なぜ消費は活性化しないのか-活性化を阻む6つの理由

2018年05月07日

(久我 尚子) ライフデザイン

1――賃金上げが進めば、消費は増えるのか?

アベノミクス開始から6年目に入ったが、依然として個人消費は力強さに欠ける。開始当初は、円安・株高の影響で消費が活気づいた時期もあった。しかし、その後、賃金の増加を上回って物価が上昇し、さらに消費増税の打撃もあり、消費水準指数は未だ増税前の水準に戻っていない(図表1)。

労働者の賃金も伸び悩んでいる。しかし、今年の春闘の賃上げ率は二十年ぶりの高水準との報道もあり、夏の賞与にも明るい見通しが多い。一方で、2016年頃から徐々に改善傾向を示す賃金指数に対して、一層低迷する消費水準指数の状況を見れば、「賃金が上がれば消費も増える」とは単純に言えないようだ。

本稿では、なぜ消費は活性化しないのか、改めて、その原因について見ていきたい。

2――消費が活性化しにくい理由

2――消費が活性化しにくい理由

1経済不安の強まり~現役世代の厳しい雇用環境や社会保障不安、高齢者の生活防衛意識の強まり
まず指摘できることは、消費者全体で経済不安を背景にした消費抑制意識が強まっていることだ。

足元では失業率が低下し、全体としては雇用環境は改善している。しかし、長らく続いた景気低迷の中で若い世代ほど厳しい雇用環境にある。生まれ年が若いほど、同じ年齢でも非正規雇用者率は上がっており(図表2)、正規雇用者であっても30~40代で賃金カーブがフラット化している(図表3)。フラット化は定年延長の影響で生涯賃金では大きな変化はないという見方もある。しかし、子育てなどで支出がかさむ時期に収入が伸びにくくなれば、消費抑制意識が強まることは自然だ。さらに、現役世代では少子高齢化による社会保障制度の世代間格差の懸念もある(図表4)。旧世代より厳しい雇用環境にある上、将来の経済不安もあれば、目先の賃金が多少上がっても消費にはつながりにくい。

一方で高齢者でも年金受給額の引き下げや医療費自己負担額の引き上げにより、生活防衛意識の強まりが予想される。次世代の厳しい経済環境から、経済面では子や孫を頼りにくい状況もあるだろう。
2高齢化の進行~世帯当たりの消費額が減り、賃金増の影響を受けにくい高齢世帯の存在感
高齢化の進行も消費が活性しにくい理由としてあげられる。世帯当たりの消費額は、世帯人員数の増加に伴い、世帯主の年齢が40~50代の世帯で膨らみ、60代以降では減少に転じる(図表5)。60代以上の世帯は世帯数で45.1%、消費額で41.3%を占めるが(2015年)、更なる高齢化により存在感は増していく。また、高齢世帯では、無職世帯が60代で47.3%、70代以上で82.3%であり(総務省「平成28年家計調査」)、賃金が増えても影響を受けにくい。さらに、前述の生活防衛意識の強まりの懸念もある。なお、現在の消費額を基に世帯構造の変化を考慮して、国内最終家計消費支出を推計すると、高齢世帯の増加に伴い、国内最終家計消費支出は2025年頃から減少に転じる見込みだ。

生活研究部   上席研究員

久我 尚子(くが なおこ)

研究領域:暮らし

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴

プロフィール
【職歴】
 2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
 2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
 2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
 2021年7月より現職

・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

【加入団体等】
 日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
 生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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