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若者消費の現在地(3)こだわりが生む選択の主体性~データで読み解く20代の消費行動

2025年10月08日

(久我 尚子) ライフデザイン

1――はじめに~自分で選びたい消費と若者の主体性

これまでの分析1では、若者の消費行動に見られる二つの特徴を取り上げてきた。第一弾では、若者のメリハリ消費の状況を分析し、限られた予算の中で「ここには積極的に投資する」「ここは抑える」というように意識的に選択を行っている姿が浮かび上がった。第二弾では、選択肢や情報があふれる時代における、他人やサービスからの「おすすめ」を参考にしながら消費行動を形づくる「選ばない消費」に注目した。その結果、大量の情報に囲まれて生活しているがゆえに、受動的に流されやすいとも見られがちな若者の消費行動は、むしろ戦略的で柔軟であることが明らかになった。若者は状況に応じて「自分で決める/任せる」を切り替え、最適な選択スタイルを使い分けている。

このような選択スタイルの使い分けが明らかになる一方で、これまでの分析では、特定の領域において若者が強い主体性を発揮する様子もうかがえた。たとえば、推し活では、他者の意見を参考にしつつも、最終的には自分の好みやこだわりを軸に選択している様子がうかがえた。この「選びたい」という意識には、こだわりや独自性への志向が表れており、若者の消費を理解するうえで欠かせない視点と言える。

本稿では、こうした「自分で積極的に選びたい」領域に焦点を当て、そのジャンルと理由を明らかにする。どの領域で主体性が発揮され、どのようなこだわりが背景にあるのかを分析することで、前稿までに扱った「選ばない消費」との対比を通じ、若者の消費スタイルをより深く理解していきたい。

なお、分析には前回と同様に、ニッセイ基礎研究所が2025年6月に1都3県(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)に住む20代を対象に実施したインターネット調査2のデータを用いる。
 
1 久我尚子「若者消費の現在地(1)メリハリ消費の実態~データで読み解く20代の消費行動」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2025/9/24)、「若者消費の現在地(2)選択肢があふれる時代の「選ばない消費」~データで読み解く20代の消費行動」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2025/9/30)
2 「若者の消費行動に関する調査」、調査時期は2025年6月、調査対象は1都3県(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)に住む20代、インターネット調査、株式会社マクロミルのモニターを利用、有効回答数318、基本属性は性別は男性50.9%、女性49.1%、年齢は20~24歳48.7%、25~29歳51.3%、属性の詳細は付表参照。

2――自分で積極的に選びたい消費ジャンル

2――自分で積極的に選びたい消費ジャンル~「推し」「趣味」ににじむ主体性

1|全体の傾向~「趣味」「推し活」など楽しみと自分らしさの領域は「自分で選びたい」
若者が日頃、他人やサービスのおすすめではなく「自分で積極的に選びたい」と思う消費ジャンルをたずねた結果(複数選択)を見ると、最も多いのは「趣味(音楽、映画、ゲーム、読書、創作活動、サブスク、アプリ課金など)」(30.5%)で、次いで「推し活(アイドル、アニメ、俳優、VTuberなど「推し」への支出)」(22.6%)、「ファッション」(22.0%)、「旅行」(20.1%)、「日々の食事(自炊・食材の購入など)」(20.1%)、「貯蓄・投資」(16.7%)までが約2割で続く(図表1(a))。一方で、「特にない」(18.9%)も約2割に上り、自分で選ぶことにこだわらない層も一定数存在している。

上位に並んだジャンルはいずれも「自分らしさ」や「こだわり」が反映される分野であり、最終的な決め手は他者の意見ではなく、自分の感性や好みに置かれている様子がうかがえる。     

なお、図表1(a)には前稿の分析で用いた「他人やサービスの推奨に影響されているかどうか」という問いに対して「まったく影響されていない」と回答した割合もあわせて示している。これを見ると、「趣味」や「推し活」では「自分で選びたい」と「影響されていない」がいずれも比較的高くなっている。これは、前稿で示したように外部情報を発見や探索のきっかけとして利用しつつ、最終的には自分の好みやこだわりを軸に主体的に選んでいると考えられる。

一方で、「自己啓発・スキルアップ」や「家電・ガジェット」では、「自分で選びたい」割合は1割を下回って低いものの、「影響されていない」割合は高い。つまり、積極的には選びたいわけではないが、他者のおすすめに依存しているわけでもない。この一見矛盾した構図の背景には、そもそも選択の基準が明確で迷いが生じにくいという特性があげられる。たとえば、家電であれば欲しい機能や性能がほぼ決まっており、自己啓発であれば習得したい資格やスキルが定まっているだろう。こうした領域では、ファッションや趣味のように「選ぶこと自体を楽しむ」「他者のおすすめから新たな発見を得る」といった余地は小さく、淡々と判断が下されると考えられる。
2|属性別の傾向~ライフステージや収入によって異なる「選びたい」対象
次に、属性別の傾向を見ると、「趣味」はパート・アルバイト(56.3%、全体より+25.8%pt)や個人年収200万円未満(36.6%、同+6.1%pt)で高くなっている。また、「推し活」は女性(32.1%、同+9.5%pt)やパート・アルバイト(34.4%、同+11.8%pt)、専業主婦・主夫・無職・その他(32.4%、同+9.8%pt)、個人年収200万円未満(30.7%、同+8.0%pt)で高い。「日々の食事」はパート・アルバイト(31.3%、同+11.5%pt)で、「貯蓄・投資」は個人年収400~600万円未満(27.7%、同+11.0%pt)で高い。また、「美容」は女性(19.9%、同+7.6%pt)や既婚者(20.0%、同+7.7%pt)、専業主婦・主夫・無職・その他(21.6%、同+9.3%pt)で高く、レジャーはパート・アルバイト(25.0%、同+12.7%pt)、健康はパート・アルバイト(18.8%、同+9.7%pt)で高くなっている。

一方で「特にない」は25~29才(23.9%、同+5.0%pt)、パート・アルバイト(25.0%、同+6.1%pt)、専業主婦・主夫・無職・その他(27.0%、同+8.1%pt)で高い。

なお、今回の分析に用いたデータではパート・アルバイトの過半数が年収200万円未満である。また、既婚者やパート・アルバイト、専業主婦・主夫・無職・その他では全体と比べて女性が多い傾向がある。つまり、消費ジャンルごとに選択割合が高い属性の一部は、性別や所得階層といった背景要因を反映している。

以上より、「趣味」や「推し活」は女性や相対的に低所得層・非正規層で、「貯蓄・投資」は中堅所得層で、「美容」は女性や既婚層で多く選ばれるなど、ライフステージや所得水準によって、自分で選びたい対象やその強さに違いが見られる。

3――自分で積極的に選びたい理由

3――自分で積極的に選びたい理由~選択理由から見る4つの主体性パターン

前節でも消費ジャンルごとの「積極的に選びたい」割合の違いから、その背景を簡単に考察したが、ここではさらに踏み込み、自分で積極的に選びたい消費ジャンルと、その理由をたずねて得たデータから、コレスポンデンス分析を実施し対応関係を分析した(図表2)。二次元で可視化することで、消費ジャンルごとに積極的に選びたい度合いとその背景の違いを大局的に把握できる。なお、第1軸(32.4%)と第2軸(22.2%)の累積寄与率は54.6%であり、バブルの大きさは「積極的に選びたい」と答えた割合を示している。
分析結果を見ると、「積極的に選びたい理由」のプロットの傾向から、横軸は「自己意思重視志向―他者依存否定志向」、縦軸は「習慣・経験志向―リスク回避志向」を示す様子が読み取れる。消費ジャンルと理由の対応から、いくつかの特徴的なグループが浮かび上がる。

第一に、右上の「他者依存否定×習慣・経験」には、自己啓発・スキルアップや健康が位置し、「自分の責任で選ぶべき」「他人のおすすめが自分に合わない」などの理由と近接しており、将来や身体に直結する領域では、他者に委ねることを避け、自分で選ぶ姿勢が強い様子が見て取れる。

第二に、右下の「他者依存否定×リスク回避」には、貯蓄・投資、旅行、交際費が位置し、「情報を調べて納得して選びたい」「人やサービスを(完全には)信頼していない」「失敗や後悔を避けたい」などの理由が近接しており、金銭的負担や万が一のリスクが大きい領域では、楽しみよりも慎重さや合理性を優先して主体的に選ぶ姿勢がうかがえる。

第三に、左下の「自己意思重視×リスク回避」には、家電・ガジェットや住居・家具・インテリア、レジャーが位置する。「高価格・影響が大きい消費」「人任せにして失敗経験あり」「選ぶ過程自体を楽しんでいる」などの理由が近接しており、自分で意思を持って選ぶ意識は強いが、その背景には失敗回避やコスト感覚がある。

加えて注目されるのは、住居・家具・インテリア、レジャー、旅行といった領域が、「選ぶ過程自体を楽しんでいる」「選ぶ手間を惜しまないタイプ(だから)」といった理由とも近接している点である。これらの領域は金額規模が大きくリスク回避的な慎重さが求められる一方で、情報収集や比較検討のプロセス自体を前向きに楽しむ姿勢も垣間見える。つまり、リスク回避型の主体性のなかにも、選択のプロセスを自己表現や楽しみの一部としてとらえる側面が含まれていると考えられる。

第四に、左上の「自己意思重視×習慣・経験」には、ファッションや美容、趣味、推し活、日々の食事といった領域が位置し、「自分の好みやこだわりが強い」「自分にしか判断できない」「他人に左右されたくない」などの理由と近接しており、楽しみや日常に根ざした領域で強い主体性が発揮されている様子が読み取れる。

なお、分析の基データであるクロス集計表の結果を見ると(付表2)、どのジャンルにおいても「自分に合うかどうかは自分にしか判断できないから」という理由が一定程度共通して見られる。つまり、自分で積極的に選択する際の姿勢として、自己判断への強い信頼感が若者に広く共有されていると言える。そのうえで、二次元マップに投影することで、そうした共通性の上に、楽しみの表現型やリスク回避型といったジャンルごとの対応の仕方の違いが浮かび上がる。

この分析から明らかになるのは、若者の「自分で選びたい」という意識は、ジャンルによって異なる背景や動機に基づいており、一律に「主体性がある/ない」と単純に区別できるものではないということである。

さらに、バブルサイズ(自分で積極的に選びたい割合)との関係を見ると、趣味や推し活、ファッションなど左上に位置する領域ではバブルサイズが比較的大きく、「自分で選びたい」意識が強い。これらの領域は「自分の好みやこだわりが強い」「自分にしか判断できない」といった理由と近接しており、自己表現やこだわりを重視する姿勢が、積極的な選択意欲につながっている様子がうかがえる。一方で、右下や右上に位置する領域では、「責任を持って選ぶべき」「失敗や後悔を避けたい」といった理由が近接しており、バブルサイズは相対的に小さいものの、必要な場面では手間を惜しまず慎重に選ぶ姿勢が見て取れる。

生活研究部   上席研究員

久我 尚子(くが なおこ)

研究領域:暮らし

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴

プロフィール
【職歴】
 2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
 2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
 2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
 2021年7月より現職

・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

【加入団体等】
 日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
 生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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