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ネット社会の進展とシェアリング・エコノミー
平成は情報通信技術が著しく進化した時代だ。平成の初めに大学や研究機関での利用から始まったインターネットは、今や老若男女を問わず日常的に利用されるものになっている。肩掛けのショルダーフォンとして登場した携帯電話は、手のひらサイズのスマートフォンへと進化した。ネットやケータイ、SNSに親しみながら育ってきたデジタルネイティブ世代では、情報は無料で得られるもの、ゲームやアプリも無料で楽しめるものという価値観を持つようになっている。ネット社会の進展は、今の若者で特徴的な「お金がなくても楽しめる」消費態度に拍車をかける。
ネットやスマホが生活に浸透し、いつでもどこでも誰でも、情報を得て発信できるようになる中で、情報の流れが変化している。テレビや新聞などのマスメディアから一般消費者へという一方向の流れだけではなく、SNSを通じた横の輪が無数に生じるようになっている。今では、マスメディアで注目されたものが爆発的に流行るというわけではない。無数にある横の輪の中で注目されたものが、それぞれの輪で流行るという構図へと変わり、消費者が求めるものは多様化している。
さらに、足元で広がるシェアリングエコノミー(シェア経済)は、消費行動の土台を変えるような影響力をあらわしつつある。シェア経済では、ネット上のプラットフォームを介して、不特定多数の個人がつながり、個人が有する資産情報を容易に共有できる。これまでは事業者から新品を買うことが、あるいは事業者が提供するサービスを利用することが常識であった。しかし、多くの消費領域で個人間取引の存在感が増し、消費者の選択肢を増やしている。さらに、シェアという選択肢は、若者を中心に消費者で広がる「所有」から「利用」へという価値観の変化を加速させている。
5章では、「インターネット」の中でも、今後とも消費行動にも多大な影響を及ぼすであろう「シェア経済」の現状を捉えていく。
2|シェア経済の現状
(1) シェア経済とは~ネットを介した個人間のモノや移動手段、空間、スキル、お金のシェア
内閣府によれば、シェア経済とは「個人等が保有する活用可能な資産等をインターネット上のマッチングプラットフォームを介して他の個人等も利用可能とする経済活性化活動」
20を言う。また、シェア経済登場の背景には、1) AI・IoTの進展により、これまで見えなかった個人資産(モノやスペース、スキルなど)に関する情報をリアルタイムに不特定多数の個人で共有できるようなったこと、2) SNSの普及により、これまで顔が見えにくく信頼性に乏しかったネットの向こう側にいる他者について、ある程度の信用度が可視化されるようになったことなどがあげられる
21。
シェア経済では、多くの場合、事業者はプラットフォームの運営に徹して手数料を取るのみであり、個人が値付けしたモノやサービスを個人間で直接取引する。よって、提供(販売)側が得られる金額が高く、利用(購入)側の支払う金額は安くなる傾向があり、双方に利点がある。
図表5-1に、現在、日本で提供されているサービスの一部を示す。シェアリングサービスは、「モノ」や「移動手段」、「空間」、「スキル」、「お金」に大別できる。
モノのシェアでは、スマホのフリマアプリを利用した中古品売買が代表的だが、洋服やバッグの貸し借りに特化したサービスもある。移動のシェアでは、使っていない自動車を貸し借りするカーシェアのほか、同じ目的地へ向かう者同士が1台の自動車に同乗して、ガソリン代や高速代などの実費を割り勘するライドシェアもある。空間のシェアでは、空いている部屋を貸し借りする民泊サービスのほか、空いている駐車場や会議室等の貸し出しもある。スキルのシェアでは、家事・育児や介護などの生活面をサポートするサービスのほか、語学や投資等の知識供与型のものもある。お金のシェアは、クラウドファンディングと呼ばれるもので、起業や製品開発などの何らかの目的を持つ個人が、不特定多数の個人から寄付を募るものだ。
(2) 従来のビジネスモデルとの違い~CtoCで価格・多様さに利点、スマホで多数と瞬時につながる
とはいえ、シェアリングサービスと同様のものは昔から存在していたのではないだろうか。例えば、貸衣装やレンタカー、下宿、家政婦、自治体や互助会などがあげられるが、これらとの違いは何か
22。
まず、大きく異なるのは、従来のビジネスモデルは基本的にBtoCだが、シェアリングサービスはCtoCという点だ
23。よって、前述の通り、費用面で利点があるほか、提供される商品やサービスが多様になっている。従来は、消費者は事業者が提供する定型的なサービスの中から自分のニーズに近いものを選択していたが、シェアリングサービスでは個人が提供する多種多様なモノやサービスから選択する。個人の裁量で柔軟な対応もしやすく、ニーズとの合致度が高まる可能性がある。
一方で、従来でもフリーマーケットや互助会など、CtoCの形態を取るものもある。それらとの違いは、シェアリングサービスではプラットフォームを介して普段の生活では知りえない不特定多数の個人が瞬時につながり、多くのやりとりがネット・スマホで済む点だ。互助会は知り合い同士の助け合いであり、公園などで開催されるフリーマーケットは、その場へ行かないと利用できない。
不特定多数の個人がつながることは安全面に懸念をもたらす。しかし、利用者と提供者の取引終了後の相互評価や過去のコメントのやりとりを閲覧できる仕組み等により、ある程度の自浄作用が働いている。なお、政府の動きとしては、2016年11月に内閣官房IT総合戦略室内に「シェアリング・エコノミー推進会議」が設置され、シェアリングサービスの情報提供・相談窓口機能を持つほか、自主的ルールの普及・促進をはじめシェア経済の促進に関する取組みを推進している。また、2015年12月に、シェア経済の普及や発展を目的に、一般社団法人シェアリング・エコノミー協会が発足している。
22 詳細は、久我尚子「なぜ今、シェアリングサービスなのか?」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2018/10/18)
23 個人をマッチングするプラットフォーム事業者をあわせて、CtoPtoC、CtoBtoCとも表現される。