世界の観光市場における日本の立ち位置を考える~2030年訪日客6000万人は達成可能か?

2020年01月24日

(渡邊 布味子) 不動産市場・不動産市況

1――2019年の訪日客数は前年比2%増加。伸び率の鈍化が顕著に

観光庁によると、2019年の訪日外国人客数(以下、訪日客数)は3,188万人となり8年連続で増加した。しかし、2012年から2017年まで前年比2ケタの成長を遂げてきた伸び率は、2018年が+9%、2019年が+2%となり減速傾向が強まっている(図表-1)。
昨年は、訪日客数全体の約3/4を占めるアジア4カ国(中国・韓国・台湾・香港)1が、前年比 ▲2%となった(図表-2)。日本との関係が悪化した韓国からの訪日客は8月以降50%を超える減少が続き、年間累計では前年比▲26%と大きな落ち込みを記録したが、その他の3カ国は増加している2。一方、アジア4カ国以外からの訪日客は軒並み好調を維持している。「ラグビーワールドカップ日本大会」を受けて欧州やオセアニアなどが増加したほか、東南アジアも着実な増加を示している。
日本政府は2030年に訪日客数を6,000万人とする高い目標を掲げているが、足もとでは2018年以降に頻発した自然災害や政治対立が先行きに影を落としている。しかし、今年は東京五輪の開催を迎え今後の訪日機運の高まりが期待される。また、世界の観光市場は中長期的に世界経済の成長に伴い持続的な拡大が見込まれる分野である。

そこで、本稿では世界の観光市場の潮流とそのなかでの日本の立ち位置を確認したのち、政府目標である2030年訪日客6000万人の実現可能性について考えたい。  

2―― 日本の観光競争力は高く、訪日客数の伸びしろは依然として大きい

2――日本の観光競争力は高く、訪日客数の伸びしろは依然として大きい

まず、日本の観光競争力について確認する。2019年の世界経済フォーラム(WEF)調査によると、日本の観光競争力は「スペイン」、「フランス」、「ドイツ」に次いで世界第4位(スコア5.4)に評価され、アジア圏で唯一のトップ10入りとなった(図表-3)。
高く評価された項目は、「安心・安全」、「保健・衛生」、「交通インフラ」、「ICTの普及」、「国際的な開放度」、「文化」など多岐にわたる。具体的には、「交通の利便性(1位)」、「おもてなし(2位)」、「国際的な開放度(前年10位から6位に上昇)」、「文化遺産と無形遺産(7位)」、「スポーツ施設の数(3位)」、「国際会議の数(第7位)」の評価が高く、「文化(5位)」についても独自性があると指摘している。スコアでは日本と同等の高い評価を受けている「スペイン(スコア5.4)」や「フランス(スコア5.4)」は、インバウンド客数(海外からの観光客数)も世界トップクラスであり、日本の観光市場は高い潜在能力を有している。

これは、各国の観光競争力とインバウンド客数の関係をみると明らかだ。現状、日本のインバウンド客数は観光競争力の水準に追いついておらず、依然として伸びしろが大きいと言える(図表-4)。
具体的には、日本と同等の評価を受ける「スペイン」や「フランス」は日本の2倍以上のインバウンド客数を誇る。また、競争力スコアで日本より下位の「イタリア(スコア5.1)」や「トルコ(スコア4.2)」、同じアジア圏の「中国(スコア4.9)」や「タイ(スコア4.5)」にも、日本を上回る観光客が訪れている。

もちろん、日本は世界地図でみれば極東に位置し他の国と比べて距離が遠いなどの地理的ハンデがあるのは確かであろう。しかし、観光資源などに恵まれた日本の対外評価は高く、さらなる訪日客の誘致は可能だと思われる。
 

3――世界のアウトバウンド市場はヨーロッパを中心としている

3――世界のアウトバウンド市場はヨーロッパを中心としている

それでは何故、日本は観光競争力とインバウンド客数に大きな乖離が生じているのであろうか。以下では、アウトバウンド市場(海外旅行客の出国地)の動向からその理由を考えたい。

国連世界観光機関(以下UNWTO)によると、世界のアウトバウンド市場(2018年)は「ヨーロッパ(48%)」、「アジア・太平洋(26%)」、「米州(16%)」の順に高く、3エリア合計で全体の9割を占める(図表-5)。つまり、「海外旅行客」を地球全体で100人とした場合、48人が「ヨーロッパ」、26人が「アジア・太平洋」、16人が「米州」を出国したことになる。また、約30年前の1990年の構成比率(「ヨーロッパ58%」、「米州23%」、「アジア・太平洋13%」)と比較した場合、「ヨーロッパ」と「米州」が緩やかに低下しているのに対して、「アジア・太平洋」が13%から26%へ大きく上昇している。

一方で、「海外旅行先にどのエリアを選択するか」については、大きな変動はみられない。同一エリア内での旅行比率(エリア内観光率)は概ね80%で推移しており、いつの時代でも「5人に4人」は同一エリア内で、「5人に1人」はエリアを超えて旅行を楽しんでいると言える。つまり、「ヨーロッパ」の人は「ヨーロッパ」を、「アジア」の人は「アジア」を旅先に選ぶため、各国のインバウンド客数は所在エリアのアウトバウンド市場の規模や成長率に大きな影響を受けることになる。
世界のアウトバウンド市場は、構成比率が低下傾向にあるとはいえ依然として「ヨーロッパ」が中心である。したがって、日本のインバウンド客数がヨーロッパ諸国を下回ることは、やむを得ない面もありそうだ。それでは、「アジア・太平洋」における日本の立ち位置はどうか。以下では、「アジア・太平洋」を中心に世界のインバウンド市場の動向を確認したのち、日本を上回るインバウンド客数を集める「中国」及び「タイ」と比較したい

金融研究部   准主任研究員

渡邊 布味子(わたなべ ふみこ)

研究領域:不動産

研究・専門分野
不動産市場、不動産投資

経歴

【職歴】
 2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
 2006年 総合不動産会社に入社
 2018年5月より現職
・不動産鑑定士
・宅地建物取引士
・不動産証券化協会認定マスター
・日本証券アナリスト協会検定会員

・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員

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