バランスシート調整の日中比較(後編)-不良債権処理で後手に回った日本と先手を打ってきた中国

2025年07月09日

(三浦 祐介) 中国経済

■要旨
 
  • 中国では、不動産不況の長期化に加え、25年からは米中摩擦も再び激化し、景気への下押し圧力が強まる恐れがある。今後、中国がバブル崩壊後の日本と同様、長期停滞に陥るか否かを展望するにあたり、バランスシート調整の観点で、当時の日本と現在の中国を比較し、考察する。本稿では銀行の不良債権処理を中心とした金融システムの安定化を巡る動向について分析した。
     
  • バブル崩壊後の日本では、銀行の貸出資産査定にかかわる制度整備や、後手に回った不良債権処理の取り組み、銀行の処理体力の不足などを背景に不良債権問題が深刻化した。そこで、これらのポイントに焦点を当て中国の動向をみると、制度体系は、国際的な銀行経営規制の枠組みであるバーゼル規制の進展と足並みをあわせ、整備が進んできた。また、不良債権処理の取り組みは、経済のデレバレッジが本格化した2010年代半ばから実施されている。例えば、公表情報をもとに筆者が推計した結果によれば、近年では毎年3兆元規模の不良債権が新規に発生しているのに対し、同等の不良債権処理を続けている結果、残高は緩やかな増加にとどまっている。銀行の不良債権処理余力も、引当金や自己資本、毎年の利益などを考慮すると、まだ十分に残っている。
     
  • これらを踏まえると、現在の中国の不良債権問題を巡る状況は、当時の日本ほど深刻な状況にはないと推察される。実際には、制度で規定された基準に厳密に則り資産査定が実施されていないケースがあるため、公表された不良債権比率は実態よりも高いとの見方が一般的であるが、不良債権比率がある程度上昇しても、それを処理するだけの余力は依然残されていると考えられる。
     
  • 今後を展望すると、不良債権処理の圧力はまだ長引く可能性が高い一方、銀行の収益力は徐々に低下していくことが予想される。とくに経営状況が相対的によくない農村金融機関や都市商業銀行などの中小銀行については、足元の米中摩擦の影響が追い打ちをかける恐れがあるが、AMC(資産管理会社)を活用した不良債権の大規模な切り離しや財政による資本注入など危機回避の手段は残されており、全国的な金融のシステミックリスクが発生する可能性は当面低いと考えられる。ただし、中国経済が活力を取り戻し、長期停滞を回避するためには、銀行の内外に残る不良債権の最終処理が必要である。


■目次

1――はじめに
2――日本におけるバブル崩壊後の不良債権処理のあらまし
3――中国における不良債権問題を巡る動向
  1|中国の銀行業の概況 : 大手の6行から農村の3,600行まで多様な銀行が存在
  2|銀行の資産査定等に関する制度整備:バーゼル規制の見直しに歩調を合わせて整備が進む
  3|銀行による不良債権処理の実態:不良債権は毎年3兆元規模の新規発生と処理を繰り返す
  4|銀行による不良債権処理の余力:ストック、フローの両面で余力は依然あり
4――中国の不良債権処理の特徴:日本との比較を踏まえた考察
5――今後の展望
  1|銀行の不良債権処理負担は徐々に高まる見込み
  2|中小銀行の経営悪化が懸念材料
  3|システミックリスクを防ぐことは可能だが、経済の停滞回避には不良債権の最終処理が必要
6――おわりに

経済研究部   主任研究員

三浦 祐介(みうら ゆうすけ)

研究領域:経済

研究・専門分野
中国経済

経歴

【職歴】
 ・2006年:みずほ総合研究所(現みずほリサーチ&テクノロジーズ)入社
 ・2009年:同 アジア調査部中国室
 (2010~2011年:北京語言大学留学、2016~2018年:みずほ銀行(中国)有限公司出向)
 ・2020年:同 人事部
 ・2023年:ニッセイ基礎研究所入社
【加入団体等】
 ・日本証券アナリスト協会 検定会員

レポートについてお問い合わせ
(取材・講演依頼)

関連カテゴリ・レポート