NEW

不動産投資市場動向(2025年上期)~日本市場の取引額は高水準を維持。グローバル市場は回復基調を辿るも依然低調

2025年09月18日

(渡邊 布味子) 不動産市場・不動産市況

国内の不動産取引動向(2025年上期)

不動産市場調査会社MSCIリアル・キャピタル・アナリティクス(以下、MSCI)によると、2025年上期の国内不動産取引額1は約3.6兆円となり、前年同期比▲13%減少した。第1四半期(前年同期比+3.4%)は増加してスタートしたものの、第2四半期(同▲35.2%)が大きく減少したため、上期累計の取引額は減少に転じた(図表1)。
セクター別では、オフィスが約1兆6,300億円(占率45%)と最も大きく、次いで賃貸マンション(約4,600億円、占率13%)、商業施設(約4,500億円、12%)、物流施設(約4,300億円、12%)、ホテル(約3,100億円、9%) 、開発用地(約2,800億円、8%)、ヘルスケア(約300億円、1%)、データセンター(約100億円、0%)の順となった。また、取引額の増減率(前年同期比)をみると、ヘルスケア(+61%)やオフィス(+9%)が増加した一方、データセンター(▲66%)やホテル(▲38%)、賃貸マンション(▲30%)、開発用地(▲30%)は大幅に減少した(図表2)。建築費の高騰により開発用地の取得が引き続き敬遠されたほか、データセンターやホテルの減少は昨年の活発な取引に対する反動であり、投資需要は依然として堅調だと考えられる。
次に、購入額を投資主体別(国内資本/外国資本)でみると、国内資本が約2兆6500億円(前年同期比▲25%)、外国資本が約9500億円(同+59%)となった(図表3)。国内資本による購入額は過去最高を記録した前年から落ち着きを見せた一方、外国資本による購入額が増加した結果、購入額に占める外国資本の割合は26%(過去10年平均26%)に回復した。
外国資本による購入額(9,500億円)をセクター別にみると、オフィスが約4,900億円(占率52%)と最も大きく、次いで商業施設(約1,800億円、占率19%)、賃貸マンション(約1,200億円、13%)、ホテル(約900億円、9%)、物流施設(約400億円、4%)、データセンター(約100億円、1%)、開発用地(約100億円、1%)の順となった(図表4)。オフィスは、空室率の低下と賃料の上昇を背景に今後の収益拡大が期待できるセクターとして、国内外の投資家から強い需要を集めている。
また、外国資本を国・地域別にみると、過去1年間の購入額に占める割合は、米国が47%(前年比+8%)、カナダが22%(同+18%)、シンガポールが14%(同▲7%)となった。引き続き、北米系とアジア系の投資家が大きな比率を占めている(図表5)。
オルタナティブ投資調査会社プレキンの調査によると、アジア太平洋地域における不動産ファンドの取引額を国・地域別に確認すると、オーストラリア47億ドル(占率62%)、日本15億ドル(20%)、韓国12億ドル(16%)の占率が高まる一方、東南アジア1億ドル(占率1%)、香港1億ドル(1%)、中国0億ドル(0%)は低下した(図表6)。4月以降、米国の関税引き上げに対する懸念から米国への投資資金が他地域に分散する動きがみられるなか、アジア太平洋地域では関税率が比較的高い新興国への投資が減少している。
また、アジア太平洋地域を投資対象とするインフラファンドの資金調達額をみると、2025年上期は日本を対象とする調達額が増加した(図表7)。今後は、データセンターを中心に国内インフラ施設への投資の増加が予想される。
 
1 1,000万ドル(約15億円)以上。開発用地およびM&A取引を含む。2025年8月26日時点で把握した取引データを集計。

金融研究部   准主任研究員

渡邊 布味子(わたなべ ふみこ)

研究領域:不動産

研究・専門分野
不動産市場、不動産投資

経歴

【職歴】
 2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
 2006年 総合不動産会社に入社
 2018年5月より現職
・不動産鑑定士
・宅地建物取引士
・不動産証券化協会認定マスター
・日本証券アナリスト協会検定会員

・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員

レポートについてお問い合わせ
(取材・講演依頼)