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欧州大手保険グループの2025年上期末SCR比率等の状況-ソルベンシーII等に基づく数値結果報告と資本管理等に関係するトピック-

2025年09月02日

(中村 亮一) 保険計理

6|Zurich
Zurichは、ソルベンシーII制度の対象会社ではないが、2019年末までは、ソルベンシーIIと同等と考えられているSSTによる数値と社内の経済ソルベンシー比率であるZ-ECM(Zurich Economic Capital Model)を公表してきた。ところが、2020年からはSST比率での開示を中心に据えることに変更している。Zurichによれば、SSTはZ-ECMよりも安定性をもたらし、資本は基本的には同じ方法で管理される。

ZurichのSST比率は、監督当局であるFINMA(スイス金融市場監督機構)と合意した内部モデルで算出されている。
(1) SST比率の推移
2025年上期末のSST比率は、2024年末の253%から、2%ポイント上昇して、255%となった。

この要因については、以下の通りとなっている。

・成長のための増分資本を差し引いた営業利益等による資本形成により+19%ポイント

・金利や市場変動等の市場の影響で▲4%ポイント(うち、金利の上昇で+3%ポイント、株価等変動で+1%ポイント、為替の影響で▲8%ポイント)

・資本行動(配当、債務変動、M&A)で▲12%ポイント

・前提・モデル変更で▲3%ポイント

・その他で+1%ポイント
なお、AFR(Available Financial Resources:利用可能財務リソース)は、2024年末の364億ドルから、2025年上期末の408億ドルに、44億ドル増加した。配当等の資本行動による18億ドルのマイナスがあったものの、営業利益で32億ドル、市場の影響で30億ドルのプラスになったことによる。

また、TC(Target Capital:目標資本)は、2024年末の144億ドルから、2025年上期末の160億ドルに、16億ドル増加した。市場の影響が14億ドルと大きくなっていることによる。
(2) 感応度の推移
Zurichは、SST比率の感応度について、2020年からは、第1四半期末と第3四半期末の数値を公表してきている。

これによると、過去においては金利や信用スプレッドによる感応度がかなり高いものになっていたが、2021年に若干水準が低下してからは、ほぼ安定した水準で推移している。

なお、Zurichは、「感応度は、個別ではあるが瞬間的なショックとして考慮される。これらは最良推定値であり、非線形である。例えば、市場の動きの規模が変化すると、その時点の一般的な市場状況に応じて、SST比率への影響が不釣り合いに大きくなる(又は小さくなる)可能性がある。」と説明している。
(3) トピック
Zurichの2025年における主な資本取引等とその概要は、以下の通りであった。

2025年5月16日に、期限付き劣後債7.5億ドルの調達に成功したと発表した。

2025年7月3日に、トロントに拠点を置く世界的なサイバー保険及びリスク管理インシュアテック企業である BOXX Insurance Inc.(BOXX)の買収に成功し、リテール・中小企業向けサイバー保険とサービスをグローバルに提供することになると発表した。

4―ソルベンシー比率の算出等に関係するその他の事項

4―ソルベンシー比率の算出等に関係するその他の事項

この章では、ソルベンシー比率の算出等に関係するその他の事項について報告する。

これらの項目については、既に2024年末数値に関するレポートとして、基礎研レポート「欧州大手保険グループの2024年末SCR比率等の状況-ソルベンシーII等に基づく数値結果報告と資本管理等に関係するトピック-」(2025.4.1)の中でも一部報告している。

さらには、2024年末の詳しい内容については、保険年金フォーカス「欧州保険会社が2024年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(1)-長期保証措置と移行措置の適用状況-」(2025.6.6)や「欧州保険会社が2024年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(2)-内部モデルの適用状況と分散効果の状況等-」(2025.6.13)等のレポートにおいて報告しているので、これらのレポートを参照していただきたい。

なお、以下の「2」~「4」については、Zurichを除くソルベンシーII制度等の対象の5社について述べている。
1|ソルベンシー比率の目標範囲
ソルベンシー比率の目標範囲に相当する水準は、以下の図表の通りである。

監督ベースと会社ベースの2つのソルベンシー比率を開示しているAvivaについては、会社ベースのソルベンシー比率に基づく目標範囲を設定している。ただし、これらの目標範囲については、各社毎にその位置付けが異なっているので、単純な比較はできない。また、各社とも、適宜、目標範囲等の見直しを行ってきたりしているので、必ずしも長期で固定されたものとは限らない。
AXAは140%をリスクアペタイト限度水準に設定して、これを上回る水準を維持する方針を有しているが、2020年12月1日に行われた2023年に向けての戦略に関する投資家向けプレゼンテーションの中で、約190%(140%のリスクアペタイト限度に50%ポイントのバッファー)を目標にする、と公表している。

Allianzは、150%を「sustainable SolvencyⅡcapitalization ratio」とし、2022年のAnnual Reportにおいては、180%を「minimum ambition」と称していた。

Generaliは、会社が取るリスク水準を定めているRAF(Risk Appetite Framework)において、過剰なリスクテイクを制限し、ソルベンシーポジションを望ましい水準に維持するために、「hard and soft limits」を設定している。2024年は、130%を「hard limit level」、150%を「soft limit level」に設定して、株式報酬制度の株数付与の決定にも関連付けている。

AvivaはWorking Rangeという名称で水準設定しており、下限の160%を下回る場合には、資本力を回復する行動を起こし、上限の180%を超える場合には、事業に投資したり、株主に還元したり、M&Aを行うとしている。

Aegonは地域別に目標を設定しており、以下の図表の通りとなっている。
Zurichは、2020年からSSTベースの下限を160%と設定している。この際に、SSTの160%は、AA格付けの資本水準に相当しており、SSTで180%から200%の範囲で事業を運営することを目指していると述べていた。

なお、ソルベンシー比率の水準毎の会社の対応方針をさらに明確にして開示している会社もある。

2|SCR等の算出方法(内部モデルの適用状況)
各社とも内部モデルを適用しているが、その適用対象については、母国に加えて、欧州の主要国やアジア等、実質的に米国を除く主要事業国を含めているケースが多い。米国については、同等性評価に基づき、米国RBCによって算出したものをグループベースでは一定の換算を行うことで、全体の計算に反映している。

2024年のSFCRに基づくと、Zurichを除く5社のソルベンシーII等に基づく分散効果控除前のSCR算出における内部モデルの適用比率(=内部モデルによるSCR/(内部モデル適用後の)全体のSCR))は、以下の通りとなっている。



2023年以降の数値は、2022年までの数値とはベースが異なっている会社もあるが、2022年までの数値も参考として掲載している。なお、各社の内部モデル適用比率の状況は、子会社の買収・売却等の事業戦略の影響を受けている要素も大きい。

内部モデルの適用によって最も影響が大きいのが、子会社間や地域間の分散効果であると考えられているが、(標準式による分も含めた)分散効果による控除率は、以下の通りとなっている。

分散効果による控除率の水準については、2023年までとは異なり、2024年は各社によって算出ベースが異なっているので、単純な比較はできない。具体的には、以下の図表はQRTのS.25.02.22等からの数値に基づいて、筆者が算出した数値を掲載しているが、例えば同じソルベンシーIIに基づいているAXAとAllianzとGeneraliにおいて、記載数値の算出ベースが異なっている(税引き前か後か、連結法のみか控除合算法含みか、項目の記載順序等)ものと想定され、AXAとAllianzの2024年の(これまでと同じ方式で筆者が算出したベースの)数値は2023年までの数値とは大きく水準が異なるものとなっている。ただし、この点に関して、各社のSFCRには必ずしも説明が行われていないので、ここでは2023年までと同様な方式で筆者が算出したベースの数値に加えて、AXAとAllianzについては、2023年とほぼ同様なベースと筆者が想定する方式による数値を括弧書きで掲載している。


これまで、SFCRにおいても、標準式によるSCRの数値は開示されてきていないが、過去の影響度調査によれば、内部モデル適用によるSCRの引き下げ効果は2割程度と想定されている。
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