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コラム

「ブルー寄付」という選択肢-個人の寄付が果たす、資金流入の突破口

2025年11月04日

(高岡 和佳子) リスク管理

2015年に国連でSDGs(持続可能な開発目標)が採択されたことをきっかけに、サステナビリティという言葉は徐々に浸透した。近年はメディアなどで取り上げられる機会が多く、認知度も高まった。企業や地方公共団体が積極的に取り組むイメージが強いだろうが、個人の活躍も期待されている。個人に期待される役割としてわかりやすいのは、エシカル消費や食品ロス削減など持続可能な消費活動であるが、身近な課題の解決や、新しい価値を社会に提案するなどの活躍も期待されている1。また、資産形成の際にサステナビリティファンドの購入やSDGsに積極的に取り組む金融機関を選択することで、SDGs達成に向けた資金供給に間接的に協力するという方法もある。
 
世界銀行の報告書2によると、海洋・水資源の健全化には2030年までに少なくとも1兆ドルもの莫大な資金が必要とされているが、十分な資金が供給されていない。公的資金だけでは不十分なので、民間資金の流入が望まれるが、様々な原因で民間資金の流入が進んでいない。具体的には、ブループロジェクト3の多くが小規模プロジェクトであり、手続きやコストの面で非効率である、過去事例が少ないため効果やリスクの評価が困難であり、結果としてリスクが過大評価される一方で潜在的リターンが過小評価されやすいといった障壁がある。
 
金融機関が投資家(顧客)から預かった資金を運用する場合、顧客が不利益を被らないように、投資対象のリスクとリターンの評価を厳格かつ保守的に行わざるを得ないという側面がある。特に、過去のデータや成功事例が少ないブループロジェクトに対しては、その評価はより慎重になる。加えて、間接的にSDGs達成を支援したいという顧客の思いに応えるためにも、投資対象のプロジェクトが本当にSDGs達成に貢献するのかといった視点での判断も慎重にならざるを得ない。
 
そこで、個人が寄付という形で直接的にSDGs達成に向けた資金を供給するという別のアプローチ(以下、ブルー寄付)を検討したい。寄付は投融資とは異なり、基本的にリターン(収益)を求めない資金提供なので、リスク・リターンではなく使途の有益性や社会的インパクトが重要視される。個人が直接的に寄付するプロジェクトを選択する場合でも、寄付者の納得感を得るためには、プロジェクトの適切性、成果の可視化、適切な資金管理と透明性確保等は必要である。しかし、投資家保護ではなく公共的信頼が重視されるため、寄付者の納得感を得るための手段に技術的要件はない。寄付で多額の資金を調達することは難しいかもしれないが、ブループロジェクトの多くは小規模プロジェクトであり問題にないケースが多いだろう。
 
ブルー寄付を通じて、これまで資金が届きにくかったブループロジェクトの事例を積み重ねることができれば、その効果やリスクの適正な評価方法の構築にも役立ち、やがては、金融機関が投資判断を行うための客観的な根拠となり得る。ブルー寄付は、金融市場の厳格なルールを通さずに、ブループロジェクトへ資金供給できるだけでなく、ブルーファイナンスの障壁を乗り越えるための重要な触媒となる可能性を秘めているのではないだろうか。
ブルー寄付を通じたブループロジェクトへの資金供給が広がるためには、ブループロジェクトに対する意識の高さとブループロジェクトに直接寄付できる環境が不可欠である。SDGsのゴール別に関心のアンケート調査結果を見る限り、個人のブループロジェクトに対する意識は低くはなさそうだ。問い方や調査時期によって差はあるが、「海の豊かさを守ろう」は上位もしくは中位に位置する(図表1)。実は、ブループロジェクトに直接寄付できる環境も整っている。返礼品を中心に話題になったふるさと納税制度だが、返礼品よりも使途を注視して寄付を選ぶ方法(ガバメントクラウドファンディング、以下GCF)があり、ブループロジェクトに関するGCFも少なくない。一般的なふるさと納税と同様にポータルサイトなどが整備されているので、GCFの選択も手続きも簡単である。GCFは返礼品がないケースもあるが、返礼品を選べるケースが多い。プロジェクトを実施する自治体が提供する返礼品に限られるが、選択肢が限られることで、返礼品を選ぶ時間が減るといったメリットもある。
 
1 SDGs 推進本部「持続可能な開発目標(SDGs)実施指針改定版」(2023年12月19日)
2 World Bank. 2025. "Accelerating Blue Finance:Instruments, Case Studies, and Pathways to Scale"
3 海洋環境や生物多様性の保全(下水処理高度化を含む)、持続可能な海洋経済活動を推進する取組み
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