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3機種の開発・実用化に見る共通点
前章では多様な福祉用具の中から、新たな価値を提供する3機種について触れた。筆者の視点で3機種のみを抽出したが、開発の背景や機器の特長等を整理すると、各開発企業及び開発製品には幾つかの共通点を見出すことができるようだ。その主な共通点は、
(1)開発者の課題解決に向けた強い"思い"が開発の原動力となっている
(2)ユーザー目線からの開発が行われている
(3)ベンチャー企業である
(4)機器のデザインに配慮がされている
(5)生産・販売面では複数のアライアンスを活用している
などである。以下で少し補足を加える。
(1)については、それぞれの開発者が、車いすユーザーの活動範囲の制約要因、閉じこもりなどの人が感じる孤独感、さらに難聴者との対話の課題等を的確に把握しており、その課題解決に強い"思い"を持っていることが明らかであった。将来の市場規模予想も容易ではない福祉用具の探索型の機器開発を行うことには多くのリスクや困難が伴ったと推察される。
また、機器開発においては(2)のとおり、ユーザー目線からの課題解決を目指し、新たな技術開発やICTの活用などで各課題の壁を突破している点がある。同時に、機器の操作性や付加機能などにも細かな配慮がされている。
さらに(3)に記したとおりベンチャー企業の特長でもある機動性を活かし、有力な協働メンバーを得て、協力企業との関係を構築しつつスピード感のある事業展開に努力がなされている。
(4)として、各製品ともデザイン面にも工夫がされ、ユーザーが使ってみたいと思うようなユニークなデザインが施され、製品の認知や普及の点でも重要な要素となっていよう。これらを背景として各社が目指すのはユーザーの課題解決とQOL向上である。
(5)開発に特化した迅速な展開を図るために、生産や販売面では複数の企業との提携を活用している。
これらは基本的に福祉用具であるが、コスト低減などのため、応用範囲の拡大の可能性をも有していよう。
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真のユーザー・ニーズの把握に向けて
一般のあらゆる新製品やサービスの開発において、ユーザー・ニーズの把握は鉄則である。しかし、福祉用具等のユーザーである、多様な状態像の高齢者や障がい者等の持つ真のニーズ把握は、なかなか容易ではないように思われる。このため、開発者はユーザー目線に立ってその課題解決を可能とする製品開発に当たることが、極めて重要である。
また、急速に高齢化が進行する中、自立した高齢者の中にも筋力や視力、聴力等々の生理的な機能の加齢変化によって、日常生活の様々なシーンで支障を来たす人も増えてこよう。したがって、社会の様々な場所や状況においても、それらの課題を改善し解決する用具や機器開発をも促進する必要性が高まっていよう。このためには、開発企業が高齢者等の持つ真のニーズや潜在的なニーズを的確に把握することが必要である。しかし、予想外にそれらニーズ情報の収集と開発企業への情報伝達手段が限られているのも事実であろう。
その数少ない貴重な機会として国際福祉機器展 の会場における一般ユーザーと開発企業の意見交換の機会があるが、開催期間が通常3日間ほどという時間的制約もある。この点では公益財団法人テクノエイド協会のホームページに「福祉用具ニーズ情報収集・提供システム」があり、ネットを活用して企業間や様々なユーザーからの福祉用具への意見やアイデアを収集・提供する取組が行なわれている。
また、国際福祉機器展の主催団体である一般財団法人保健福祉広報協会のホームページには全国の福祉機器の常設展示場(2016年1月現在で78ヵ所)が掲載されている。それら展示場を有する地域で、見学可能な高齢者や被介護者、介護者等には、様々な福祉用具に直に触れ、試用して欲しいと考える。それらの直接・間接ユーザーが様々な福祉用具等の存在を知ることは、個々レベルが直面する介護などの課題解決に役立つものであろう。勿論、介護保険制度による要介護者や介護者の課題解決に向けて、介護サービス事業者や地域包括支援センター等の関係者による福祉用具の活用促進の重要性は言うまでもない。
そのためにも、社会全体に福祉用具等の必要性や活用促進についての問題意識を高める普及・啓発の効果的な取組がさらに必要である。そして、その延長上に、社会的レベルで介護分野の課題解決に向けて有効な新たな価値を有する、廉価で使い易い福祉用具等を提供可能とする製品群の登場が加速することを期待したい。
おわりに