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「縮みながらも豊かに暮らす」社会への転換(1)-SDGs未来都市計画から読み解く「地方創生2.0」への打ち手

2025年07月07日

(小口 裕) 消費者行動

3|SDGsゴール別に見える「課題の優先順位」──「教育」「保険福祉」「まちづくり」が上位
選定された計画のSDGsゴール(目標)の分布にも、選定都市の関心の傾向が表れている。累計で最も多かったのは目標4「教育」(143件)、次いで目標3「保健福祉」(108件)、目標11「まちづくり」(106件)となった。人材育成、健康基盤、都市機能の再整備といった、地域の存続と暮らしを直結させるテーマが計画の中核として据えられてきたことがうかがえる。
特に、教育では、地域に根差した「学びの場」の再編や探究型人材の育成など、単なる学校教育にとどまらない取り組みが多くの計画で見られており、まちづくりでも、人口集約や公共交通の再編など空間設計の刷新に挑戦する様な先駆的な事例が少ないながらも見られている。

また、直近2年において目標8「働きがいと経済成長」を掲げた計画が相対的に多い傾向にある。これは、単なる地域活性化のみならず、「地域が自ら稼ぐ力」を持ち、雇用や投資を呼び込むフェーズへの政策誘導の取り組みの成果と思われる。単にSDGsを取り入れるだけではなく、それを地場産業の変革や都市構造の持続性確保と結びつけようとする政策的な後押しと潮流が見て取れる。

4――まとめ/地方創生SDGsの成果

4――まとめ/地方創生SDGsの成果――制度として広がりと影響の他、構造上の課題も

本稿では、「地方創生1.0」の流れの中で始まった地方創生SDGs、特にSDGs未来都市制度に注目し、その意義と変化を振り返った。2018年度から2024年度までの7年間で、SDGs未来都市に選ばれた計画は全国で206件にのぼり、制度として一定の広がりと影響を持っってきたことが分かる。

また、選定都市の計画テーマも大きく変化してきた。初期は観光振興が中心だったが、関係人口の創出や副業人材の活用など「人のつながり」を重視するテーマへと移り、さらに最近ではスタートアップや地域産業の創出、再生可能エネルギー、デジタル化など、地域が自ら「稼ぐ力」を高める取り組みへと進化している様子が伺える。

その一方で、選定地方や申請主体の自治体種別の偏り、教育などのいくつかのSDGsゴール(目標)の集中といった包括的な地域創生における構造的な課題も明らかになっている。
 
次回は、こうした地方創生SDGs政策の振り返りを踏まえ、各自治体がどのような課題に直面し、どのような工夫や挑戦をしているのか、データに基づいてより掘り下げていく。

生活研究部   准主任研究員

小口 裕(おぐち ゆたか)

研究領域:暮らし

研究・専門分野
消費者行動(特に、エシカル消費、サステナブル・マーケティング)、地方創生(地方創生SDGsと持続可能な地域づくり)

経歴

【経歴】
1997年~ 商社・電機・コンサルティング会社において電力・エネルギー事業、地方自治体の中心市街地活性化・商業まちづくり・観光振興事業に従事

2008年 株式会社日本リサーチセンター
2019年 株式会社プラグ
2024年7月~現在 ニッセイ基礎研究所

2022年~現在 多摩美術大学 非常勤講師(消費者行動論)
2021年~2024年 日経クロストレンド/日経デザイン アドバイザリーボード
2007年~2008年(一社)中小企業診断協会 東京支部三多摩支会理事
2007年~2008年 経済産業省 中心市街地活性化委員会 専門委員

【加入団体等】
 ・日本行動計量学会 会員
 ・日本マーケティング学会 会員
 ・生活経済学会 准会員

【学術研究実績】
「新しい社会サービスシステムの社会受容性評価手法の提案」(2024年 日本行動計量学会*)
「何がAIの社会受容性を決めるのか」(2023年 人工知能学会*)
「日本・米・欧州・中国のデータ市場ビジネスの動向」(2018年 電子情報通信学会*)
「企業間でのマーケティングデータによる共創的価値創出に向けた課題分析」(2018年 人工知能学会*)
「Webコミュニケーションによる消費者⾏動の理解」(2017年 日本マーケティング・サイエンス学会*)
「企業の社会貢献に対する消費者の認知構造に関する研究 」(2006年 日本消費者行動研究学会*)

*共同研究者・共同研究機関との共著

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