(1)スコットランドの独立
スコットランドでは、英国からの独立の是非を問う住民投票実施の機運が高まるだろう。
2014年9月の住民投票は、独立賛成44.7%対独立反対55.3%で否決という結果に終わったが、投票日が近づくにつれて、独立賛成派が勢いを増し、当時の連立与党の保守党・自由党と最大野党の労働党の3党が「独立反対多数と自治権拡大は両立する」と働きかけるなど手を尽くし、独立賛成多数という結果を辛うじて阻止した経緯がある。ニコラ・スタージョン自治政府首相は21年5月の次回自治政府議会選挙までに独立の是非を問う住民投票を行うことを目指している。前回の住民投票では、独立後も「英国と通貨同盟を結びポンドを使用する」方針を示していたが、スタージョン自治政府首相は、「英国の単一市場からもポンドからも離脱」する「ハードな独立」を指向する。
英国との相互依存関係の深さを考えると、スコットランドの独立は、経済合理性に適う選択ではなく、財政事情も厳しくなると想定される。しかし、英国のEU離脱と同様に、国民感情が優先する選択が下される可能性はある。
(2)北アイルランドとアイルランドの統一
「合意なき離脱」の影響を最も受ける北アイルランドも、アイルランド共和国との統一の機運が高まる可能性がある。
北アイルランドでは2017年1月に自治政府が崩壊してから、政府不在が続いている。「ベルファウスト合意/グッド・フライデー合意」で、閣僚ポストを新英派のユニオニストと新アイルランド派のナショナリストで分けあうことになっているが、両派の不和が続いているためだ。
「合意なき離脱」となり国境管理問題に緊急の対処を迫られた場合、政党の代表者らによる協議で妥協点を見出すことができるか不透明であり、英国政府による直接統治のための法を制定することになると見られている。
北アイルランド議会(議席数90)も機能停止状態にあるが、議席数はユニオニストの最大政党・DUPが28議席、ナショナリストの最大政党シン・フェイン党が27議席で勢力が拮抗している。
「安全策」は、保守党政権に協力するDUPほかユニオニストの政党、議員は反対だが、北アイルランドの企業や農業団体は越境貿易を守るための受け入れ可能な手段と考えている
23。8月22日には、シン・フェイン党、SDLPなどナショナリスト政党の議員と非ユニオニストの議員ら49名が連名で、EU首脳会議のトゥスク議長宛に「安全策」は「グッド・フライデー合意を守り、南北間の協力を維持し、全島の経済を維持し、国境やその近辺での物理的なインフラや検査施設の復活を阻止するための法的に実行可能な保証は、これまでの前進を維持するために必要」という書簡を送っている
24。「安全策」を理由とする「合意なき離脱」の末の混乱に、ナショナリストは強く反発するだろう。
「ベルファウスト合意」には、アイルランド統一への支持が多数になったと判断される場合、住民投票の実施を求める条項がある。北アイルランドで実施された世論調査では、「自治政府」への支持が最も高く、「統一」への支持と英国政府による「直接統治」は拮抗している。18年調査では「統一」と「直接統治」が20%程度。「自治政府」への支持は政府の不在のためか、ここ2年で低下傾向にあるものの、それでも40%を占める
25。世論調査からは、アイルランド統一が、現実味を帯びているとは言えないが、「合意なき離脱」で世論のムードが一気に変わる可能性はある。
アイルランドのバラッカー首相も、ジョンソン政権誕生後の7月27日、「合意なき離脱」によって、「英国が北アイルランドの大多数の人々の希望に反して北アイルランドをEUから離脱させ、EU市民権を取り上げ、グッド・フライデー合意を弱体化させたら、好むと好まざるとにかかわらず、(アイルランド統一の)問題が持ち上がることになり、それに備える必要がある」
26と述べている。