問題公表による他社株価への影響-持合ネットワーク構造を用いた分析

2017年09月01日

(高岡 和佳子) リスク管理

1――株式持ち合い状況調査に基づく企業間ネットワーク

ニッセイ基礎研究所では、相互に株式を保有し合う関係を「株式持ち合い」と定義し、上場企業間の株式持ち合い状況を調査してきた。1997年(1996年度版)からその株式市場における比重を示す集計結果の公表をはじめた。しかし、2004年(2003年度版)を最後に集計結果の公表を取りやめた。この背景には、市場における「株式持ち合い」の規模縮小、持合比率を市場全体で集計した値の重要性低下などがある。
しかし、日本の企業社会には「株式持ち合い」という構造が依然として残る。そのため、企業間の持ち合い状況を個社毎に比較・検討することの重要性は失われていないと考えられる。そこで、かねてから要望が多かったこともあり、2005年6月に本調査の基礎データ(個社別の持合比率等)1を有償で提供し始め、現在も継続している。
 
今回は、これら調査の基礎を成す株式持ち合い関係データから構成されるネットワーク構造(以下、持合ネットワーク)に着目する。2章では、持合ネットワークの構造を分析し、国内企業の関係性を把握する。その分析結果を前提に、3章では、持合ネットワーク上における企業間の距離に焦点をあてる。その上で、特定の企業による問題公表が、持合ネットワーク上つながりのある他企業の株価に影響を与えるか否か及び、その影響範囲を確認する。
 
1 1988年(1987年度版)以降から提供可能
 

2――持合ネットワーク構造分析

2――持合ネットワーク構造分析

1二極化する企業間の持ち合い状況~絡み合う企業群と周辺に点在する企業
まずは、今回の分析対象である金融機関を除く、東証一部上場企業(1,766社)の持合ネットワーク(2015年3末時点)を俯瞰する(図表2)。

各ノード(黒点)が各企業を表し、ノード間を結ぶ線(以下、パス)は企業間が株式持ち合い関係にあることを意味する。

ネットワークの中心に、多くの企業が集まり、複雑に絡み合っている様子が確認できる。このことから、「株式持ち合い」の規模が縮小しているとはいえ、日本の企業社会には「株式持ち合い」という構造が依然として残ることがわかる。一方、その周辺には、いずれの企業とも株式持ち合い関係にない、もしくは極わずかな企業とのみ、持ち合い関係にある企業も数多く存在する。このように、企業間の持ち合い状況は個社毎に異なる。これが、現在においてもなお、企業間の持ち合い状況を個社毎に比較・検討する価値があると考える理由である。
2企業間の距離(=最短経絡長)~7割の企業はつながりあっている
次に、ネットワーク分析で多用される最短経絡長により持合ネットワーク上における企業間の距離を数量化する。最短経絡長とは、2つのノード間を結ぶ経路の中で、最も短い経路の長さである。なお、パス毎に異なる距離を設定する事も可能だが、今回の分析において各パスの距離は一律とする。各ノード間のA~Gの7つのノードからなるネットワーク(図表3)を例に、最短経絡長について具体的に説明する。AとEを結ぶ経路は、右上の経路(青い経路)と左下の経路(赤い経路)の2経路存在するが、この場合、最短経絡長は2(青い経路)となる。AとFのように経路が全く存在しない場合、最短経絡長は∞(無限大)となる。
ここでは、最短経絡長を分析の対象とする。

まず、全ての分析企業間の最短経絡長を算出した。算出結果を基に作成した最短経絡長の分布が、図表4である。最短経絡長が1、つまり企業間が株式持ち合い関係にあるのは、4,613パターンで、全組み合わせの0.3%に満たない。しかし、最短経絡長が4の組み合わせは300,000パターンを超え、全組み合わせの19.4%に及ぶ。中には、最短経絡長が11、つまり10社を経由して、ようやくつながる組み合わせもある。その結果、全組み合わせのうち、経路が存在しない組み合わせは全体の51.6%に止まる。言い換えれば、48.4%の組み合わせには、何らかのつながりが存在することになる。
次に、経路が存在する企業群(以下、持合グループ)に着目する。図表3の例ではA~EとF~G、それぞれが持合グループであり、A~Eは構成企業数5の持合グループ、F~Gは構成企業数2の持合グループとなる。分析の結果、今回の分析対象である金融機関を除く、東証一部上場企業(1,766社)から構成される持合ネットワークは、14の持合グループと、いずれの持合グループにも属さない506の企業に分類できることがわかった。そして、最大の持合グループ(第1G)は1,229の企業から構成されることもわかった。つまり、約7割の企業は互いにつながりあっていることになる。なお、何らかのつながりが存在する割合は48.4%であるが、これは、無作為に2つの企業を抽出した結果、共に第1Gに属する企業が選ばれる確率(7割×7割)にほぼ等しい。
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