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トランプ関税後の貿易状況(25年9月更新版)

2025年09月05日

(高山 武士) 欧州経済

1.トランプ関税を巡る概況

まず、トランプ関税を巡る状況を整理すると、8月以降、関税に大きな変更を及ぼす新たな動きは総じて限定的だった。関連するニュースとしては、米EU合意に関する共同声明の公表(8月21日)、連邦控訴裁判所によるIEEPA(国際緊急経済権限法)を根拠に発動した関税措置(図表1の①・③・④が該当)への違法判決(8月29日)、日米合意に関する大統領令への署名1(9月4日)などが挙げられる。
 
1 従前の米国側の説明には、日本側の主張(既存関税と15%の高い方を採用するなど)と齟齬があったが、大統領令で修正され、関税率に関しては日本側の主張に則した内容となった。

2.米国の貿易収支、輸入額、関税収入

米国の貿易統計から輸出入全体の動向を確認すると、25年7月の米国の貿易収支(図表2)は1039億ドルの赤字で6月(▲857億ドル)から赤字幅が拡大した。貿易赤字の拡大は主に輸入の増加が寄与している。
次に輸入の推移を品目別に確認する(図表3・4)。
7月の品目別輸入額を見ると、自動車関税の対象となっている車両等(HS2桁コードで87)の落ち込みが目立つほか、1-3月期の駆け込み輸入が大きかった医薬品(30)・有機化学品(29)が6月に続き前年比マイナスとなった。一方、機械類(84)や電子機器等(85)の輸入は前年比で大幅プラスの状況が継続しているほか、7月は貴金属等(71)の輸入増も目立っている(図表3・4)。貴金属等の輸入増については、金輸入に関税が課されるとの思惑から増加した可能性がある2
続いて主要地域別3に輸入動向を確認すると、5月以降は同様の傾向が続いており、中国やカナダからの輸入減少をASEAN(特にベトナム)やNIEs(特に台湾)といったアジアからの輸入増が相殺している(図表5・6)。また、EUは6月に続いて7月もマイナス成長となり、マイナス幅も拡大している。
7月の米国の地域別輸入額は、減少が大きい地域では対アイルランドの前年比▲46.6、対中国の▲35.3%、対サウジアラビアが▲18.5%、対ドイツが▲10.5%、対カナダは同▲10.4%、一方で増加が大きい地域では対オーストラリアの121.9%、対スイスの109.6%、対アルゼンチンの62.8%、対台湾の50.2%、対ベトナムの49.7%、対タイの46.6%となっている(図表6赤丸)。
続いて関税収入の動向を確認すると、7月の関税収入は財務省のデータでは277億ドルとなり6月(266億ドル)から増加した。国勢調査局が公表している推計値(Calculated Duty)でも281億ドルと6月(236億)から増加した。推計値による関税率(=関税収入推計値/輸入金額)は9.6%となった(図表7)。
品目別の関税率を見ると4(図表8)、10%ポイント前後関税率が上昇した品目が多いなか、50%の関税が課せられた鉄鋼製品(73)やアルミニウム・同製品(76)、中国からの輸入比率が高い品目である傘(66)や羽毛製品(67)の関税率の上昇幅が大きくなっている。一方、動物(01)、鉱物性燃料(27)、医療用品(30)、肥料(31)、貴金属(71)、鉄鋼やアルミ以外の卑金属(74・78・79・80)の関税率の上昇幅は抑制されている。
地域別の関税率を見ると、7月の関税率は概ねどの地域でも6月とほぼ同水準の関税率となっている。地域ごとの傾向としては、中国および自動車を多く輸出している地域(日本、ドイツ、韓国)の関税率が高めになっている。ただし、自動車輸出シェアが高いもののUSMCA適合品の例外が設けられているカナダやメキシコにおける関税率は比較的抑制されている。
また、7月について各品目、地域別にどの程度全体の関税率の押し上げ(≒関税収入の増加)に寄与したのかを見ると(図表10・11)、品目別では自動車(87)、電子機器等(85)、機械類等(84)、地域別には中国、メキシコ、日本、韓国、ドイツの押し上げ寄与が大きく(関税収入の増加に寄与しており)、この傾向は6月と同様である。
なお、中国は関税率が大きく引き上げられる一方で、輸入が減少し輸入シェアが低下したため、関税率の上昇がかなり抑制されている(図表11、貿易ウエイト変化および交差項の寄与がマイナスになっている)。この状況も6月と概ね同様であるが、中国の前年差寄与は6月の1.23%ポイントから7月には1.93%ポイントに上昇している。
 
2 例えば、Leslie Hook, US hits one-kilo gold bars with tariffs in blow to refining hub Switzerland, Financial Times, Aug 8 2025(2025年9月5日アクセス)。
3 G20構成地域(EUおよびAUを除く)および米国の輸入シェアが大きいアイルランド、スイス、台湾、タイ、ベトナムが対象。
4 米国の輸入データから計算。なお、HS2桁コードで抽出しているため、実際に関税が課されている品目とは一致しない。

経済研究部   主任研究員

高山 武士(たかやま たけし)

研究領域:経済

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴

【職歴】
 2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
 2009年 日本経済研究センターへ派遣
 2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
 2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
 2014年 同、米国経済担当
 2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
 2020年 ニッセイ基礎研究所
 2023年より現職

 ・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
  アドバイザー(2024年4月~)

【加入団体等】
 ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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