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低迷が続く米住宅市場-住宅ローン金利の高止まりから、当面住宅市場の本格回復は見込み難い

2025年08月01日

(窪谷 浩) 米国経済

3.今後の見通し

連邦住宅抵当公庫(ファニーメイ)が公表している住宅購入センチメント指数は25年6月が69.8と、コロナ禍前の80超の水準を大幅に下回っているほか、24年11月の75.0からも頭打ちがみられており、住宅需要が引続き低調であることを示している(図表9)。

同指数の25年6月と24年11月の変化幅を項目別にみると、「金利低下」が▲4.8ポイント低下したほか、「失業懸念後退」が▲2.8ポイント低下と変動幅が大きくなっている。これは住宅ローン金利の先高観や雇用不安が足元の住宅需要を低下させる要因となっていることを示している。

一方、25年1月に発足したトランプ政権ではカナダからの輸入品、鉄鋼・アルミ、銅製品の輸入品に対する追加関税が賦課されたほか、木材輸入に対する追加関税も検討されており、関税引き上げによる住宅建設コストの上昇が懸念されている。
さらに、トランプ政権は不法移民の強制送還を促進する方針を示すなど厳格な移民政策を実施しているため、建設業界では今後の労働者力不足が懸念されている。建設業者に対する労働力不足に関する調査では21年11月調査で建設業者の77%が、労働力が不足していると回答していたが、24年1月調査では52%と労働力不足は幾分緩和されていた(図表10)。

建設業界では労働者に占める不法移民の割合が1割を超えるとの推計もあり、業種別で最も不法移民の労働力に依存した業種とみられている。

このため、トランプ政権による厳格な移民政策の結果、不法移民が減少する場合には改善がみられていた建設業者の労働力不足を深刻化させる可能性が高い。建設コストの上昇と併せて建設業界の労働力不足は住宅着工件数の回復の重石になることが予想される。

一方、7月4日に成立したOBBBAには手頃な住宅の供給増加を目指して低所得者用住宅税額控除(LIHTC)の拡充1が盛り込まれた。LIHTCは民間事業者による低所得者向け賃貸住宅の新設・改修を行う際の投資に対して一定の条件に基づき10年間の税額控除を与えるものである。このため、建設業者に低所得者向け賃貸住宅の建設インセンティブを付与することで住宅供給の増加が期待されている。

ただし、住宅業界からはOBBBAに伴う財政悪化懸念を背景に長期金利が上昇し、住宅ローン金利の高止まりが長期化することで住宅市場の回復を遅らせるとの懸念も示されている。米シンクタンクのCRFBはOBBBAによって債務残高(GDP比)が24年度の98%から34年度には127%へ大幅に増加すると推計しており、財政状況の悪化に警鐘を鳴らしている。

このため、FRBによる政策金利の利下げ継続が見込まれているものの、関税に伴うインフレ上昇懸念に加え、OBBBAによる財政悪化懸念を背景に長期金利は下がり難いとみられ、住宅ローン金利の高止まりが長期化する可能性が高い。

これまでみたように住宅市場の本格回復には住宅ローン金利の大幅な低下が不可欠だが、住宅ローン金利の高止まりが長期化することで当面の住宅市場の本格的な回復は見込み難いだろう。
 
1 LIHTCの9%の割り当てが恒久的に12%に引き上げられたほか、26年から非課税債券融資基準を50%から25%に引下げることなどが含まれる。

経済研究部   主任研究員

窪谷 浩(くぼたに ひろし)

研究領域:経済

研究・専門分野
米国経済

経歴

【職歴】
 1991年 日本生命保険相互会社入社
 1999年 NLI International Inc.(米国)
 2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
 2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
 2014年10月より現職

【加入団体等】
 ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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