インド経済の見通し~関税逆風下でも、政策効果により内需主導で6%成長を維持

2025年09月04日

(斉藤 誠) アジア経済

次世代GST

インド政府は現在、物品・サービス税(GST)の合理化を進めている。GSTは2017年に導入され、従来の複雑な間接税体系を統合する大改革となったが、実際には5%、12%、18%、28%といった4段階の税率区分が残り、制度の複雑さは解消されなかった。分類の曖昧さや頻繁な税率調整が企業にとって事務コストの負担となり、また複数の税率区分は消費者にとって価格比較を難しくする要因となっていた。

9月22日以降は、現行の12%と28%の区分を廃止し、5%と18%の2段階に統合することが決定している。これにより一部の耐久消費財や日用品などで税率が引き下げられ、家計の可処分所得を押し上げる効果が期待される。民間消費の拡大を通じ、内需主導の成長を後押しする見通しである。足元では、税率引き下げを見込んで耐久財市場などで購入を先送りする動きがみられるが、新税率の下で10月の祭事期を迎えれば需要は急速に回復すると予想される。また次世代GSTは脱税や租税回避の余地を縮小し、取引の透明性を高める効果も期待される。

もっとも、減税による税収減は財政赤字拡大のリスクを伴う。インフラ投資や社会保障支出を重視する政府にとって、財源確保は大きな課題である。次世代GSTは企業活動の効率化と消費刺激を通じて経済成長にプラスに寄与する一方、財政健全化との両立という課題を併せ持つ制度改革であり、今後の執行状況が注目される。

経済見通し

経済見通し:米関税がリスク要因も、堅調な内需が景気を下支え

インド経済は、米国の関税政策と世界貿易の減速が当面の重石となるが、堅調な内需を背景に2025年度は+6%台の成長を維持すると予想する。インフラ投資・減税措置や追加利下げなどの財政・金融政策が景気の下支えとなるだろう。

民間消費は、2025年度予算による個人所得税減税1や緩やかなインフレ環境に支えられ堅調に推移する。今後インフレ率は上昇に転じるものの、6~9月の南西モンスーンが平年をやや上回る降雨となっており、食料供給が安定するため、食品価格の高騰リスクは限定的である。農村部では収穫量増加による所得向上が期待され、都市部でも雇用状況は安定しているものの、賃金上昇の鈍化により消費押し上げ効果は限定的とみられる。また政府は物品・サービス税(GST)の税率合理化を検討中であり、実施されれば更なる消費拡大への追い風となるだろう。

公共投資は引き続き投資拡大の主軸となる。2025年度予算では資本支出が前年度比+10%超と積極的に拡大しており、計画通りに執行が進めばインフラ需要は拡大すると見込まれる。ただし、過去数年と比べて増勢は鈍化しており、民間投資の回復が成長持続には不可欠である。設備稼働率は改善傾向にあるものの(図表10)、世界経済の不確実性や米国関税の行方が企業マインドに慎重姿勢を強いる可能性がある。

外需については依然として不安定な状況が続く。サービス輸出(特にIT関連)は堅調だが、モノの輸出は前倒し輸出の終了や米国による追加関税(最大50%2)、世界貿易の鈍化により停滞が予想される。特に繊維や宝飾品、家具、化学品などの労働集約型セクターは関税の直撃を受け、米国向け輸出が大幅に落ち込む恐れがある。一方、輸入は内需拡大を反映して増加を続ける見込みであり、純輸出の成長寄与は当面マイナス圏となろう。

これらの結果を踏まえ、インドの2025年度の実質GDP成長率は前年度の+6.5%から+6.4%に小幅に鈍化する見通しである(図表11)。

年末にかけて米国との関税交渉が合意に至れば、輸出環境や企業マインドの改善につながる可能性もある。この場合、2026年初以降には外需や投資の回復が追い風となり、成長率が想定を上回る展開となるだろう。
 
1 2025年度(2025年4月~2026年3月)の国家予算案では、個人所得税の課税区分の見直しにより非課税対象の枠をこれまでの年収70万ルピー(約120万円)から120万ルピー(約206万円)に引き上げられることとなった。
2 一部医薬品などは適用外

経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠(さいとう まこと)

研究領域:経済

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴

【職歴】
 2008年 日本生命保険相互会社入社
 2012年 ニッセイ基礎研究所へ
 2014年 アジア新興国の経済調査を担当
 2018年8月より現職

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