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図表でみる世界の出生率-出生率が高い国・地域と低い国・地域、それぞれにどんな特徴があるのか?

2025年10月01日

(三尾 幸吉郎)

1――低迷する日本の出生率

現在日本の合計特殊出生率1は、国連が公表した「World Population Prospects 2024」によると1.217人(2024年)であり、人口を長期的に維持するために必要とされる「人口置換水準」を大幅に下回る状況にある(図表-1)。

これまでの経緯を簡単に振り返ってみると、戦後の第一次ベビーブーム(1947~49年)・第二次ベビーブーム(1971~74年)を経て、1970年代後半から住宅や教育コストの増大、育児と仕事の両立困難性、非正規雇用の増加、「子は少なくても質を高く育てる」と考える家族観の主流化などから、非婚化・晩婚化・晩産化が徐々に進展、日本の合計特殊出生率は下がっていった。そして1990年代に入ると、毎年のように過去最低を更新するようになったため危機感が強まり、1994年には「エンゼルプラン」、1999年には「新エンゼルプラン」と少子化を食い止めるための対策が本格化していった。その後、2010年前後には第二次ベビーブーム世代(団塊ジュニア)が出産のラストチャンス期を迎えたのに加えて、リーマンショック後の景気回復や子ども手当(現在の児童手当)など経済的な育児支援による後押しにより、日本の合計特殊出生率は反転上昇した。但し、それも一時的なものにとどまり、再びじりじりと低下している。他方、日本の人口は、合計特殊出生率が人口置換水準を下回った後もしばらくは、栄養、衛生、医療などの改善により増加を続けていたが、2010年をピークに減少に転じている。
 
1 15歳から49歳までの女性の年齢別出生率を合計したもので、一人の女性が一生の間に産むと推定される子供の平均数を示す指標。

2――世界の出生率~少子化に悩む国・地域を中心に

2――世界の出生率~少子化に悩む国・地域を中心に

1|世界の出生率(概観)
ここで世界の出生率を概観してみよう。世界平均の合計特殊出生率は、日本と同様にじりじり低下しており、現在は2.248人(2024年)である。但し、日本とは違って、人口置換水準を上回る水準にあることなどから、世界全体の人口は引き続き右肩上がりで増えている(図表-2)。

なお、地域別に見ると、アフリカは4.015 人、中央アジアは3.179人、西アジアは2.538人などと、発展途上にある地域の合計特殊出生率は高い。逆に、北米は1.594人、欧州は1.402人、東アジアは1.026人と経済発展が進んだ地域は低い。
また、経済発展度を示す一人当たりGDPを横軸に、合計特殊出生率を縦軸に取ったマトリクスを作成し、そこに人口1千万人以上の世界91ヵ国の位置をプロットして見ると(図表-3、参考図表)、両者の関係は概ね「逆相関」に近い関係にある。但し、アフリカ(図表-3の△印)のように一人当たりGDPが1万米ドル以下の国々の場合は明確な「逆相関」だが、それを超える国々の場合は「逆相関」と言うよりも、むしろ「無相関」に近いと言えるだろう。したがって、一人当たりGDPが1万米ドルを超えている欧米(図表-3の●印)や近隣アジア(図表-3の■印)を見る場合には、一人当たりGDPを説明変数とする解説は困難なので、その他のどんな要因で合計特殊出生率に高低差が生じたのか、分析する必要がでてくる。
2|日本より出生率の高い国が多い欧米
欧米諸国の合計特殊出生率を概観して見ると(図表-4)、経済的に豊かなことなどから世界平均・人口置換水準を上回っている国はない。但し、ほとんどの国が日本より高く、低いのはウクライナとイタリアだけである。
欧米諸国で最も高いルーマニアは、児童手当や育児休業制度など経済・制度面の対策に加えて、「子だくさん」を肯定的に評価する家族観、避妊・中絶に否定的な文化的価値観、住宅コストの低さなどが貢献して、相対的に高い。第2位のフランスは手厚い児童手当や育児休業制度など世界的に有名な経済・制度面の対策に加えて、「子だくさん=豊かさ・幸福の象徴」という家族観や、出生率が高い移民の多さも貢献している。第3位の米国は経済・制度面の対策にはやや消極的だが、「子だくさん」を肯定的に評価する家族観(中南部など)、シングルマザーを受け入れる文化的価値観、子育てしやすい余裕ある住宅事情、出生率が高い移民の多さなどが貢献している。

一方、欧米諸国で最も低いウクライナは、ソ連崩壊後の経済低迷で人口流出が起きたことや非婚化・晩婚化・晩産化など家族観の変化、2014年以降の紛争・2022年以降の全面戦争などを背景に、合計特殊出生率は急低下した。2番目に低いイタリアは若者の高い失業率や非正規雇用の多さなど経済的要因や「マンマ文化」と呼ばれる母親を中心とした家族観を背景に、非婚化・晩婚化・晩産化が進んだのに加え、保育施設の不足など制度的対策の不足もあって低い。3番目に低いスペインはイタリアに似た構造で、「若者が親元を離れにくい→独立が遅れる→出産が遅れる→子供が少ない」という状況にある。
ちなみに「少子化対策の模範」として注目されたスウェーデンの合計特殊出生率は1.434人と欧米平均を下回っている(図表-4)。かつて2010年には、スウェーデンの合計特殊出生率が1.973人まで回復し、一時は人口置換水準を視野に入れたが、その後は失速した(図表-5)。その他の北欧諸国もほぼ同様の経路を辿っている。したがって、手厚い経済・制度面の対策を講じるだけだと、合計特殊出生率の回復も一時的な改善にとどまる恐れがあるようだ。

 
3|日本より出生率の低い国・地域が多い近隣アジア
近隣アジアの合計特殊出生率を概観して見ると(図表-6)、一人当たりGDPが日本とほぼ同水準にある韓国は0.734 人、台湾は0.863人と、日本よりさらに低い。韓国や台湾で合計特殊出生率が低下した要因は日本とほぼ同じである。出産奨励金、育児休業制度、児童手当・保育費支援など経済・制度面での対策を積極化しているものの、合計特殊出生率に目立った改善は見られない。「子は少なくても質を高く育てる」といった家族観が根付いてきたことも、合計特殊出生率の改善を阻む一つの要因となっているようだ。
他方、一人当たりGDPが日本より低い中国では、コロナ禍の2020年に日本の合計特殊出生率を下回り、2024年は1.013人まで低下した。中国で低下した要因は、非婚化・晩婚化・晩産化、育児・教育コストの高騰、育児と仕事の両立困難などに加えて、一人っ子政策がある。その一人っ子政策は2015年に終了、経済・制度面の対策や恋愛・結婚支援などを展開しているが、トレンド変化には至っていない。長年に渡る一人っ子政策で「子どもは一人で十分」という家族観が定着したことが改善を阻む大きな要因となっている。ちなみに国連の予測(中位推計)では、中国の人口は50年後に10億人を割り込む見通しとなっている。

3――おわりに

3――おわりに

このように世界の出生率を概観してみると、経済発展度(一人当たりGDP)が低い国・地域は高く、高い国・地域は低いという傾向がある。一人当たりGDPが一定の閾値を超えてくると、自己実現を重視するなど個人主義的な傾向が強まり、経済・制度面の制約に直面して家族観も「子は少なくても質を高く育てる」に変化して非婚化・晩婚化・晩産化が進み、合計特殊出生率は人口置換水準を下回り、しだいに人口が減少し始めるというプロセスを辿るようである。

出生率が高い国・地域と低い国・地域、それぞれにどんな特徴があるのかをみると、ルーマニア、フランス、米国など経済・制度面の少子化対策に加えて「子だくさん」を肯定的に評価する家族観を持つ国・地域の合計特殊出生率は相対的に高い。一方、経済・制度面の少子化対策をしていても「マンマ文化」のイタリアや「儒教文化」の韓国などのように「女性は家庭で子育てを担うもの」との家族観が一部に根強く残る国・地域の合計特殊出生率は相対的に低い。また一頃「少子化対策の模範」と持て囃された北欧諸国では、手厚い経済・制度面の少子化対策で一時的に人口置換水準を視野に入れる改善を見せたものの、その後は失速し持続的な改善とはなっていない。ちなみに北欧諸国に「女性は家庭で子育てを担うもの」との家族観も「子だくさん」を肯定的に評価する家族観もほとんど見られない。

このように出生率の高低を決める要因は、経済発展度や経済・制度面の少子化対策に加えて、文化面の影響も大きいと言えそうである。
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