本稿では、政府統計を用いて、民間企業の男性の育休取得状況を分析したが、2024年度の育休取得率は40.5%となり、初めて4割台に達した。前年度(30.1%)から10.4ポイントの大幅上昇となり、政府目標の2025年度50%に向けて着実に前進している。
産業別に見ると、「鉱業,採石業,砂利採取業」が首位に躍り出る一方、「金融業,保険業」「学術研究,専門・技術サービス業」「情報通信業」が継続的に上位を占めていた。
また、2022年10月から開始された産後パパ育休制度の活用状況を分析すると、育休取得率が低い業種で同制度の活用率が高い状況も見え、制度改正の狙い通り「すそ野拡大」効果が現れている。一方で、前年度首位だった「生活関連サービス業,娯楽業」は大幅に低下し、コロナ禍収束後の需要回復に伴う人手不足や業務特性が影響している可能性がある。
事業所規模別では、100~499人規模が500人以上をやや上回る逆転が生じ、組織的な制度導入の効果が見て取れた。しかし、小規模事業所との間には依然として大きな差があり、政策効果の浸透は一様ではない。
育休取得期間については2023年度の結果だが、男性で「1か月以上」が4割を超え、長期化が進んでいる。ただし、産業によって短期集中型と長期型に分かれ、取得率の高さと期間の長さは必ずしも一致しておらず、この背景には業務特性や組織風土、評価制度の在り方の違いがあると考えられる。
以上を踏まえると、男性育休は量的拡大から質的充実の段階へと移りつつある。今後の課題としては、第一に、代替要員の確保と同僚の負担軽減があげられる。制度の浸透と長期化に伴い、残る職場の負担をどう分担・評価するかが鍵となる。単なる業務分担ではなく、報酬や評価制度の見直し、生産性向上による業務総量の削減も求められる。第二に、小規模事業所への支援強化がある。助成や人員計画策定支援といった具体的な支援策がなければ、格差の是正は進みにくい。第三に、産業特性に応じた柔軟な制度運用である。特に需要変動や人手不足の影響を受けやすい業種では、業界単位の取り組みや繁忙期を考慮した制度設計が不可欠である。
男性育休の浸透は、単なる制度利用の促進を超えて、職場全体の働き方や価値観の変革を促している。取得する本人と支える同僚が共に安心して働ける環境を整えるには、「お互い様」の精神を基盤とした組織文化の醸成が欠かせない。さらに、労働力不足が深刻化する中で、性別や家族構成にかかわらず全ての社員が力を発揮できる柔軟な働き方の構築が、企業の持続的成長の前提条件となるだろう。
なお、日本の男性育休制度は国際的に見ても高水準にある。OECD諸国との比較では、日本の父親に向けた育休制度は期間・給付水準ともに手厚く設計されており、給付水準を考慮した「実質的な休業期間」はOECD内で最長水準に位置する
3。制度基盤の充実度を踏まえると、今後はその活用の質的向上がより重要となる。
3 「OECD Family Database」(2024)によると、父親専用の有給育児休業期間の最多は韓国(54.0週)、次いで日本(52.0週)、フランス(30.2週)、スロバキア・ルクセンブルグ(28.0週)と続く。これに育休中の給付水準(Average payment rate)を掛け合わせた実質的な休業期間(Full‑rate equivalent)の最多は日本(31.1週)、次いで韓国(29.2週)、スロバキア(21.0週)、ルクセンブルグ(20.5週)、スペイン(16.0週)と続く。