(2)執務フロア等のレイアウトの工夫
企業内ソーシャル・キャピタルを醸成するためには、休憩・共用スペースの効果的設置にとどまらず、執務フロア等のレイアウトの工夫も必要だ。
製品・サービスの開発戦略などの視点から、コラボレーションすべき複数の事業部門、管理部門、グループ会社を見極め、関連性のある部署やグループ会社を同一のオフィスに入居させ、ワンフロアに集結させたり近接するフロアに配置したりすることにより、異なる部門の従業員間のコミュニケーションを促進し部門間の壁を低くすることが、極めて重要になっている。特に日本の大手電機メーカーや大手化学メーカーのように、複数の事業群を幅広く兼営する総合型(コングロマリット型)企業において、その重要性が高まっているとみられる。これは、「範囲の経済性」により事業ポートフォリオのシナジー(相乗効果)を追求することに他ならない。
新製品・新事業や新技術の創出を担う研究拠点では、関連性のある複数の部署の研究開発スタッフ同士が連携しやすいオフィスレイアウトが必要だ。例えば、コニカミノルタが、2014年にデジタル印刷システムの開発機能を集約して開設した研究開発棟「コニカミノルタ八王子SKT」
6(東京都八王子市)では、プロダクションプリンター
7の研究開発をすり合わせをしながら進める化学、物理、電気、機械、制御の担当部署同士が隣接するように、実験フロア(3階)・執務フロア(4階)ともに同じフロアに集結したという
8。これらの部署は、それまでは分散したオフィスで業務を行っていた。またダイセルが、兵庫県姫路市に立地する中核的な研究開発体制を再配置し新サイトに集約するのに伴い、その中核となる執務棟として2017年に新設した「アイ・キューブ(iCube)」では、研究開発、生産技術、エンジニアリング、環境・安全などの技術スタッフが同じ執務室で仕事をすることでワークスタイルの変革を促すという
9。
コニカミノルタとダイセルは、関連する部署をワンフロアに集結させる事例だが、それらの部署を近接させつつも回遊性を重視する事例もある。例えば、キユーピーが、2013年に研究開発機能とグループのオフィス機能を併せ持つ新オフィスとして開設した「仙川キユーポート」(東京都調布市)では、執務スペース(2階・4階)と研究開発エリア(1階・3階)をあえて交互に配置して「ミルフィーユ構造」にすることで、上下階の回遊性を高め、そこでの偶然な出会いや会話が生まれることを狙っているという
10。
6 SKTは、Smart R&D office for Knowledge work, and Trans-boundary communication の略。「多様な『知的共創空間』であり、国境や組織の壁を『超越』した対話を実現する環境性、安全性にも配慮した『スマート』な研究開発拠点」との思いが込められている(コニカミノルタ株式会社「東京サイト八王子に研究開発新棟を建設」『ニュースリリース』2013年4月8日)
7 商用印刷や企業内集中印刷などに用いられる高速・高精細のオンデマンド印刷機。
8 「ワクスタの視点:雑談歓迎、『化学反応』起こすコニカミノルタ」日経BPネット『ワクスタ(The Work Style Studio)』2016年6月16日より引用。
9 株式会社ダイセル「『イノベーション・パーク』の設置と新執務棟『アイ・キューブ』での業務開始について」『ニュースリリース』2017年3月28日より引用。「iCube」は、Innovation for Production, Process, Product という三つのInnovationを表現している(同ニュースリリース)。
10 東京都環境局地球環境エネルギー部計画課「グリーンビル事例〈仙川キユーポート(キユーピー株式会社)〉」『東京グリーンビルレポート2015』2015年7月より引用。仙川キユーポート」の名称の由来は、キユーピー(kewpie)と、「港」を表すポート(port)を組み合わせている(キユーピー株式会社「キユーピーグループ研究開発・オフィス複合施設『仙川キユーポート』開設」『ニュースリリース』2013年9月11日)。