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英国金融政策(8月MPC公表)-予想通りの利下げ決定も、4名は据え置き主張

2025年08月08日

(高山 武士) 欧州経済

1.結果の概要:政策金利の引き下げを決定

英中央銀行のイングランド銀行(BOE:Bank of England)は金融政策委員会(MPC:Monetary Policy Committee)を開催し、8月7日に金融政策の方針を公表した。概要は以下の通り。
 

【金融政策決定内容】
政策金利(バンクレート)を4.00%に引き下げる(5対4、4名は4.25%の据え置きを主張、なお5名のうち1名は当初3.75%への引き下げを主張)

【議事要旨等(趣旨)】
成長率見通しは、25年1.25%、26年1.25%、27年1.5%(25年を上方修正)
インフレ見通しは、25年3.75%、26年2.5%、27年2%(10-12月期の前年比、上方修正)
世界的な動向は今回のMPC会合で大きな役割を果たさなかった
中期的なインフレ圧力への上振れリスクは5月以降、やや高まった
将来のさらなる制限度合い緩和についてのタイミングやペースは基調的なディスインフレ圧力が緩和する度合いに依存する

2.金融政策の評価:従来のペースを維持する利下げとなったが、4名は据え置きを主張

イングランド銀行は今回のMPCで市場予想の通り1、政策金利を4.00%に引き下げた。これまで四半期に1回のペースでの利下げが行われており、今回もそのペースが維持された。また、決定は5対4(4名は据え置きを主張)であったが、利下げを主張した5名のうち1名は当初3.75%への(0.50%ポイント)の利下げを主張し、0.25%ポイントの利下げ(4名)と据え置き(4名)が拮抗したため、再投票により決定された。

今回の決定について、ベイリー総裁は「基調的な国内価格と賃金のディスインフレ傾向が、程度は異なるものの、総じて継続していること」「英国経済の弛み(slack)が生じ、労働市場の緩和が継続していること」「この弛みが依然として粘着的な国内の価格と賃金設定に対して、中期的な2%のインフレ目標に向かわせるよう作用すること」といった判断から決定されたと述べている。

また、インフレの評価では、最近の国内ニュースがインフレへのリスクがやや上方にシフトしたことを示唆するとした一方、トランプ関税などの世界的な動向は今回のMPC会合で大きな役割を果たさなかったとされた。

今後のディスインフレのペースについては上記の政策金利決定の通り、委員間でも評価が分かれており、今回の据え置き派も少なくなかった。ベイリー総裁は、足もとでインフレ率が上振れていることから、インフレ上振れリスクを重視するのか、最近の経済活動の弱さによるインフレ率の下振れリスクを重視するのか、についてはリスクバランス見極めつつ決定したとしている。今後も引き続きデータを見極めながら利下げペースが調整されることになり、四半期に1回の利下げが基本シナリオとなると見られるが、ディスインフレが続くなかでもインフレの粘着性の懸念が払拭できない状況が続けば、委員間での評価が分かれやすい状況は続きやすいと見られる。
 
1 例えば、ブルームバーグの予想中央値。

3.金融政策の方針

今回のMPCで発表された金融政策の概要は以下の通り。
 
  • MPCは、金融政策を2%のインフレ目標として設定し、持続的な経済成長と雇用を支援する
    • MPCは中期的かつフォワードルッキングなアプローチを採用し、持続的なインフレ目標達成に必要な金融政策姿勢を決定する
 
  • 8月6日に終了した会合で、委員会は多数決により政策金利(バンクレート)を4.25%に維持することを決定した(5対4で決定2)、4名は政策金利を4.25%で維持することを希望した
 
  • 以前の外的なショックの後、金融政策の制限的な姿勢に支えられ、ここ2年半はディスインフレとなった
    • この進展により過去1年での政策金利の引き下げが可能になった
    • 委員会は引き続き、中期的なインフレ率2%への回帰のため、現存もしくは生じつつある自足的なインフレ圧力を取り除くことに焦点をあてている
 
  • 基調的な国内における物価と賃金のディスインフレは、程度は異なるものの総じて継続している
    • CPIインフレ率は、エネルギー、食料、管理価格の動向を受け25年4-6月期に前年比3.5%まで上昇した
    • 賃金上昇率は引き続き高止まりしているものの、足もとではさらに低下し、今年の残りはさらに大幅に鈍化すると見られる
    • サービスインフレは総じてここ数か月は横ばいだった
    • 委員会は引き続き、賃金上昇圧力がどの程度CPIインフレに転嫁されるのかについて注視している
 
  • CPIインフレはさらに上昇すると見込まれ、9月には4.0%のピークに達すると見られる
    • インフレ率はその後、2%目標に戻ると見られるが、委員会は一時的なインフレ率の上昇がさらなる賃金や価格設定行動への上昇圧力となるリスクについて引き続き警戒する
    • 総じて、MPCは中期的なインフレ圧力への上振れリスクが5月以降、やや高まっていると判断している
 
  • 基調的な英国の成長率は依然として弱く、引き続き緩やかに緩和を続ける労働市場と整合している
    • 経済の弛み(slack)が生じていると判断される
    • 貿易政策の不確実性は幾分軽減されたものの、経済を取り巻く国内および地政学的なリスクは残っている
 
  • 今回の会合で、委員会は政策金利の4%への引き下げを決定した
    • 制限的な金融政策からのさらなる脱却においては、段階的で慎重なアプローチが引き続き適切である
    • 政策金利の引き下げにより、金融政策の制限度合いは低下している
    • 将来のさらなる制限度合いの緩和についてのタイミングやペースは基調的なディスインフレ圧力が引き続き緩和する度合いに依存する
    • 金融政策に事前に設定された経路はなく、委員会は、引き続き集まる証拠に反応していく
    • (「金融政策は、中期的に、インフレ率の持続的な2%目標への回帰に対するリスクがさらに解消するまで、引き続き十分な期間(sufficiently long)、制限的にする必要がある」との文言は削除)
 
 
2 政策金利の維持を主張したのは、グリーン委員、ロンバルデリ委員(副総裁)、マン委員、ピル委員。なお当初はテイラー委員が0.50%ポイントの利下げを主張したため、0.25%ポイントの利下げと据え置きが4対4で同数となった。これを受けて0.25%ポイントの利下げと据え置きのいずれかを問う再投票が行われ、0.25%ポイントの利下げが決定した。前回は据え置きが決定されるなかで、ディングラ委員、テイラー委員、ラムスデン委員(副総裁)が利下げを主張した。

4.議事要旨の概要

記者会見の冒頭説明原稿や金融政策報告書および議事要旨の概要(上記金融政策の方針で触れられていない部分)において注目した内容(趣旨)は以下の通り。
 
  • GDP成長率見通しは、25年1.25%、26年1.25%、27年1.5%
    (5月時点では、5年1%、26年1.25%、27年1.5%)
    • CPI上昇率は、25年3.75%、26年2.5%、27年2%(10-12月期の前年比)
      (5月時点では、25年3.25%、26年2%、27年1.75%)
    • 失業率は、25年4.75%、26年5%、27年4.75%(10-12月期)
      (5月時点では、25年4.75%、26年5%、27年5%)
 
(冒頭説明)
  • 本日の決定は英国の経済・インフレ見通しに関する3つの鍵となる判断に基づいている
    • 1つめは、基調的な国内価格と賃金のディスインフレ傾向が、程度は異なるものの、総じて継続していること
    • 2つめは、英国経済の弛み(slack)が生じ、労働市場の緩和が継続していること
    • 3つめは、弛みが、依然として粘着的な国内の価格と賃金設定に対して、中期的な2%のインフレ目標に向かわせるよう作用すること
 
  • 見通しには両面のリスクがある
    • 世界的な貿易変化の度合いとそれが英国のインフレ率にどのような圧力を及ぼすのかは、引き続き不透明である
    • 最近の国内のニュースはインフレへのリスクがやや上方にシフトしたことを示唆している
 
  • インフレ率の最近の上昇がインフレの永続性にもたらすリスクを重視するのか、最近の経済活動の弱さがインフレ率の弱さをもたらすリスクを重視するのか、その回答は、金融政策はリスクのバランス評価を反映して決定しているということである
 
(国際経済)
  • 委員会は最近の世界的な貿易政策を巡る動向による英国への影響について議論した
    • 米国の関税率は4月に当局が公表した当初よりも高い水準で維持されていた
    • しかしながら、英国がいくつかの国々と合意に至ったため、5月の金融政策報告書よりも貿易を巡る不確実性は低下した
    • 5月の金融政策報告書で想定された関税率から引き下げられた点は、世界的な需要がベースライン見通しよりも強いことを示唆する
    • しかしながら、世界的な動向は今回のMPC会合で大きな役割を果たさなかった
 
(当面の政策決定)
  • 5名のメンバーが今回の会合で政策金利の引き下げを希望した
 
  • 5名のうち4名が今回の会合で政策金利を0.25%ポイント引き下げることを希望した
    • 基調的なディスインフレが大きく進展したにも関わらず、一部のメンバーは、勢いが鈍化するリスクがあるとする
    • 国内価格動向よりも労働市場の質や賃金によりディスインフレ継続の兆候が見られる
    • 経済活動は引き続き弱い
    • ここから先のディスインフレのペースは、これらのメンバーが制限的な政策を解除する速さを見極めるための助けになるだろう
    • 一方で、高い食料価格がインフレ期待を上昇させより強いインフレの粘着性を生み出す
    • 他方で、例えば高い貯蓄が消費もたらす影響といった、需要の弱さの兆候は、労働市場のより早い弛みの拡大をもたらす可能性がある
 
  • 5名のうち1名は小音階の会合で政策金利を0.5%ポイント引き下げることを希望した
    • 基調的なディスインフレは継続している
    • 外的なショックや特にサービスなどの国内インフレの解消は賃金と密接に結びついている
    • 労働市場には弛みがあり、さらに悪化している
    • 妥結賃金は25年上半期で3.5%近くまで低下しており、下半期にはさらに低下する見通しである
    • 一過性の税や管理価格変更、限定的な対象での食料インフレを主因とするインフレ率の一時的な上昇は国内の物価上昇圧力とは無関係で、正常化すると見られる
    • エネルギー先物価格は横ばいになっている
    • 英国の平均関税率は20%近くであり、貿易の転換がゆっくりと浸透しインフレ率を押し下げる
    • 英国の景況感は弱く、消費や投資は冴えない
    • この状況は今後数年における、見通しを下回るインフレ率や成長率、あるいは景気後退リスクの増加といった下振れリスクとなる
    • このリスクバランスへの保険として、より制限的でない政策が適切となる
 
  • 4名のメンバーが政策金利を4.25%に維持することを希望した
    • ディスインフレ過程は鈍化し、インフレ期待が2次的効果を引き起こすリスクが上昇している
    • 企業や家計のインフレ期待は高止まりしており、インフレ率はピークで4%になると見られ、最近の短期的なインフレに関する上昇要因は食料品とエネルギーの目立った高さにけん引されている
    • 企業の自社製品の価格設定期待もまた、インフレ率の上振れにより敏感になっている
    • これらのメンバーは、引き続きディスインフレ、国内需要や世界的な要因による価格設定力の下方圧力、財や労働市場の構造変化によるインフレの長期持続のリスクを評価するだろう
    • 政策緩和の鈍化させることで、インフレ率が持続的に目標を達成しないリスクが軽減するだろう

経済研究部   主任研究員

高山 武士(たかやま たけし)

研究領域:経済

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴

【職歴】
 2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
 2009年 日本経済研究センターへ派遣
 2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
 2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
 2014年 同、米国経済担当
 2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
 2020年 ニッセイ基礎研究所
 2023年より現職

 ・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
  アドバイザー(2024年4月~)

【加入団体等】
 ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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