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インドネシア経済:24年1-3月期の成長率は前年同期比+5.11%~選挙関連支出が消費を押し上げ、2期連続の5%成長

2024年05月07日

(斉藤 誠) アジア経済

インドネシアの2024年1-3月期の実質GDP成長率1は前年同期比(原系列)5.11%増(前期:同5.04%増)と上昇し、市場予想2(同+5.08%)を上回る結果となった。

1-3月期の実質GDPを需要項目別に見ると、消費の拡大が成長率上昇に繋がった(図表1)。

民間消費(対家計民間非営利団体含む)は前年同期比5.33%増(前期:同4.78%増)と上昇した。費目別に見ると、ホテル・レストラン(同6.43%増)と輸送・通信(同6.41%増)、住宅設備(同4.98%増)が堅調に拡大した一方、食料・飲料(同4.32%増)や保健・教育(同3.69%増)が伸び悩んだ。

政府消費は前年同期比19.90%増となり、前期の同2.81%増から上昇した。

総固定資本形成は前年同期比3.79%増(前期:同5.02%増)と鈍化した。機械・設備投資(同2.93%増)が持ち直した一方、建設投資(同5.46%増)の増勢が鈍化した。

純輸出は成長率寄与度が▲0.23%ポイント(前期:+0.45%ポイント)となり3四半期ぶりのマイナスとなった。まず財・サービス輸出は前年同期比0.50%増(前期:同1.64%増)と鈍化したものの、2期連続のプラス成長だった。輸出の内訳を見ると、財輸出(同0.38%増)が小幅に減少したが、サービス輸出(同10.99%増)の好調が下支えた。また財・サービス輸入は同1.77%増(前期:同0.15%減)とプラスに転じた。

供給項目別に見ると、第三次産業が好調だった(図表2)。

第三次産業は前年同期比7.39%増(前期:同5.50%増)と上昇し、過去6四半期で最も高い伸びとなった。内訳を見ると、行政・国防(同18.88%増)が急上昇したほか、構成割合の大きい卸売・小売(同5.49%増)が回復した。またビジネスサービス(同9.63%増)とホテル・レストラン(同9.39%増)、運輸・倉庫(同8.65%増)、情報・通信(同8.39%増)、教育(同7.34%増)が堅調に拡大した。一方、金融・不動産(同3.35%増)は鈍化した。

第二次産業は前年同期比5.99%増(前期:同5.75%増)と上昇した。内訳を見ると、全体の2割を占める製造業(同4.13%増)が小幅に上昇したほか、鉱業(同9.31%増)と建設業(同7.59%増)が好調を維持した。一方、電気・ガス・水供給業(同5.28%増)が鈍化した。

第一次産業は前年同期比3.54%減(前期:同1.12%増)と減少した。
 
1 2024年5月6日、インドネシア統計局(BPS)が2024年1-3月期の国内総生産(GDP)を公表した。
2 Bloomberg調査

1-3月期GDPの評価と先行きのポイント

インドネシア経済は、2023年は一次産品輸出の減少に物価高と金利上昇が加わり景気が減速、通年の成長率は同+5.04%となり、コロナ禍からの経済活動の正常化により好調だった2022年の同+5.31%から低下した。しかしながら、今回発表された2024年1-3月期の成長率は前年同期比+5.11%と、2023年10-12月期の同+5.04%から上昇、2四半期連続で加速しており、堅調な景気動向が続いている。

1-3月期は消費支出が回復して成長率が上昇した。特に非営利団体の消費支出は前年同期比+24.29%(前期:同+18.11%)と、政党による選挙キャンペーンにより好調だった。インドネシアでは大統領選と総選挙の選挙運動が昨年11月28日から2月10日まで行われ、2月14日に投開票されている。また政府消費が同+19.90%(前期:同+2.31%)と急上昇、選挙関連の政府支出が寄与したとみられる。

またGDPの半分以上を占める家計消費支出は前年同期比+4.91%(前期:同+4.47%)と上昇し、+5%近い伸びとなった。今年は消費が活発となるイスラム教の断食月(ラマダン)シーズンが早く、1-3月期にホテル・レストランや交通費、食品などのラマダン関連の消費が増えた。

一方、投資(前年同期比+3.79%)は建設投資を中心に底堅い伸びを保ったものの、+5%を上回る伸びが続いた過去2四半期から鈍化した。インドネシア中銀の金融引き締めによる借入コストの上昇や輸出停滞、そして大統領選挙を控えた先行き不透明感により企業の投資意欲が低下したとみられる。

また外需の伸びも鈍化した。財貨輸出(前年同期比+0.50%)は世界的な需要の鈍化に、石炭やパーム油などインドネシアの主要輸出品の価格低迷が加わり伸び悩んだ。もっともサービス輸出(同+10.99%)は好調を維持した。1-3月期の外国人旅行者数は前年同月比+25.4%の303万人となり、コロナ禍前の8割近い水準まで回復している(図表3)。
 
1-3月期は選挙関連やラマダンの季節要因により消費が押し上げられたが、今後もインドネシア経済が力強さを保つことができるかどうかは不透明な状況だ。4-6月期は選挙関連支出による消費押し上げ効果が剥落すると共に、ラマダンに伴う消費押し上げ効果が弱まるとみられるためだ。またインドネシア中銀は4月に米国の高金利の長期化や中東情勢の悪化などの影響を受けた通貨安への防衛措置として半年ぶりに0.25%の利上げに踏み切っている(図表4)。依然として通貨ルピアの減価圧力は根強く、インドネシア中銀が追加で利上げする可能性があるだけに、経済見通しに不確実感がある。もっとも大統領選挙が終わり、政治の不透明感が後退して投資が持ち直していくことによる景気下支えが見込まれる。10月にはプラボウォ政権が発足する予定であるが、ジョコ政権の成長重視の経済政策の方向性が大きく変わることはないとみられている。
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠(さいとう まこと)

研究領域:経済

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴

【職歴】
 2008年 日本生命保険相互会社入社
 2012年 ニッセイ基礎研究所へ
 2014年 アジア新興国の経済調査を担当
 2018年8月より現職

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