(3)半導体投資拡大がもたらすオフィス需要への影響
AI 技術の進展等に伴い、半導体市場の拡大が注目されている。九州地方では、TSMC(台湾積体電路製造)の熊本進出以降、半導体関係企業の設備投資
7が活発であり、地域経済の牽引役として大きな期待が寄せられている。九州地方の2024年の集積回路(IC)の生産額は前年比+14 %増加の1兆3,126億円となり、過去最高(2000年・1兆3,924億円)に迫った
8。
九州地方の中核都市である福岡には半導体関連企業が集積している。経済産業省「九州半導体関連企業サプライチェーンマップ」によれば、福岡県内に所在する半導体関連企業・事業所は「456」に達する。
九州経済調査協会の調査によれば、九州地域(九州・沖縄・山口)における半導体関連の設備投資による経済波及効果は10年間(2021年~2030年)で約23兆円に達すると推計されている。県別では、熊本県(約13.4兆円)が最も大きく、次いで長崎県(約2.6兆円)、福岡県(約2.1兆円)の順となっている
9。
また、東京商工リサーチ「2024年度本社機能移転状況調査」によれば、地方別の転入超過企業数(転入企業数-転出企業数)は、九州地方(+148社)が最多であり、すべての県で転入超過となった。県別では福岡県が+32社と最も多い。東京商工リサーチは「TSMCの進出などで、様々な産業で活況が続いていることが表れた」としている
10。
TSMCは、熊本第1工場で2024年12月から生産を開始しており、さらに第1工場の隣接地で熊本第2工場を2025年内中に着工する予定である
11。政府は、2024年11月の閣議決定で、半導体・AI分野に対して、2030年度までの7年間に10兆円以上の公的支援を行い、10年間で50兆円を超える官民投資を促すことで、約160兆円の経済波及効果を実現するとしている
12。今後、半導体関連の設備投資や企業進出が活発化することで、福岡のオフィス需要の高まりが期待される。
ただし、足元では、トランプ米政権の関税政策が電子機器や自動車の需要を減退させ、半導体市場の成長を鈍らせるとの懸念もあり
13、今後の動向を注視したい。
7 経済産業省 商務情報政策局 情報産業課「政策動向について」(令和6年10月)によれば、主な設備投資計画は、4兆7,500億円超。
8 朝日新聞「九州の24年IC生産、14%増1兆3126億円 過去最高に迫る」(2025年2月19日)
9 公益財団法人九州経済調査協会「九州地域(九州・沖縄・山口)における半導体関連設備投資による経済波及効果の更新について」(2024年12月24日)
10 TSRデータインサイト「2024年度「他都道府県への本社移転」 1万6,271社 TSMC効果?九州が転入超過トップ、県別トップは埼玉県」(2025年5月28日)
11 日本経済新聞「TSMC「熊本第2工場、25年後半着工」 技術説明会で」(2025年6月11日)
12 経済産業省「国民の安心・安全を持続的な成長に向けた総合経済対策~全ての世代の現在・将来の賃金・所得を増やす~」(2024年11月22日)
13 日経クロステック「トランプ関税が半導体直撃、個人消費冷やし供給網揺さぶる」(2025年4月23日)