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ネットにおけるプライバシー権-投稿の削除と損害賠償

2025年07月16日

(松澤 登) 保険会社経営

2|住所・電話番号以外(センシティブ情報)
住所・電話番号以外で問題となるのは、センシティブ情報(機微に触れる情報)である。個人情報保護法(以下、「個情法」)ではセンシティブ情報を要配慮個人情報と定義している。具体的に個情法2条3項では要配慮個人情報を「本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要するもの」として、「本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実」を挙げている。あわせて個情法施行令2条では、心身の機能に関する障害(害は条文通り)、健康診断等の結果、健診結果に基づいて行われた治療等、刑事事件手続、少年保護手続きに関する情報が要配慮個人情報とされている。

ガイドライン(p14)では、住所・連絡先以外の個人情報を開示する投稿については原則として情報流通プラットフォームから削除するものとしつつ、公人に関してはその目的と必要性によって正当化される場合があるとする(ガイドラインp14注19)。この点、機微情報については、「公職にある者あるいはその候補者など、社会一般の正当な関心の対象となる公的立場にある人物である場合には、その者が公職にあることの適否などの判断の一資料として右の前科等にかかわる事実が公表されたときは、これを違法というべきものではない」(最判昭和41年6月23日)とされている。したがって、公職にあることの適否に関係のない事柄については私人同様に保護されるべき利益を有すると言えるであろう(犯罪行為に関しては次項も参照)。
3|犯罪に関する情報
犯罪に関する新聞記事において、被疑者の氏名、年齢、職業、国籍および住所を報道した際に、住所について地番まで記載した事案についての東京高裁判決(令和3年11月18日)がある。ここでは覚せい剤および大麻の営利目的所持の被疑事実で逮捕されたことを報道する際に、被告住所の地番まで記事にしたことが問題となった。同判決では、各紙でどこまで報道するかはばらばらであり、「地番を公表することが一律に許されないとする社会通念があるとまでは言えない」と判断した。

また、犯罪行為の報道の目的については公益を図ることにあるとした。そして、「被疑事実は社会一般の関心又は批判の対象となるべき刑事事件の中でも重大犯罪にあたり、被疑事実としての日時、場所や犯行態様等とともに、被疑者の特定は、公共の利害に関する重要な事項として報道される必要性が高く、これによって、報道内容の真実性が担保され、捜査機関による捜査の適正性が確保されることが期待されるのであり、周辺地域における無用な犯人探しや風評被害を防止することも否定しがたい」としてプライバシー侵害にならないとした。

この様に、特に重大犯罪の報道であればプライバシー侵害にはならないが、同判決では「報道においてプライバシー情報を公表した行為が不法行為になるか否かは、報道のときが基準となる」としている。この点は、速報性のある記事においてはプライバシーに対する配慮が限定されることもあるとの判示部分の前段に置かれているが、同時に被疑事実発生より相当な時間が経過したときに公になっていることについても示唆となる記述である。このことを踏まえて、後述のインターネット検索およびSNSでのツイートが問題となる。
4|小括
一般論としてプライバシーには氏名・住所も含まれると考えるのが妥当である。さらに住所・氏名とあわせて当該人物の情報、一例をあげると政治的な主張などをインターネット上で公表されるといわゆる炎上状態になり、嫌がらせ行為が発生する可能性がある。著名人であっても地番やマンション名を含む住所地を公表されることは問題と思われる。

この点に関連して、株式会社の代表取締役(指名委員会等設置会社においては代表執行役)にあっては、会社の登記簿に住所地が記載される(会社法911条3項14号、23号)。しかし、だからといって代表取締役の住所をインターネット上で公表していいわけではない。類似例として、破産した者については、インターネット上で公表される官報により氏名・住所等が開示される。そして、このデータをもとに破産者の所在を地図化した破産者マップというサイトが存在している。当該サイトに対しては2022年7月20日に個人情報保護委員会が個情法に基づいて、個人データの提供を止めるよう勧告を行っている12

既に公表されている情報について新たな公表・転載を行うことは、その結果、違法または不当な行為を惹起するためプライバシー侵害に該当するおそれがある13
 
12 https://www.ppc.go.jp/files/pdf/220720_houdou.pdf 参照。
13 裁判例としては東京地裁令和3年9月10日がある。当判決は離婚訴訟の開廷表(訴訟当事者の氏名と事件番号が記載され、裁判所で公表されているもの)をインターネットで公表した事案で、提供者に対して発信(投稿)者情報の開示を命じた。

4――インターネット検索結果

4――インターネット検索結果

該当する決定は最高裁決定平成29年1月31日である(以下、本決定)。事実関係は図2の通りである。投稿削除の仮処分14を求めた裁判である。注目しておいていただきたいのは、インターネット検索が実際に記事を掲載しているウェブサイトとは別のプラットフォームというところである。
 
14 ここでの仮処分は「満足的仮処分」といい、仮処分の決定により原告の求めるものが充足してしまうものである。仮処分は本来、本訴をあとから提訴ことを前提とするが、本事案では仮処分で投稿が削除されてしまえば、原告の求めることが達成できる。
1|事実関係
抗告人X(投稿削除を請求する者)は、児童買春をしたとの被疑事実に基づき、平成23年11月に逮捕され、同年12月に罰金刑に処せられた15。抗告人が上記容疑で逮捕された事実(以下「本件事実」という。)は逮捕当日に報道され、その内容の全部又は一部がインターネット上のウェブサイトの電子掲示板に多数回書き込まれた。Xはその後、罪を犯すことなく妻子とともに平穏な生活を送っていた。

検索事業者Yの検索サービスにおいては、Xの居住県と氏名を検索すると、本件事実が書き込まれたウェブサイトのURL及びウェブサイトの表題・抜粋が検索結果として表示される。

Xは人格権(更生を妨げられない権利及びプライバシー権等)に基づいて妨害排除請求・妨害予防請求権を有するとして投稿削除の仮処分を求めた。第1審ではXの主張が認められたが、Yが抗告した。第2審ではYの抗告が入れられたため、Xが最高裁へ抗告を行った。
2|最高裁決定(総論)
本決定ではXの抗告を棄却した。本決定は以下のように述べる。検索事業者は、「インターネット上のウェブサイトに掲載されている情報を網羅的に収集してその複製を保存し、同複製を基にした索引を作成するなどして情報を整理し、利用者から示された一定の条件に対応する情報を同索引に基づいて検索結果として提供する」といったものである。この「情報の収集、整理及び提供はプログラムにより自動的に行われるものの、同プログラムは検索結果の提供に関する検索事業者の方針に沿った結果を得ることができるように作成されたものであるから、検索結果の提供は検索事業者自身による表現行為という側面を有する」として表現の自由に関わるものと言う認識を示す。また、「検索事業者による検索結果の提供は、公衆が、インターネット上に情報を発信したり、インターネット上の膨大な量の情報の中から必要なものを入手したりすることを支援するものであり、現代社会においてインターネット上の情報流通の基盤として大きな役割を果たしている」というネット社会での基盤という機能があることを示す。そして、「検索事業者による特定の検索結果の提供行為が違法とされ、その削除を余儀なくされるということは、上記方針に沿った一貫性を有する表現行為の制約であることはもとより、検索結果の提供を通じて果たされている上記役割に対する制約でもあるといえる」。
3|最高裁決定(判断部分)
本決定では、検索事業者の検索結果表示行為が違法となるか否かは、「当該事実の性質及び内容、当該URL等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度、その者の社会的地位や影響力、上記記事等の目的や意義、上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化、上記記事等において当該事実を記載する必要性など、当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべき」ものとされ、結果として、「当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には、検索事業者に対し、当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができる」とする。

そして本件事実は「他人にみだりに知られたくない抗告人のプライバシーに属する事実であるものではあるが、児童買春が児童に対する性的搾取及び性的虐待と位置付けられており、社会的に強い非難の対象とされ、罰則をもって禁止されていることに照らし、今なお公共の利害に関する事項であるといえる」とした。結論として「抗告人が妻子と共に生活し、罰金刑に処せられた後は一定期間罪を犯すことなく民間企業で稼働していることがうかがわれることなどの事情を考慮しても、本件事実を公表されない法的利益が優越することが明らかであるとはいえない」とした。
4|小括
決定では、インターネット検索について(1)検索結果の提供は、検索事業者による表現行為としての性質を持つと判断され、(2)現代社会においてインターネット上の情報流通の基盤として大きな役割を果たしていること、(3)検索結果の削除を余儀なくされることは検索事業者の方針に沿った一貫性を有する表現行為の制約であるとした。そしてこのような判断を踏まえたうえで、事実を公表されない法的利益が優越することが「明らかな場合」に限り、削除が可能としている。

プライバシーを侵害されたものから見れば、インターネット検索の結果に表示されなければ、該当する投稿や記事などが実際に多くの人の目に触れないであろうから検索結果が示されないようにしたいと考えるだろう。

ただ、インターネット検索の検索結果が示すのは、他のプラットフォーム(ニュースサイトやSNSなど)で掲示されている情報である。この観点からは、本来は元情報を掲載している他のプラットフォームに対して削除要請すべきものでもある。また、一般的な検索サービスの提供者は検索結果を表示させるまでのプログラムを作成するものの、何を検索結果として表示するかはプログラムが作動した結果に過ぎないということもある。これらの事情などがプライバシーの被侵害者における公表されない法的利益が、明白に優越することを求める本決定の背後にあったものと考える16

そして、本決定文にある通り、児童買春という罪を犯したことが今なお公共の利害に関するとしており、犯罪の種類によっても判断が変わる可能性があることを示している。
 
16 高橋和弘「検索エンジンによる検索結果削除請求事件」(論究ジュリスト2019春)p71も参照。

保険研究部   研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登(まつざわ のぼる)

研究領域:保険

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴

【職歴】
 1985年 日本生命保険相互会社入社
 2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
 2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
 2018年4月 取締役保険研究部研究理事
 2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
 2024年4月 専務取締役保険研究部研究理事
 2025年4月 取締役保険研究部研究理事
 2025年7月より現職

【加入団体等】
 東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
 東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
 大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
 金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
 日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

【著書】
 『はじめて学ぶ少額短期保険』
  出版社:保険毎日新聞社
  発行年月:2024年02月

 『Q&Aで読み解く保険業法』
  出版社:保険毎日新聞社
  発行年月:2022年07月

 『はじめて学ぶ生命保険』
  出版社:保険毎日新聞社
  発行年月:2021年05月

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