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「縮みながらも豊かに暮らす」社会への転換(1)-SDGs未来都市計画から読み解く「地方創生2.0」への打ち手

2025年07月07日

(小口 裕) 消費者行動

1――はじめに――地方創生2.0基本構想のこれから

2025年6月13日、政府は「地方創生2.0基本構想」を閣議決定した。今後の日本経済を支える地方の成長戦略が新たな段階に入ったといえる。本稿では、その展開を考察するにあたり、2018年から先行して推進されてきた「地方創生SDGs」政策、なかでも「SDGs未来都市」事業に焦点を当て、その成果と課題を振り返る。

SDGs未来都市は全国で206件が選定され、制度として一定の広がりと影響力を持ってきた。分析の結果からは、関係人口の創出や副業人材の活用など「人のつながり」や、地域が自ら「稼ぐ力」を高める取り組みへと進化していることが伺える一方で、包括的な地域創生という観点からテーマや都市の偏りなど、地方創生2.0に向けた課題も見え隠れしている。今後、人口減少下でも成長を続ける地域経済や、多様な人材が活躍できる社会の実現に向けて、これからの地域経済の新たな成長機会を探るうえで、SDGs未来都市から見えてくる地方創生の状況を具体的に分析・考察していく。

2――地方創生2.0の基本構想とは 

2――地方創生2.0の基本構想とは――「縮みながらも豊かに暮らす」社会構造への転換へ

1|「地方創生2.0基本構想」――人口規模が縮小しても経済成長し、社会を機能させる適応策とは
2014年に始動した「地方創生1.0」1は、東京一極集中の是正と地方の自律的な発展を掲げ、地域経済に新たな活力を吹き込む政策として位置づけられてきた。10年を経て、政府は2025年6月13日に「地方創生2.0基本構想」2を閣議決定した。同構想では、人口減少を正面から受け止め、「拡大」ではなく、人口規模が縮小しても経済成長し、社会を機能させる適応策の必要性が強調されている。これは「縮みながらも豊かに暮らす」社会構造への転換を意味し、地域の多様な主体が連携しながら持続可能な発展を目指す方向性が示されているとも言えるだろう。
 
1 地方創生1.0:2014年施行の「まち・ひと・しごと創生法」に基づき始動した、地方活性化を目指す国の政策パッケージを指す
2 2024年12月24日、「新しい地方経済・生活環境創生本部」において「地方創生2.0の基本的な考え方」が決定された。その後、2025年6月13日に第4回新しい地方経済・生活環境創生本部が開催され、その後「地方創生2.0基本構想」が閣議決定された。
2|地方創生1.0政策における反省と総括──地方創生2.0に繋げる4つの課題 
この構想の出発点には、地方創生1.0の政策的限界に対する反省がある。基本構想では、特に以下の4点が課題として整理されている。
 
  • 人口減少の過小評価(社会減・自然減への表層的対応)
  • 若者・女性の流出要因への対応不足
  • 国と地方の役割・関係機関連携の不明確さ
  • 地域の多様なステークホルダーとの協働不足
 
これらの課題は、「新しい地方経済・生活環境創生会議」等の有識者会議や現場の実践的な議論を踏まえて整理されてきた。たとえば、人口減少への対応では、民間有識者による「人口戦略会議」3による「2100年に人口8,000万人で安定化を目指すべき」という提言を踏まえて、人口減少を前提とした新たな地域モデルの必要性が指摘されていた。また、若者や女性の流出に関しては、「アンコンシャス・バイアスによる閉鎖的な意思決定が女性や若者を排除している」といった意見も挙げられていた。
 
3 人口戦略会議:「消滅可能性都市」レポート(増田レポート)や「選択する未来」委員会の提言から10年が経過しても、人口減少・少子化の流れに歯止めがかからない現状への危機感から、有識者が個人の立場で集まり、あえて国の機関ではなく民間団体として設立された。議長は三村明夫氏、副議長は増田寛也氏をはじめとする経済界・学界・自治体関係者などで構成された。
3|地方創生政策の反省を活かす鍵──地方創生2.0を先取りした「地方創生SDGs政策」
今後の地方創生2.0を考えるうえで1つの鍵となるのは、2018年度以降展開された地方創生SDGs政策、とりわけ「SDGs未来都市4」の経緯と振り返りであろう。SDGs未来都市については様々な評価があるが、先進自治体が「持続可能性」「地域独自性」「多主体連携」などを先取りし、地方創生2.0が目指す新たな地域像の具体例となった側面は大きいと思われる。

そこで本稿では、このSDGs未来都市への取り組みを題材に、地方創生1.0の実態を分析しながら、同2.0の方向性といかに接続し得るかをデータに基づいて明らかにしていくことにする。
 
4 SDGs未来都市: 2018年に内閣府が創設した地方創生施策のプログラムであり、該当都市選定は自治体からの提案制で、有識者評価を経て、2024年度までに全国206都市が選定され、全国47都道府県へと広がりを見せてきた。SDGsの理念に基づく持続可能なまちづくりの先導的モデルとして位置づけられているが、地域発のSDGs推進を「見える化」する試みとして、また地方創生1.0を横断的に補完する政策実験として、その制度的意義は決して小さくない。また、自治体SDGsモデル事業や広域連携型など、多様なスキームが展開されてきた点が特徴ではあるが、特に近年は、高齢者支援や空き家対策など小規模自治体の深刻課題にも対応する方向へとシフトしている。

3――選定都市の全体傾向は

3――選定都市の全体傾向は――「量」から「質」へ、そして「稼ぐ力」の手応え

1|初動の熱量──インバウンドによる観光振興から次第に「稼ぐ力」へ焦点が移行
まず、未来都市の選定都市数の推移を見ると、制度初年度の2018年度は29件、2020年度にかけては先行的な自治体による活発な提案が集中して33件と着実に増加したが、その後は緩やかに減少し、直近の2024年度は24件にとどまっている(数表1)。

初期の2018~2020年度は観光振興をテーマとした計画が散見され、インバウンド回復をにらんだ投資的な案件も見られていた。だが、2021~2022年度には関係人口や副業人材の活用、二地域居住といったソフト施策が台頭し、次第に都市と地方の関係に焦点が移っている。そして直近の2023~2024年度には、スタートアップ誘致や地域産業創出、再エネ・DX導入といった、「稼ぐ力」に直結するテーマが急速に拡大し、この潮流が今回の地方創生2.0に繋がっている。
2|中部・首都圏・近畿都市圏に集中──経済的プレゼンスの高い地方都市圏の存在感が際立つ
次に、地方(八地方区分)別の選定状況を見てみると、中部・北陸地方(53件)、関東地方(41件)、近畿地方(34件)が全体の過半となっており、政策資源・産業集積が集中するエリアの選定実績が多くを占めている(数表2)。

一方、北海道(6件)や四国(8件)は相対的に低位にとどまった。中部・北陸、関東はそれぞれ市区町村数が300を超えて全国的にも多く、四国は最も少ないエリアであるが、それを考慮しても北海道や四国は低位に留まっている様子が伺える。
さらに都道府県単位で見ると、埼玉・東京・愛知の3県がいずれも10件で最多となり、兵庫・石川・大阪・長野なども上位となった。地方都市とはいえ、経済的プレゼンスの高い地方都市圏の存在感が際立っている点が選定都市の分布の特徴である(数表3)。

申請主体の内訳を見ても、6割超が「一般市」(134件/7か年累計)となり、一方で町(同27件)・村(同5件)5に留まった。政令市、県単独申請による広域的な取り組みも十分に多いとは言えない。なお、こうした現状を踏まえて地方創生2.0では広域的な取り組みの拡大が期待されている。
 
5 町村部の申請に関しては、課題の多・少や政策的なニーズの高低というより、予算規模や人材面でのリソース不足、また申請書類の作成体制やノウハウ不足が影響した可能性もあるとも言われている。なお、この点を補完するため、2024年度からは「課題解決モデル都市事業」が新設され、高齢者の移動支援、空き家管理といった小規模自治体が直面する共通課題に対応する枠組みが用意されている。

生活研究部   准主任研究員

小口 裕(おぐち ゆたか)

研究領域:暮らし

研究・専門分野
消費者行動(特に、エシカル消費、サステナブル・マーケティング)、地方創生(地方創生SDGsと持続可能な地域づくり)

経歴

【経歴】
1997年~ 商社・電機・コンサルティング会社において電力・エネルギー事業、地方自治体の中心市街地活性化・商業まちづくり・観光振興事業に従事

2008年 株式会社日本リサーチセンター
2019年 株式会社プラグ
2024年7月~現在 ニッセイ基礎研究所

2022年~現在 多摩美術大学 非常勤講師(消費者行動論)
2021年~2024年 日経クロストレンド/日経デザイン アドバイザリーボード
2007年~2008年(一社)中小企業診断協会 東京支部三多摩支会理事
2007年~2008年 経済産業省 中心市街地活性化委員会 専門委員

【加入団体等】
 ・日本行動計量学会 会員
 ・日本マーケティング学会 会員
 ・生活経済学会 准会員

【学術研究実績】
「新しい社会サービスシステムの社会受容性評価手法の提案」(2024年 日本行動計量学会*)
「何がAIの社会受容性を決めるのか」(2023年 人工知能学会*)
「日本・米・欧州・中国のデータ市場ビジネスの動向」(2018年 電子情報通信学会*)
「企業間でのマーケティングデータによる共創的価値創出に向けた課題分析」(2018年 人工知能学会*)
「Webコミュニケーションによる消費者⾏動の理解」(2017年 日本マーケティング・サイエンス学会*)
「企業の社会貢献に対する消費者の認知構造に関する研究 」(2006年 日本消費者行動研究学会*)

*共同研究者・共同研究機関との共著

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