不動産市況

1. 経済動向と住宅市場

新型コロナウイルスの感染拡大が国内外で猛威を振るうなか、現在判明している範囲では、不動産市場において指標の悪化は一部のセクターにとどまり顕在化していない。しかし、今後はこれまでに経験したことのない厳しい経済ショックの打撃は避けられず、堅調にあった不動産市場は大きな曲がり角に直面している。

5/18に公表予定の2020年1-3月期の実質GDPは前期比年率▲3.6%と2四半期連続のマイナス成長になったと推計される1。新型コロナウイルスの感染拡大による政府の自粛要請の影響などで民間消費を中心に国内需要が落ち込んだ。なお、4月以降は緊急事態宣言の発令とそれに伴う休業要請などを背景に経済活動の縮小が一段と加速していることから、4-6月期の実質GDPは前期比年率▲30%台の大幅なマイナス成長を予想する。

経済産業省によると、1-3月期の鉱工業生産指数は前期比+0.4%と3四半期ぶりに上昇したが、前期(2019年10-12月期)が消費税率引き上げの影響で大幅減産(▲3.6%)となっていたことを勘案すれば戻りは弱い(図表-1)。4月以降は、世界各国の工場停止に伴うサプライチェーン寸断の影響などから、4-6月期の生産は前期比で2ケタのマイナスが予想される。

ニッセイ基礎研究所は、4月に経済見通しの改定を行った。実質GDP成長率は2020年度▲4.1%、2021年度2.3%を予想する(図表-2)2。政府による緊急経済対策(事業規模108.2兆円)は今後予想される需要の落ち込みに対して十分な規模とは言えず、経済の悪化が想定を上回るような場合には、迅速かつ大胆な追加対策を講じることが望まれる。
住宅市場は価格が高値圏で推移するなか、昨年の消費増税が尾を引いて減速傾向が強まっている。2020年3月の新設住宅着工戸数は70,729戸(前年同月比▲7.6%)となり9カ月連続で減少した。1-3月累計では前年同期比▲9.9%減少した(図表-3)。引き続き、全体の約4割を占める貸家が19カ月連続で減少し全体の着工戸数を押し下げている。
2020年3月の首都圏のマンション新規発売戸数は2,142戸(前月同月比▲35.8%)と7カ月連続で減少し、1-3月累計では4,875戸(前年同期比▲35.4%)にとどまった(図表-4)。3月の1戸当たりの平均価格は6,156万円(前年同月比▲6.0%)、㎡単価は97.3万円(+2.7%)、初月契約率は70.0%(▲2.2%)、販売在庫は7,888戸(▲379戸)となった。現状、新型コロナウイルスの影響により多くの販売拠点が閉鎖されており、当面の間、環境の悪化が続くと思われる。
東日本不動産流通機構(レインズ)によると、2020年3月の首都圏の中古マンション成約件数は3,642件(前年同月比▲11.5%)となり、1-3月累計では前年同期比▲1.9%減少した(図表-5)。これまで、中古マンションは新築に対する価格面での割安感から需要が高まっていたが、消費増税による景況悪化や新型コロナウイルスの影響から昨年10月以降、成約件数に頭打ち感がみられる。
一方、日本不動産研究所によると、2020年2月の住宅価格指数(首都圏中古マンション)は前年比+2.0%となり引き続き上昇傾向にある(図表-6)。

2. 地価動向

地価は引き続き上昇している。国土交通省の「地価LOOKレポート(2019年第4四半期)」によると、全国100地区のうち上昇が「97」、横ばいが「3」、下落が「0」となり、8期連続で上昇地区が9割以上となった(図表-7)。消費増税の地価への影響は見られない。
また、野村不動産アーバンネットによると、首都圏住宅地価格の変動率(4月1日時点)は前期比▲0.0%となった(年間+0.3%上昇)。「横ばい」を示した地点の割合は91.7%(前回87.5%)となり、横ばいの傾向が続いている(図表-8)。

なお、新型コロナウイルスの影響は、今後の「地価LOOKレポート」や「基準地価(7月1日時点)」などで確認することになる。ただし、不動産ファンダメンタルズの変動に対して先行して動くJリート市場は、既に不動産価格の下落を示唆している3。また、地価への影響が大きい金融機関の不動産向け融資姿勢についても注視する必要がある。

3. 不動産サブセクターの動向

(1) オフィス
三鬼商事によると、3月の都心5区空室率は良好な需給環境のなか1.50%(前月比+0.01%)と極めて低い水準で推移している。平均募集賃料は75カ月連続で前月比プラスとなり、賃料の上昇ペースは年率6~7%を維持している。他の主要都市でもオフィス需給が逼迫するなか空室率は低下傾向にあり(図表-9)、賃料の上昇率も拡大している。
三幸エステート公表の「オフィスレント・インデックス」によると、2020年第1四半期の東京都心部Aクラスビル賃料(月坪)は38,739円(前年同期比0.0%)となった。Aクラスビルの空室率が6期連続で1%を下回りハイスペックなビルへの需要が強まる一方で、借り手側の賃料負担力に上限も見られ、4万円前後で天井感が広がりつつある(図表-10)。

また、日経不動産マーケット情報(2020年4月号)によると、「これから来年4月までに竣工する全15棟4のテナント内定率は91%で、前回調査より8%増加した」としており、新築ビルのリーシングは順調に進捗している。

このように、現時点においてオフィス指標(空室率・賃料)に悪化は見られない。しかしながら、4月以降、移転計画の先延ばしや契約面積の見直し、交渉の中断・延期を検討する企業が増加している模様である。今後は企業業績の悪化などを背景に新規開設の抑制やオフィス床の削減も予想され、空室率が上昇に転じる可能性が強まっている。
 
4 東京23区内にある延べ床面積1万㎡以上の賃貸オフィスビルを対象

金融研究部   不動産調査室長

岩佐 浩人(いわさ ひろと)

研究領域:不動産

研究・専門分野
不動産市場・投資分析

経歴

【職歴】
 1993年 日本生命保険相互会社入社
 2005年 ニッセイ基礎研究所
 2019年4月より現職

【加入団体等】
 ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
 ・日本証券アナリスト協会検定会員

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