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インバウンド消費の動向(2025年7-9月期)-量から質へ、消費構造の転換期

2025年10月21日

(久我 尚子) ライフデザイン

■要旨
 
  • 2025年7-9月期の訪日外客数(約1,013万人:速報値)は前年同期比11.4%増、消費額(約2兆1,310億円:一次速報)は同11.1%増と堅調に推移した。3期連続で四半期1,000万人超、2兆円超の水準となり、この規模が定着しつつある。ただし、平均宿泊日数が2日以上伸びた一方で、1人1日当たり消費額は約2割減少した。背景には、為替の円高傾向や高級ブランド品の値上がりにより割安感が薄れたことがあり、特に中国や香港で消費単価減少が目立った。
     
  • 消費額を国籍・地域別に見ると、最多は中国(全体の27.7%)、次いで台湾(14.2%)、米国(10.4%)が続く。ドイツやベトナムなど欧州・アジア新興国で大幅な伸びが見られ、訪日客の多様化が進んでいる。消費額の内訳では、中長期で「買い物」から「体験」へのシフトが着実に進んでおり、サービス消費が7割超を占めた。
     
  • 今期の象徴的な変化は、これまで「買い物代」比率で圧倒的首位だった中国が、初めてトップの座を譲った点だ(前期39.9%→今期32.9%)。この背景には、サービス消費志向の強い欧米客の増加と、アジア圏のリピーター増加がある。韓国や台湾、香港ではリピーター率が8~9割に達しており、初回の観光名所巡りを終えた旅行者が、より深い日本体験を求めるようになっていると考えられる。
     
  • 今後、欧米圏でもリピーターが増えれば、体験型消費はさらに拡大するだろう。ナイトタイムエコノミーの可能性は、1人当たり消費額を押し上げる余地として注目される。為替変動など短期的な要因はあるが、日本は質の高い文化体験を手頃な価格で提供できる旅行先だ。政府の「2030年6,000万人、15兆円」という目標達成には、訪日客数の拡大だけでなく、1人当たり消費額を引き上げる「質」の追求が不可欠となる。


■目次

1――はじめに~割安感の揺らぎと、体験志向への加速
2――訪日外客数~1,000万人超えが定着、前期から中国が首位に復帰
3――訪日外国人旅行消費額~総額は増加も、消費単価の減少傾向が続く
  1|全体の状況~滞在日数は伸びるが、1日当たり単価は2割減
  2|国籍・地域別の状況~中国が首位、欧州・アジア新興国で大幅増
4――訪日外国人旅行消費額の内訳~「買い物」から「体験」へのシフトが進む
  1|全体の状況~為替に左右される「買い物代」、構造的に高まる体験志向
  2|国籍・地域による特徴~中国の「買い物代」比率が初めて首位を譲る
5――おわりに~構造変化の兆しが鮮明に、「量」から「質」への転換期

生活研究部   上席研究員

久我 尚子(くが なおこ)

研究領域:暮らし

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴

プロフィール
【職歴】
 2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
 2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
 2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
 2021年7月より現職

・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

【加入団体等】
 日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
 生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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