具体的なデータについては、表2に示した新しい総合事業に関する調査
3で浮き彫りとなる。調査によると、訪問型サービスの事業所は合計1万3,082カ所あり、その内訳は制度改正以前よりも基準を緩和したサービスAが87.5%、住民主体によるサービスBが4.7%、短期集中予防のサービスCが7.2%、移動を支援するサービスDが0.6%となっている。つまり、制度改正で創設された新しいサービス類型の実施個所は依然として少なく、制度改正前から実施されている介護予防給付がサービスAに移行しているに過ぎない。
実際、実施主体を見ても、介護保険の認定を受けていたサービス事業所が87.5%、介護サービス事業所以外が12.5%となっており、ほとんどが元の予防給付から移行したに過ぎない。
同じ傾向は通所型サービスでも見られ、表2の通りに1万2,511カ所に上る事業所のうち、基準を緩和したサービスAは65.5%、住民主体のサービスBが11.7%、短期集中予防のサービスCが22.9%となっており、サービスBを中心に新しい類型は伸びていない。
事業主体を見ても訪問型と同様、介護保険の認定を受けていたサービス事業所が72.3%、介護サービス事業所以外が27.7%という内訳になっているため、多様な主体の参加という点では十分とは言えない。つまり、大半の事業所は既存の介護保険サービス事業所が新しい総合事業に移行したに過ぎず、多様な主体の参入が図られているとは言い難い。
保険者機能の強化に関する他の論点としては、地域包括支援センターの機能強化も挙がっている。地域包括支援センターは中学校区単位を一つのメドとして設置されており、市町村が直営または委託する形で、高齢者の相談対応や権利擁護、軽度者のケアマネジメント、多職種が集まる地域ケア会議の運営など多様な事務を担っている。介護保険部会では業務量の増加に対応する人員体制の強化などが論点になると見られる。
市町村の取り組みに応じて、分配する補助金を増減させる「保険者機能強化推進交付金」の見直しも焦点になる見通しだ。これは介護予防や認知症対応などに関する市町村の取り組みを促すインセンティブとして2018年度予算から創設されており、2019年6月に閣議決定された骨太方針や成長戦略実行計画では「通い」の場の充実に取り組む市町村を支援するため、交付金制度の「抜本的な強化」が盛り込まれた。こうした流れを踏まえて、介護保険部会では評価指標の見直しなどが論点になる
4。
さらに、リハビリテーションなどのデータを集めることで、効果的な介護予防を模索する「科学的介護」も焦点となる。科学的介護については別に検討会がスタートしており、2021年度の報酬改定に反映させる方向でデータ収集に努める方向性となっている。今後、介護保険部会でもデータの利活用策などが論じられることになりそうだ
5。
1なお、新しい総合事業は介護保険制度の給付対象を事実上、縮小することを意味しているが、この点を厚生労働省は明確に説明していない。厚生労働省の老健局長などの立場で介護保険制度の創設に深く関わった堤修三氏は新しい総合事業について、「保険給付の対象範囲を縮小したのは社会保険制度としての裏切りだ」と述べている。日本経済新聞社編(2018)『2030年からの警告 社会保障砂上の安心網』p127を参照。
2 2018年9月28日『シルバー新報』、2018年6月21日『毎日新聞』を参照。
3 NTTデータ経営研究所(2019)「介護予防・日常生活支援総合事業及び生活支援体制整備事業の実施状況に関する調査研究事業」(2018年度老人保健健康増進等事業)を参照。
4 ここでは詳しく触れないが、保険者機能強化推進交付金については、(1)国による一律の基準に左右されるリスクがあり、地域の実情に応じて市町村が判断するという介護保険の原則に反する、(2)配分基準や配点が全て通知で決まっており、国の裁量に左右される分、自治体にとって予見可能性が極めて低い、(3)2018年度分については、個別市町村の配分額が明らかになっていない――といった点が大きな問題である。
5 科学的介護の論点や動向は2019年6月25日拙稿『介護の「科学化」はどこまで可能か』を参照。