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EIOPAがソルベンシーIIのレビューに関する最初のRTS(案)等のセットを欧州委員会に提出等

2025年08月04日

(中村 亮一) 保険計理

1―はじめに

EU(欧州連合)におけるソルベンシーIIのレビュー(見直し)を巡る動きに関しては、基礎研レポート「EUにおけるソルベンシーIIのレビューを巡る動向2024-ソルベンシーIIの改正指令が最終化-」(2025.1.21)で、「レベル1」のソルベンシーIIの改正指令が最終化したことを報告した。また、そのレポートの中で、「レベル2以下」の委任規則、実施基準、ガイドライン等の改正等についても、欧州委員会やEIOPA(欧州保険年金監督局)における検討状況等について報告した。さらに、保険年金フォーカス「EIOPAがソルベンシーIIのレビューに関する助言のいくつかを提出-欧州委員会からの要請に対する回答-」(2025.2.19)で、EIOPAが1月30日に、欧州委員会からの要請事項のいくつかに対して提出した助言について報告した。これらの意見も踏まえて、欧州委員会は7月18日に、委任規則の改正案を公表している1

EIOPAは、7月14日に、ソルベンシーIIのレビューに関する最初のRTS(規制技術基準)(案)と改訂ガイドラインのセットを欧州委員会に提出した2

今回のレポートでは、これらのEIOPAによる提案等について、EIOPAの公表内容に基づいて、その概要を説明する。併せて、EIOPAはソルベンシーIIに関して、7月10日に、保険会社の負担軽減のための監督報告及び開示要件の改正案を協議のために公開しているので、その概要も報告する。

2―EIOPAによるRTS(案)と改訂ガイドラインの概要

2―EIOPAによるRTS(案)と改訂ガイドラインの概要

EIOPAは、以下の4つの項目に関するRTS(案)と改訂ガイドラインをまとめて、欧州委員会に提出した。これらの4つの文書については、2024年10月以降に草案が公開されて、協議が行われてきたが、これらに対する意見等に基づいて、草案からのいくつかの修正も行われた。
1|支配的又は重要な影響力下にある、ならびに統一的に管理されている会社
これらのRTS(案)3は、支配的又は重大な影響下にある保険会社、ならびに統一的に管理されている保険会社を特定するための要因(factor)を規定している。これらの要因は、監督当局が保険グループを特定し、効果的に監督する上で重要なものとなる。

ソルベンシーIIの2025年改正指令である指令 (EU) 2025/2は、第212条を改正して、その新たな第4項で、支配的又は重要な影響力を有する企業と統一的に管理されている企業を特定する際に、監督当局が考慮すべき四つの要因を定めている。これらは、以下の通りである。

(a) 企業の決定(財務的なものを含む)に影響を及ぼす自然人又は企業の支配又は能力

(b) 企業間のアウトソーシング及びスタッフの共有を含む、重要な財務又は非財務取引又は業務の存在による、企業の他の企業又は法人又は自然人への強い依存

(c) 関連企業への共同投資を含む、財務又は投資の決定に関する2つ以上の企業間の調整の証拠

(d) 保険の流通経路、保険商品又はブランド、コミュニケーション又はマーケティングに関するものを含む、2つ以上の企業間の調整された一貫した戦略、業務又はプロセスの証拠

RTS(案)では、支配的又は重要な影響力を有する企業と統一的に管理されている企業を特定するための要素(element)を列挙することにより、四つの要因を特定している。RTS(案)に列挙されている全ての要素が、そのような関係を特定するために存在する必要はない。監督当局は、関連する要因と要素の重要性と継続性を考慮する必要がある。契約上の取り決めの存在は、最初に考慮される要素となる。RTS(案)は、上記の関係の特定における監督上のコンバージェンスを促進し、効果的かつ効率的なグループ監督を支援し、それによって保険契約者の保護に貢献する。

第212条の改正は、特に指令2013/34/EUの適用範囲に含まれないグループや、企業間の資本関係がないか弱い水平的グループ、特に保有株式が適格保有又は参加として扱われる臨界値以下に維持されている場合に、グループを形成する企業の特定を容易にした。そのために、監督当局は、第212条第4項に列挙された要因に基づいてグループの存在を特定する必要がある。
2|会社の国境を越えた活動の関連性について
ソルベンシーIIの見直しでは、重要なクロスボーダー活動に関して、ホスト加盟国と受入国の監督当局間の協力と情報交換を強化するための新たな規則である第152ab条が導入された。RTS(案)4は、受入国の監督当局が自国市場におけるクロスボーダー活動の関連性を判断する際に考慮すべき条件と基準を定めている。

クロスボーダー活動は、ホスト加盟国の監督当局がホスト加盟国の市場に関して関連性があると考える場合に特に重要となる。RTS(案)では、ホスト加盟国の市場に関して関連性がある保険又は再保険を決定する際に使用される条件と基準がさらに規定されている。RTS(案)に定められた条件と基準は、定性的情報と定量的情報の両方に基づいて、臨界値を導入することなく、関連するクロスボーダー活動を特定する。

RTS(案)は、2つの基準に基づいて、ホスト加盟国市場に関するクロスボーダー活動の関連性を特定している。1つ目は、ホスト加盟国市場で行われる保険又は再保険会社のクロスボーダー活動の集中度に基づく基準であり、2つ目は、これらの活動がホスト加盟国市場の保険市場と保険契約者及び受益者に与える影響に基づく基準である。提案された基準は、特定のセグメント、事業、保険リスク又は保険商品の種類を含む、会社の活動全体又はホスト加盟国の保険市場全体と比較して、会社のクロスボーダー活動の粒度の異なるレベルを考慮することを可能にする。一方で、ホスト加盟国市場における代替性のレベルと保険契約者及び受益者に対する潜在的な損害を考慮している。
3|地方政府及び地方自治体のエクスポージャーリストについて
ITS(実施技術基準)(案)5は、地方政府及び地方自治体のリストを更新している。保険会社の当該リストに掲載されている機関に対するエクスポージャーは、資本要件の計算において中央政府に対するエクスポージャーと同様に扱われる。即ち、標準式において、スプレッドリスク及び集中リスクのリスク係数は0%になる。

指令2009/138/EC(ソルベンシーII指令)の第109a条第2項(a)に従い、ITSが地方政府及び地方自治体のリストを指定することになっている。これらに対するエクスポージャーは、中央政府の特定の歳入調達権限のために、またデフォルトのリスクを低減する効果を有する特定の制度的取り決めの存在のために、中央政府のエクスポージャーとはリスクの差がないことを条件として、それらが設立される管轄区域の中央政府に対するエクスポージャーとして取り扱われる。欧州委員会実施規則 (EU) 2015/2011が、これらのITSを規定している。

改正案は、フランスとラトビアの4つの新しいタイプの地方政府及び地方自治体が含まれることを想定しており、またBrexitに伴い、英国の地方政府はITSの地方政府及び地方自治体リストから削除される。
4|会社固有のパラメータについて
標準式における標準パラメータに代わる、会社固有のパラメータに関する改訂ガイドライン6は、時代遅れの法的参照を修正し、ガイドラインの本来の意味を変えることなく、簡素化されている。EIOPA の規制簡素化に向けたバランスの取れたアプローチに沿って、個別のガイドラインの数は21%削減される。

規則 (EU) No 1094/2010の第16条に従い、EIOPAは2015年にガイドラインを発行し、SCR(ソルベンシー資本要件)を計算するための標準式の標準パラメータに代わる可能性のある会社固有のパラメータについて、監督当局が指令2009/138/ECの要件をどのように適用すべきかについてのガイダンスを提供している。

ソルベンシーIIの見直しに関連して、EIOPAはソルベンシーIIに関する既存の全てのガイドラインを見直し、それらが最新のものであり、改正された法的枠組みに沿ったものであることを確認している。

この見直しのもう一つの目的は、ガイドラインの簡素化と短縮であり、改訂ガイドラインは、法的参照を更新し、意図された意味を変更することなくテキストを明確にし、簡素化するための修正を含んでいる。また、特に、3つのガイドラインが、ソルベンシーIIの規定から十分に明確な内容であるため、削除されている。

3―監督報告及び開示要件の改正案等の概要

3―監督報告及び開示要件の改正案等の概要

EIOPAはソルベンシーIIに関して、7月10日に、保険会社の負担軽減のための監督報告及び開示要件の改正案等を協議のために公開している7

これは、保険会社の報告負担を軽減することを目的としており、このパッケージには、監督報告及び情報公開に関するITSの改正である、「監督当局への情報提出のためのテンプレートに関する欧州委員会施行規則 (EU) 2023/894の改正案(監督報告に関するITS)」、「ソルベンシー及び財務状況報告書の手順、フォーマット及びテンプレートに関する実施技術基準を定める欧州委員会施行規則 (EU) 2023/895の改正案(公開開示に関するITS)」に加えて、「金融安定のための報告に関するガイドラインの改訂案」及び「第三国保険会社の支店の監督に関するガイドラインの改訂案」も含まれている。

監督報告及び情報公開に関するITSの改訂は、ソルベンシーIIの見直しにより導入される特定の変更を、監督報告及び情報公開のテンプレートに組み込む必要性に端を発している。同時に、この改訂は、全セクターにおいて報告負担を少なくとも25%(中小企業は35%)軽減することにより、欧州企業の競争力を強化するという欧州委員会の取り組みに貢献する絶好の機会となった。今回の提案は、関係者からのフィードバックを踏まえ、この目標に沿ったものとなっている。

今回の基準改訂は、2023年に実施された監督報告及び情報公開に関するITSの見直しに基づいており、EIOPAは既に一部の報告要件を簡素化し、要件を簡素化していた。EIOPAは、改正案の提案に先立ち、各国の監督当局と協力し、効果的な監督と金融の安定に真に必要なデータは何かを慎重に評価するとともに、新たなデータ要件の影響についても批判的に評価した。このバランスの取れたアプローチは、EIOPAの規制簡素化に関する包括的戦略と整合している。

この全体的な報告件数の削減は、特定のテンプレートの使用頻度の削減、一部の年次テンプレートの削除、比例原則の活用拡大、そしてフレームワーク全体にわたる技術的な簡素化の導入によって実現した。ソルベンシーIIの見直しに伴う変更と簡素化への重点に加え、この協議文書では、2023年のITSの前回改訂以降に特定された誤りや不一致にも対処しつつ、報告件数の全体的な削減の中で、新たな情報の提出を限定的に求めている。

具体的には、ITSの修正の範囲は、以下の4つの分野に分かれている。

1) レベル1及びレベル2の条文変更に伴う報告義務の変更

2) 最新の監督上の報告に関するITS及び公開に関するITS(2023年12月以降適用)の適用初年度に特定された誤り/不整合の修正

3) 新たな限定された情報の要請

4) 報告削減の提案

このうちの「4)報告削減の提案」については、以下の5つの主要分野をカバーしている。

1) 四半期ごとのテンプレートの頻度の削減
2) 年次テンプレートの削除
3) 比例性の向上
4) 簡素化と明確化
5) 技術的な簡素化

EIOPAは、これらの提案が欧州の保険会社の負担を大幅に軽減すると確信しており、提案通りに実施されれば、報告要件は、単独事業者の場合、年次及び四半期のテンプレートの数で少なくとも26%(データポイント数で22%)、小規模で複雑でない事業者の場合、少なくとも36%削減される見込みとしている。しかもこれは、EIOPA及び各国監督当局が保険契約者保護を維持し、欧州保険セクターの金融安定性を維持する能力を損なうことなく実現される、と述べている。

なお、この公開協議に対するコメントの提出は、2025年10月10日までとなっている。

4―まとめ

4―まとめ

以上、今回のレポートでは、EIOPAが、2025年7月14日に、ソルベンシーIIのレビューに関する最初のRTS(案)と改訂ガイドラインのセットを欧州委員会に提出したことから、その概要について報告した。併せて、EIOPAはソルベンシーIIに関して、7月10日に、保険会社の負担軽減のための監督報告及び開示要件の改正案等を協議のために公開しているので、その概要も報告した。

EIOPAからのRTS(案)の提出を受けて、欧州委員会は、3ヶ月以内にRTS(案)の採択を決定する予定となっている。採択されれば、ソルベンシーIIの枠組みの新しい機能が導入され、監督協力と実効性の向上が図られることになる。

EUのソルベンシーIIのレビューを巡る動きについては、関係者にとって関心の高い事項となっていることから、その動向を引き続き注視していくこととしたい。
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