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若者消費の現在地(1)メリハリ消費の実態~データで読み解く20代の消費行動

2025年09月22日

(久我 尚子) ライフデザイン

3――消費ジャンルと選択基準~多様な価値観に支えられるメリハリ消費

また、優先的にお金をかけている消費ジャンルと、そのジャンルでお金を使う際の考え方や行動についてたずねて得たデータから、コレスポンデンス分析を実施し、消費ジャンルと消費態度の対応関係を分析した(図表2)。なお、第1軸と第2軸の累積寄与率は48.9%となっている。

分析結果を見ると、消費態度のプロットの傾向から、横軸は「感性・こだわり志向―合理性・効率志向」、縦軸は「外部基準―自分基準」を示す様子が読み取れる。

消費ジャンルと消費態度の対応から、いくつかの特徴的なグループが浮かび上がる。右上には「貯蓄・投資」と「情報収集・熟慮(自分で情報を調べて納得してから選ぶ)」が位置し、合理性と主体性を両立させた基準に基づく領域と言える。

左上には、「自己啓発・スキルアップ」「推し活」と共に「自己表現・アイデンティティ重視」「多少高くても良いもの(を選びたい)」が位置し、自己充足やアイデンティティを重視する消費が位置する。

一方、右下には「日々の食事」「外食・テイクアウト・デリバリー」「美容」「健康」と共に、「価格比較・クーポン利用(などで節約を心がける)」「コストパフォーマンス重視」「SNSなどの影響(SNSなどで話題になっていたものに影響されやすい)」などが位置し、効率性や外部情報に依拠しながら合理的に選ぶ日常的な消費行動が見てとれる。

左下には「住居・家具・インテリア」が「中古・リサイクル品優先」「耐久性・品質重視」と共に位置し、堅実さや耐久性を重視する生活基盤型の消費が配置されている。

さらにこの近傍では「ファッション」と「サステナビリティ配慮(環境や社会への配慮を大切にする)」も近接しており、外見へのこだわりと同時に社会的・環境的な価値を重ね合わせて消費を選ぶ姿勢は、現代の若者の特徴と言える。

なお、分析の基データであるクロス集計表の結果を見ると(付表2)、どのジャンルにおいても「コストパフォーマンスを重視する」という態度は一定程度共通して見られる。つまり、コスパ重視は若者に広く共有された基盤的な姿勢であると言える。そのうえで、二次元マップに投影することで、そうした共通性の上に「自己表現を重視する領域」「効率性を追求する領域」「堅実さを優先する領域」といったジャンルごとの特徴が浮かび上がることが確認された。

この結果からは、20代のメリハリ消費が単に「どのジャンルにお金をかけるか」という選択だけでなく、「どのような基準で選ぶか」という多様な価値観によって支えられていることが分かる。すなわち、推し活や趣味では感性や自己表現を基準に、日常の食事では効率性を基準に、貯蓄や投資では合理性と主体性を基準に、とジャンルごとに異なる判断軸が作用している。
 

4――出費を抑えたい消費ジャンル

4――出費を抑えたい消費ジャンル~日常コストの節約と暮らしの制約による違い

1|全体の傾向~日常コストの節約と"守る消費"
一方、若者ができるだけ出費を抑えたいと考えている消費ジャンルをたずねた結果(最大3つまで選択可能)を見ると、最も多いのは「日々の食事」(28.9%)で、次いで「外食・テイクアウト・デリバリー」(28.0%)、「交際費」(19.2%)、「ファッション」(15.7%)、「美容」(13.5%)、「趣味」(11.3%)、「住居・家具・インテリア」(10.7%)までが約1割で続いた(図表3)。

食費や住居といった生活必需的な項目が比較的上位に上がっており、若者は日常生活に不可欠な基盤的支出について節約意識を強く持っている様子がうかがえる。なお、「住居・家具・インテリア」の選択割合は、先の優先的にお金をかけている消費ジャンル(3.8%)を2倍以上上回っている。

一方で、「推し活」や「旅行」、「貯蓄・投資」などは出費を抑えたい対象としては下位にとどまり、むしろ"守るべき消費"として位置づけられている。お金をかけているジャンルとの対比からも、趣味や推し活は多少の制約があっても優先的に維持しようとするジャンルであると見られる。

興味深いのは、「日々の食事」「外食・テイクアウト・デリバリー」「交際費」が、お金をかけているジャンルと出費を抑えたいジャンルの双方で上位に入っている点である。背景には、同じ支出の中に"節約したい側面"と"投資したい側面"が併存していることがある。たとえば、食事では自炊や日常的な食材購入では節約意識が働く一方、外食や特別な食体験には積極的に支出する姿勢が考えられる。加えて、「日々の食事」は生活必需であるがゆえに、本人の意思にかかわらず結果的に支出がかさんでしまい、回答上、お金をかけているジャンルとしても上位に現れている可能性がある。交際費についても、義務的な会合は抑制される一方で、親しい人との交流や贈り物にはむしろお金をかけるなど、積極性と効率性が同居しているのだろう。

このように、同じカテゴリの中でも「抑える部分」と「優先的に残す部分」とが併存している可能性が示唆される。こうした両義性も若者のメリハリ消費を特徴づける要素の一つと言える。
 
2|属性別の傾向~収入水準と暮らしに映る違い
属性別に見ると、出費を抑えたいジャンルについては、優先的にお金をかけているジャンルと比べると属性による違いは小さいが、いくつかの特徴は確認できる(図表3(c))。

女性は「日々の食事」(34.0%、全体より+5.1%pt)を抑えたいと考える割合が高い。また、パート・アルバイトでは「交際費」(31.0%、同+11.8%pt)や「旅行」(17.2%、同+9.0%pt)が高い。

個人年収200万円未満では「外食・テイクアウト・デリバリー」(33.3%、同+5.3%pt)や「美容」(22.2%、同+8.7%pt)、「推し活」(22.2%、同+12.8%pt)、「貯蓄・投資」(11.1%、同+10.2%pt)が、200~400万円未満では「レジャー」(18.8%、同+9.4%pt)や「旅行」(15.6%、同+7.4%pt)が、400~600万円未満では「日々の食事」(35.4%、同+6.5%pt)や「趣味」(19.0%、同+7.7%pt)が高くなっている。

つまり、出費を抑えたいジャンルにおける属性差は、収入水準による影響が比較的大きい様子がうかがえる。相対的に低収入層ほど外食や美容、推し活といった体験消費での節約を意識する一方、中収入層ではレジャーや旅行など余暇的支出を調整し、高収入層では日々の食事といった基本的生活費や趣味といった個人的楽しみを抑制する傾向がある。すなわち、収入制約の度合いによって節約対象の優先順位が変化していると考えられる。ただし、年収400~600万円未満層は男性や既婚者、会社員・公務員の比率が高く、この層で見られる節約意識の特徴は、収入水準そのものよりもライフステージ要因の影響を強く受けている可能性がある。

生活研究部   上席研究員

久我 尚子(くが なおこ)

研究領域:暮らし

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴

プロフィール
【職歴】
 2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
 2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
 2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
 2021年7月より現職

・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

【加入団体等】
 日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
 生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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