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ポピュリズムではないトランプ政権の医療保険政策-トランプ岩盤支持層はどう受け止めていくか-

2025年09月02日

(磯部 広貴) 保険商品

■要旨

米国では医療保険に加入できない無保険者を削減すべく2010年からオバマケアがスタートした。その骨子は低所得者向け公的制度であるメディケイドの加入資格拡張と、個人が民間医療保険に加入できるようにするための医療保険取引所の新設であった。
 
本年7月、「大きく美しい1つの法案」(One Big Beautiful Bill)が成立した(以下、OBBBA)。OBBBAは歳出削減策の一つとしてメディケイドなど医療保険制度の改革を掲げている。中核であるメディケイドの就業要件新設だけでも今後10年間で3260億ドルの財政支出削減を想定している。
 
他方、バイデン政権による補助金の充実が医療保険取引所の加入者を近年増大させてきたものの、これは本年末で失効予定であり、延長に向けた法案は提出されていない。補助金縮小を受けての加入者減少は今後10年間で420万人、さらにOBBBAの諸規制によるメディケイドなどへの影響も加味すれば同期間で1,400万人を超える無保険者が発生すると見込まれている。
 
この問題は米国内で今のところ大きな注目を受けていない。あくまで「制度を利用すべきでない人間を当然のこととして排除する」という方針に基づいており、それはトランプ岩盤支持層である白人低所得者の受け入れやすい考え方でもある。
 
だが諸規制がこれから実施されていくにつれ、白人低所得者の中にも不満が高まってくる可能性もある。そのような危険を内包しつつも進むトランプ政権の医療保険政策は、少なくとも人気取りのポピュリズムではない。
 
翻ってわが国はどうであろうか。

■目次

1――はじめに
2――OBBBAのメディケイドへの影響
3――医療保険取引所への補助金縮小
4――米国内の反応
5――おわりに(ポピュリズムではない)

保険研究部   主任研究員・気候変動リサーチセンター兼任

磯部 広貴(いそべ ひろたか)

研究領域:保険

研究・専門分野
内外生命保険会社経営・制度(販売チャネルなど)

経歴

【職歴】
1990年 日本生命保険相互会社に入社。
通算して10年間、米国3都市(ニューヨーク、アトランタ、ロサンゼルス)に駐在し、現地の民間医療保険に従事。
日本生命では法人営業が長く、官公庁、IT企業、リース会社、電力会社、総合型年金基金など幅広く担当。
2015年から2年間、公益財団法人国際金融情報センターにて欧州部長兼アフリカ部長。
資産運用会社における機関投資家向け商品提案、生命保険の銀行窓版推進の経験も持つ。

【加入団体等】
日本FP協会(CFP)
生命保険経営学会
一般社団法人 アフリカ協会
一般社団法人 ジャパン・リスク・フォーラム
2006年 保険毎日新聞社より「アメリカの民間医療保険」を出版

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