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若者消費の現在地(1)メリハリ消費の実態~データで読み解く20代の消費行動

2025年09月22日

(久我 尚子) ライフデザイン

5――おわりに~若者のメリハリ消費が映す生活のリアル

本稿では、都市部に住む20代の若者がどのようなジャンルにお金をかけ、どのようなジャンルを抑えようとしているのかを分析した。その結果、趣味や推し活、旅行、美容など自分の楽しみや体験、他者との関わりに積極的に投資する一方で、日々の食事や住居といった生活基盤にかかわる支出については節約意識が相対的に強いことが明らかになった。

優先的にお金をかけるジャンルでは趣味が最上位となり、体験や関係性を重視する「コト消費」が中心となっていた。注目すべきは、推し活と貯蓄・投資が同程度に選ばれている点である。感情的な充足と将来への備えを並行して重視する姿は、従来の世代論では捉えきれないバランス感覚を映し出している。

属性別分析からは、消費の優先順位が収入水準以上に、性別や職業、未既婚といったライフステージ要因に左右されることが確認された。「いくら稼いでいるか」よりも「どのように暮らしを組み立てているか」が、消費パターンを決定づけている。

さらにコレスポンデンス分析により、若者が消費ジャンルごとに異なる判断軸を使い分けていることも確認された。推し活では感性や自己表現、貯蓄・投資では合理性と主体性、日常消費では効率性を重視するなど、多様な価値観が消費を支えている。

一方、出費を抑えたいジャンルでは食費が上位を占める一方、趣味や推し活は"守る消費"として位置づけられていた。また、食費や交際費のように、同じジャンル内でも抑える部分と残す部分が併存する両義性は、現代の若者のメリハリ消費の特徴と言える。

こうした結果は、若者の消費行動が単なる節約と浪費の二分法ではなく、生活の役割や意味づけに応じて調整されていることを示している。限られた予算の中で自分らしい価値を追求する姿は、主体的かつ戦略的な選択の表れと言える。

次回の第2回では、このメリハリ消費の背後にある「選ばない消費」の構造を取り上げる。他人やサービスからのおすすめに委ねる場面と、自分の意思で積極的に選ぶ場面がどのように切り替わっているのかを探り、現代の若者の消費行動のさらなる実像に迫りたい。

生活研究部   上席研究員

久我 尚子(くが なおこ)

研究領域:暮らし

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴

プロフィール
【職歴】
 2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
 2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
 2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
 2021年7月より現職

・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

【加入団体等】
 日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
 生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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