日本女性の“やせ”の特徴

2025年07月02日

(村松 容子) 医療

1――はじめに

日本肥満学会1は、成人女性における低体重や低栄養に関連する健康障害を、「低体重・低栄養症候群(FUS:Female Underweight/Undernutrition Syndrome)」として新たな疾患と位置付け2、早期発見・予防・介入の枠組みを構築することを目的として、診断基準や予防指針の整備などに取り組む方針を公表した3

日本の成人女性の低体重の割合は1980年頃に10%を越える程度であったが、以後増加し、1990年代以降は20代の20~25%程度が低体重に該当する状態が続いている。上記資料によれば、こういった日本の成人女性における低体重の割合は、先進国の中でも特に高いという。

そこで、本稿では、日本の成人女性の低体重を中心に、成人男性、未成年者の低体重と肥満の動向を紹介し、日本の成人女性の特徴をみていきたい。
 
1 日本肥満学会ほか、日本骨粗鬆症学会、日本産科婦人科学会、日本小児内分泌学会、日本女性医学学会、日本心理学会
2 日本肥満学会(2025年4月)「閉経前までの成人女性における低体重や低栄養による健康課題―新たな症候群の確立について―(https://www.jasso.or.jp/data/Introduction/pdf/academic-information_statement_20250416.pdf)」(2025年6月23日アクセス)
3 乾愛「女性の低体重・低栄養症候群(FUS)とは?-日本肥満学会が新たな疾患概念を提唱、プレコンセプションケアが解決の一助となるか-(https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=82308?site=nli)」ニッセイ基礎研究所 基礎研レポート(2025年6月17日)

2――成人女性/成人男性の低体重と肥満

2――成人女性/成人男性の低体重と肥満

1|やせの割合と肥満の割合の動向
まず、厚生労働省の「国民健康・栄養調査」によるやせ(BMI<18.5)と肥満(BMI≧25)の割合の推移を男女別・年代別に示す(図表1)。傾向をみるために、5点移動平均でスムージングを行った。
男女・年齢群別にみると、男性では、2000年頃から20代で上昇傾向がみられ、その世代が30代になった2010年頃からは、30代もわずかに上昇傾向にある。40~60代は2000年頃以降、横ばいで推移している。70代以上は継続的に低下傾向にある。一方、肥満については、すべての年代で継続的に上昇傾向にある。ただし、20代は30代以上と比べて上昇のペースが遅い。

女性では、やせの割合は2000年頃以降、60代以下で継続的に上昇している。20代は2010年頃、一時やせの割合が低下したが、最新の2023年調査では20代、30代がともに前年と比べて大きく上昇していたため、今後の推移が注目される。70代以上は2000年頃まで低下傾向にあったが、その後は横ばいで推移している。一方、肥満は40代以上は、2000年頃以降、おおむね低下しているが、20代と30代はやや上昇傾向にある。
2|18歳以上のやせ(BMI<18.5)と肥満(BMI≧25)の推移の諸外国比較
続いて、WHOのGlobal Health Observatoryのデータベースからいくつかの国について1990年以降の18歳以上男女のやせと肥満の割合の推移を示す(図表2)。

図表2は、いくつかの典型的な推移をしている国を図示した。アメリカ、フランス、中国、韓国のように、日本を含む多くの国で、女性のやせが男性のやせを上回ったが、メキシコのように男性のやせの割合が女性を上回る国もある。推移をみると、アメリカの女性、韓国の女性、中国の男女、メキシコの男女のように、日本の男性を含む多くの国で、やせの割合は低下傾向にあったが、日本の女性をはじめ、アメリカの男性、フランスの男女、韓国の女性のようにやせの割合が上昇している国もある。フランス、中国、メキシコのように男女の推移が同じ傾向を示す国もあれば、日本をはじめアメリカ、韓国のように逆の推移を示す国もある。筆者が取り上げた国の中では、韓国が日本と同様に、男性のやせが低下し、女性のやせが上昇傾向にあったが、日本は韓国と比べて、男女とも割合が高い。特に女性は、韓国の2倍程度で推移している。

199か国について2022年時点のデータで比較すると、日本の18歳以上男性のやせは、多い方から上位3~4割程度に位置していたが、女性は9番目(上位4.5%)に高い。また、さらに、やせの割合は上昇傾向にある点で他に類を見ない。

3――子どもの低体重と肥満

3――子どもの低体重と肥満

最後に、文部科学省による「学校保健統計」による痩身傾向と肥満傾向の割合の推移を示す(図表3)。子どもについては、肥満度を、年齢と身長で決定される標準体重との差から算出している4

痩身傾向の男子の割合は、14歳、17歳で上昇傾向にあった。一方、肥満傾向の子どもの割合は2010年頃以降、8歳、11歳、14歳で上昇傾向にあった。図表1に示した成人の傾向を踏まえると、最近の20代男性のやせ傾向は、10代頃から始まっている可能性が考えられる。

痩身傾向の女子の割合は、14歳、17歳で上昇傾向にあった。肥満傾向の子どもの割合は2010年頃以降、8歳と11歳で上昇傾向にあった。

2020年は、痩身傾向の子どもの割合も、肥満傾向の子どもの割合も、ともに多くの年齢で上昇していた。新型コロナウイルス感染症(COVID19)の流行にともなう一斉休校などの措置が多かった年であり、コロナ禍で自宅等にいることが増えたことで痩せた子どもも太った子どもも増加したと考えられる。
 
4 肥満度=(実測体重-身長別標準体重)/ 身長別標準体重 が+20%以上を肥満傾向、-20%以下を痩身傾向としている。身長別標準体重は、(公財)日本学校保健会「児童生徒の健康診断マニュアル(平成27年度改訂版)」に従い、年齢ごとに定められた係数と実測身長から算出する。

4――おわりに

4――おわりに

以上のとおり、本稿では、いくつかのデータを使って、日本の成人女性のやせの割合を中心に最近の推移を紹介した。

冒頭で紹介した資料では、閉経前の成人女性のやせに着目して、要因として「生来の体質による体質性痩せ」「SNS、ファッション誌などのメディアの影響によるやせ志向」「社会経済的要因・貧困などによる低栄養」の3つの視点をあげ、対策を講じることとしている。この世代は、今回見たとおり、日本の中でも特にやせの割合が顕著で、さらに増加傾向にある。この世代は、月経周期異常、妊孕性(にんようせい:妊娠するために必要な力)および児の健康リスクがあることから、特に注視が必要とされている。しかし、今回の長期トレンドをみると、若年男性や、中高年女性においてもやせが増えている傾向があり、閉経前の成人女性とは異なる健康課題をもつ。

「やせ」や「肥満」といった表現は、見た目や文化的背景、価値観の影響を受けやすい。身体のためには、栄養状態や健康状態を若いうちから科学的に把握する機会を持つことが重要だろう。
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