北京市海淀区の場合、加入対象となる被保険者は18歳以上の区民、区に勤務する北京市戸籍の保有者である。年間保険料は被保険者の戸籍(都市/農村)と加入時の年齢で峻別され、現役世代、年金を受給している高齢者は任意で加入する。2016年の保険料負担(年間)は、都市戸籍で60歳以上が最も高い1,094元、これは同区の受給年金月額のおよそ1/3にあたる。保険料が最も低いのは農村戸籍の加入者で、年齢が18~39歳の792元となっている。
介護保険は、国有大手の生命保険会社である中国人民人寿が引き受けており、海淀区政府と協働で運営している。保険料の納付期間は15年間で、給付開始年齢が65歳以上としている点がパイロット地区とは大きく異なるであろう。
介護サービスを利用するための認定については、 65歳以上の被保険者が身体、メンタルにおいて6ヶ月以上の治療を連続して受けており、医療機関が自立した生活ができないと証明した場合、保険会社に申請する。保険会社は、第三者の判定機関に依頼し、食事、衣類着脱、睡眠、排泄の日常生活動作(ADL)について要介護度を評定、サービス項目を決定する。目安としては、ADL4項目のうち1つが自立してできない場合は、要介護度が軽度、以降、2~3つの場合は中度、4つ全てできない場合は重度の3段階となっている。ただし、65歳以上で給付要件を満たしたとしても、保険料の納付期間が15年間に満たない場合、15年分に達するまでの保険料を一括で支払わなければならない。
要介護度の軽度・中度・重度によって、月の支給限度額を900元、1,400元、1,900元と設定し、重度の場合は軽度と比べてより手厚い給付を受けることができる。給付は訪問、通所、施設介護等いずれも対象となっている。訪問介護については、日常生活、在宅介護、リハビリ、食事の配達、救急対応に加えて、バリアフリーのための住宅リフォームや重度の要介護者向けの車イス、特殊ベッドのレンタルも対象となる。また、パイロット地区では給付対象外の通所介護については、地域コミュニティが運営する社区のデイサービスの利用や、リハビリを受けることも可能である。施設介護については、1人暮らしの高齢者、一人っ子を亡くした高齢者で自立した生活が困難な場合などある程度限定している。
なお、自己負担については戸籍や年齢によらず、月額限度額を超えた部分を負担するとしている。
このように、北京市海淀区の介護保険は、パイロット地区の介護保険とは一線を画している。財源の多くは被保険者が支払った保険料で、制度として独立している。加入が任意であること、民間生保と協働運営していることから、位置づけとしては民間保険と思われがちであるが、海淀区政府が保険料の一部を補助しているため、どちらかといえば公的な保険としての位置づけとなっているようである。ただし、保険料の支払いを考えると、区の対象者全員が加入可能で、給付を受けられる保険とは言い切れない。海淀区の導入状況を参考にしつつ、今後、北京市全体に広げるのかについては更なる検討が必要であろう。
4-まず、認知症など自立した生活が困難な高齢者4,000万人を支える